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産後女性と家族をサポートする看護職「ナーシングドゥーラ」とは?

HARBOR BUSINESS Online / 2021年2月4日 18時31分

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ミルクを与える奈良さん

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、昨年から外出の自粛やそれに伴う巣ごもり生活が続いている。こうした生活の変化は人との対面でのコミュニケーションを制限し、「子育て」ならぬ「孤育て」に拍車をかけてしまっている。

 産後の女性はホルモンの変化や新生児育児のプレッシャーなどにより、特にケアが必要な時期にある。しかし産前の両親学級は軒並み中止されて子育てを学ぶ機会がなくなったり、感染不安から両親や親族の助けを得られにくかったりと、生まれたばかりの赤ちゃんを育てる親は厳しい状況に置かれている。

 都内で活動する助産師は、「コロナ禍で、産後の生活にストレスを感じる女性は確実に増えています」と現状を危惧する。

 このような状況の中で、需要が高まっている子育て支援がある。「ナーシングドゥーラ」による訪問ケアだ。

 ナーシングドゥーラとはどのような職業で、家庭でどのようなサポートを行うのか。看護師で国際ナーシングドゥーラ協会代表理事の渡邉玲子さんと現役のナーシングドゥーラである奈良雅子さんの話を交えながら紹介する。

◆産後6~8週の女性を看護師資格を持った女性が訪問ケア

 そもそもドゥーラ(doula)とは、赤ちゃんのケアや家事など、産後の女性の身の回りのことをサポートする女性を指す。

 ナーシングドゥーラとはその名の通り、看護師資格を持ったドゥーラのこと。看護師資格の有無はドゥーラのケアにどのような影響を与えるのか。その説明の前に、看護師の仕事を整理しよう。

 保健師助産師看護師法では、看護師の仕事は「厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」と定義している。

 「じょく婦(褥婦)」とは、産後から妊娠していない状態に戻るまでの6~8週間の期間の女性のことで、ナーシングドゥーラのケア対象となっている。

 看護師の仕事のうち、「診療の補助」は医師の診断や指示がなければ遂行できないが、ナーシングドゥーラが担う産後女性の身の回りのケア、沐浴や授乳といった新生児の世話、水回りの掃除や料理などの家事などは、「じょく婦の療養上の世話」に当たる。

◆看護師の知識と経験がベースにあるから、より手厚いケアができる

 もともとドゥーラとして活動していた渡邉さん。相手は心身共にデリケートな時期にある女性だ。「ドゥーラとして活動する女性たちにじょく婦の心身の状態に関する専門知識があれば、もっと手厚いケアができるのではと思うようになりました」と渡邉さんは振り返る。このことは、ナーシングドゥーラという新たな看護職の創立のアイデアとなった。

 専門知識の大切さについて、母乳ケアを例に挙げて説明する。赤ちゃんを出産し、子育てをスタートした女性は、「思うように母乳が出ない」や「赤ちゃんが母乳を飲んでくれない」など授乳の壁に直面することがある。

 産科で6年の勤務経験を持ち、現在は神奈川県相模原市を中心にナーシングドゥーラとして活動する奈良雅子さんは、「産科での看護師時代にたくさんのお母さんたちと接する中で、授乳がいかに軌道に乗るかがお母さんのメンタルに大きく影響することを痛感しました」と話す。

 看護師であれば、母乳が出るメカニズムや産後の女性の状態についての専門知識がある。ナーシングドゥーラに転向した女性の中には、奈良さんのように産科勤務経験がある人のほか、NICU(新生児集中治療室)や、小児科、保育園看護師として働いていた人もおり、経験やスキルを活かした質の高いケアが可能となる。

◆赤ちゃんのいる家庭に寄り添い、ともに子育てをする

 一般的に「産後ケア」の対象は、お母さんになりがちだ。しかしナーシングドゥーラはサポートの対象をお母さんだけではなく、赤ちゃん、パパ、祖父母など「家族」としている。これはなぜか。

 渡邊さん自身がスウェーデンで育児をする中で、同国の産後ケアの仕組みに感銘を受けたのだという。

「スウェーデンには『コミュニティナース』という職業があり、産前から産後までの期間、赤ちゃんが生まれた家庭へ訪問看護を行います。

 日本での育児指導は入院中のお母さんに行うことが多いですが、スウェーデンではコミュニティナースがお父さんやおじいちゃん、おばあちゃんなど同居家族に子育てに関する情報を提供し、適切なサポートに繋げていきます。

 赤ちゃんは、自分の身を自分で守れませんよね。だから赤ちゃんのお世話は、両親が行って命を守ります。そんな両親も誰かのサポートが必要です。では誰がその役割を担うのでしょうか?スウェーデンでは、社会が赤ちゃんや両親、家族に寄り添い、支援をするのです」

 対して日本では「赤ちゃんのお世話はお母さんが頑張るもの」との考えが根強く、子育ては基本的には家庭でどうにかすべき、ととらえられている。

 このような状況では、本当は助けを求めたくても周りの目を気にして「助けてください」と言い出しにくい。そして、SOSを出した時には、状況がかなり悪化してしまっているリスクがある。

「もし困りごとを抱える前から、子育て中の家庭に寄り添う人がいたら……」

 スウェーデンでの子育て経験から渡邉さんは、お母さんだけではなく、赤ちゃんのいる家族に寄り添ったケアをする人の必要性を痛感。

 さらに、ケアの提供者が専門知識を持った看護師であれば、より手厚いサポートができると考え、それまで日本になかったナーシングドゥーラを作るに至った。

◆育児相談に沐浴指導。家族以外で子育てに協力してくれる人がいることの安心感

 ナーシングドゥーラは、家庭でどのようなサポートを行なっているのか。

 筆者は次男誕生後から生後2ヶ月までの間、ナーシングドゥーラを利用したことがある。実際にサポートをしてもらう前に行う1時間ほどの面談でケア内容について担当のナーシングドゥーラと相談し、筆者宅では依頼時間を1回につき3時間と決めた。依頼料金はナーシングドゥーラによって違うが、筆者は1時間あたり2600円を支払った。

 実際にナーシングドゥーラにお願いしたサポート内容は以下の通り。

・妻のケア(育児相談や母乳ケアなど)

・次男のケア(沐浴やおむつ交換、授乳、寝かしつけなど)

・筆者への育児指導

・掃除や料理といった家事

 どの項目もありがたかったが、妻は「母乳の出具合や胸の張りについての相談に乗っていただけたことが特に助かりました」と話していた。

 筆者は、沐浴指導を受けられたことが良かったと感じている。長男が新生児だった時に沐浴をしていたし、次男の沐浴も「できるだろう」とたかを括っていたが、次男をいざベビーバスに入れてみると、数年のブランクのせいか手つきがぎこちなくなってしまった。しかしナーシングドゥーラから沐浴指導を受け、一人で次男の体を洗うことができるようになった。

 また料理や家事も助かった。お願いしたナーシングドゥーラは料理が得意な方で、限られた時間内に主菜、副菜合わせて2~3品を作ってくれた。その間、妻は睡眠をとって夜間授乳での寝不足を解消し、筆者は仕事に集中する時間の確保ができた。

 何よりも、「今日はナーシングドゥーラさんが来てくれる」との安心感は大きく、困ったことがあれば相談できる環境ができたことが嬉しかった。ナーシングドゥーラのように、家族以外で子育てをサポートしてくれる存在は心強い。

 なお、感染症対策のため、サポート中はマスクを着用。さらにサポート前日と当日の朝には担当ナーシングドゥーラから体温と新型コロナウイルスに感染可能性のある人との接触有無についての報告がある。

◆退院後も自宅でのサポートを求めているお母さんがいることを知った

 ナーシングドゥーラになるには、国際ナーシングドゥーラ協会が行う養成講座の受講と研修を受ける必要がある。

 単位は「子育て支援」や「保育学」など全部で81あり、それぞれにレポートや実技の動画を提出する。たとえば「訪問マナー」の単位では、自宅の玄関に入る様子を録画して協会に送り、サポート先に訪問したときの立ち居振る舞いについて指導を受ける。

 どのような人がナーシングドゥーラを志望するのだろうか。渡邉さんによれば、「医療機関では自分が目指す産後ケアができないと感じた方や、自身の子育てで『こんなひとがいたら助かるのに』と感じた方が多いですね」という。

 産科に勤務していた奈良さんは、ナーシングドゥーラになろうと思ったきっかけを次のように教えてくれた。

「お母さんたちは産科に入院している間、病院のスタッフからケアを受けられますが、退院後には自分で何とかしなければならなくなります。母乳外来を担当していた時、外来に来られたお母さんたちが退院後も自宅でのサポートを必要としていることを知り、『自分には何ができるだろうか?』と考えるようになりました。そんな時にナーシングドゥーラを知り、『これこそ私が探していた職業だ』と思い、転身を決意しました」

 協会には奈良さんのような思いを持った人からの問い合わせが全国から寄せられている。

◆これからも、赤ちゃんを育てる家庭に寄り添える人を増やしていきたい

 奈良さんがナーシングドゥーラとして活動する時に心掛けているのが、「聞き役」に徹することだ。

「これは看護における傾聴の姿勢です。サポート先のご家族がどのような悩みを持っているのか、どんなことを考えているのかに耳を傾け、適切なケアができるようにしています。

 赤ちゃんが母乳を上手に飲めているかの観察や乳腺炎の予防法といった授乳ケアは、マニュアル通りにはいきません。お母さんの体質や性格、赤ちゃんのタイプによって柔軟に対応する必要があります。その際に傾聴の姿勢は大切なんです」

 ナーシングドゥーラのケアは継続して行うことが多いため、サポート先の家族との関係性ができてくる。「ある時、『奈良さんは家族のような存在です』と言われた時には嬉しくなりましたね」と、奈良さん。

 

 渡邉さんも、「二つと同じ家庭はありません。なのでナーシングドゥーラには、サポート先によって臨機応変に動く工夫がいるんです。そうしたクリエイティブなところは面白いと思いますね。何よりも、ケアにお伺いするご家庭の方から『ありがとう』と言われるのが、嬉しいですね」と仕事のやりがいや喜びを話す。

 お母さんだけでなく、赤ちゃんのいる家庭全体をケアするナーシングドゥーラ。産後ケアの一つの手段として、「利用したい」との声が増えている。渡邉さんは子育てに寄り添いたいとの思いから、ナーシングドゥーラの育成に奔走している。

【渡邉玲子さん】

株式会社イマココ・クリエイト代表取締役/ 一般社団法人 国際ナーシングドゥーラ®協会代表理事。

聖路加国際看護大学卒業後、聖路加国際病院に就職。

スウェーデンでの育児経験をきっかけに、じょく婦へのケアの必要性を感じ、ナーシングドゥーラを国内で初めて創設。

自身も現役のナーシングドゥーラとしてサポートをしながら、人材の育成にも注力している。

【奈良雅子さん】

国際ナーシングドゥーラ協会認定ナーシングドゥーラ。

神奈川県相模原市を中心に、赤ちゃんを育てる家庭の家事と育児をトータルにサポート。

これまでの経験を活かし、心を込めてケアにあたっている。

<取材・文/薗部雄一>

【薗部雄一】

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。

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