森喜朗の“女性蔑視発言”ショックで高まる五輪中止リスク

HARBOR BUSINESS Online / 2021年2月16日 8時33分

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「皆さま方に心からお詫びを申し上げ、そしてお礼を申し上げて私の命ある限り、日本のスポーツ振興のためにさらに研鑽していきたい、そんなふうに考えております」

 2月12日、こう辞任の挨拶を締めくくったのは、ご存じ森喜朗・前東京五輪組織委会長だ。

◆森前組織会長の女性蔑視発言

 2月3日のJOC(日本オリンピック委員会)臨時評議会における「女性がたくさんいる理事会は時間がかかる」との女性蔑視発言で辞任に追い込まれたが、最後の挨拶は誰よりも長い15分を超えるものだった。

 その大半を自身の功績の宣伝に費やしながら、問題発言については「解釈の仕方」「多少意図的な報道があった」と揚げ足を取られたかのように主張。明確な女性蔑視発言をした自分を棚に上げ、「『老害』と老人が悪いかのような表現をされるのは不愉快」と漏らす一幕もあった。

 この一連の辞任劇は森氏の独り舞台だったと言っていいだろう。炎上発言翌日の謝罪会見では、追及する記者に対して「そういう話はもう聞きたくない」と逆ギレ。

 辞任の意思を固めた2月11日には川淵三郎・元日本サッカー協会会長を後継指名して、「密室人事」「組織委の選考ルールを無視した禅譲」と大バッシングを浴びた。やることなすこと、すべてが裏目に出たのだ。

◆「森氏の不在が五輪と日本のスポーツ界にとってマイナスに働くことはない」

 その後任は「今週中にも選任される見込み」(スポーツ紙記者)のようだが、組織委発足から7年にわたってトップの座にあった森氏の退任はどんな影響を及ぼすのか? スポーツライターの玉木正之氏は次のように話す。

「森氏は東京五輪に関するすべての最終的な意思決定を下してきた人物。自著『遺書 東京五輪への覚悟』(幻冬舎)で明かしているように、’16年リオ五輪閉会式での“安倍マリオ”演出を仕掛けたのも森氏です。

 本来、五輪の政治利用はご法度で、恥ずべき行為なのに、強大な政治力でやってのけてしまった。その結果、昨年には安倍首相の1年延期提案をきっかけに、五輪憲章には記載のない初の延期が決定しました。

 最終的な決断はIOC(国際オリンピック委員会)が下しましたが、五輪に対する政治介入が公然と行われるようになってしまったのです。いまだに『菅首相は五輪の余勢をかっての解散選挙を目論んでいる』などと言われますが、森氏が一線を退くことでこうした政治利用に歯止めがかかる可能性がある。少なくとも、森氏の不在が五輪と日本のスポーツ界にとってマイナスに働くことはありません」

◆森氏の存在は「余人をもって替えがたい」?

 だが一方で、森氏の存在を「余人をもって替えがたい」とする声もある。都議会オリンピック・パラリンピック推進対策特別委員会委員の川松真一朗都議が話す。

「人権尊重を謳う五輪憲章にも抵触するという点で、女性蔑視発言はうやむやにしてはならない大きな問題です。

 ただ、森さんに代わる人物がいないのは紛れもない事実。元首相であれば政財界や国際社会にも顔が利きますが、森さんはこれに加えて、スポーツ界にも大きな影響力を有しているからです。

 ’05年には日本体育協会会長として団体球技間の連携を深めて競技力の向上を図ることを目的に日本トップリーグ連携機構を立ち上げるなど、一貫して日本のスポーツ振興に取り組んできました。’09年にラグビーW杯の日本開催を取り付けたときには『ラグビー後進国の日本は開催権を返上しろ』と批判する国々を説き伏せ、10年後の’19年大会を見事、大成功に導いた。

 政財スポーツ界の要人と五分の関係を築き、交渉を有利に進めることができる人物は森さん以外にいないのです」

 川松氏が危惧するのは、東京五輪の中止リスクだ。

「中止となれば、IOCからの850億円の分担金や900億円が見込まれるチケット収入がなくなります。スポンサー収入の大幅減も避けられません。こうした不測の事態に対応できる人がいるのか?

 IOCのバッハ会長やコーツ副会長とも強い信頼関係を築いてきた森さんならば、分担金の交渉なども有利に話を進められるでしょう。中止という最悪のシナリオが現実化した場合に、日本の損失を最小化する交渉力に長けた人物は森さん以外に見当たらない」

◆五輪開催時期と重なる季節性コロナの流行時期

 果たして、東京五輪は開催できるのか? 医療ガバナンス研究所の上昌広所長は「絶望的」と話す。

「新型コロナの新規感染者数は2月に入ってピークアウトしているように見えますが、これは季節要因にすぎないというのが私の見方。

 なぜなら、新型コロナ感染者数の増減は、例年6~8月と10~2月にかけて流行する季節性コロナウイルスの流行時期とぴったり一致しているからです。その周期と照らし合わせれば、現在、南アフリカやブラジルなどで感染者を増やしている“変異種”が東京五輪開催時期にかけて流行する可能性が濃厚。

 ワクチンに期待を寄せる声もありますが、4月から一般人への接種を開始したところで、五輪開催までに接種できるのはごく一部の人にとどまります。11月までに人口の7割が接種を終えないと来冬も感染拡大が続く可能性が指摘されていますが、ファイザー製ワクチンが2回の接種を求められていることを考えると、これも絶望的。

 五輪開催を強行すれば、各国選手団に対するコロナ対策とワクチンの集団接種で日本の医療現場が大混乱するのは間違いない。さらなる感染拡大リスクを高める可能性があるだけに、五輪開催は現実的ではありません」

 目下、新会長候補として名前が挙がっているのは「橋本聖子・五輪担当相に鈴木大地・初代スポーツ庁長官、丸川珠代・元五輪担当相ら」(前出スポーツ紙記者)だ。

 全日本アーチェリー連盟会長を務める安倍前首相の名も一部で浮上したが、「桜を見る会問題を巡る検察審査会の判断が控えていることを不安視する声が多く、立ち消えになった」(同)とか。

 間もなく選任される見込みの新会長はIOCとともに、どんな決断をくだすのか……? 前任の汚名を返上する活躍に期待したい。

◆森喜朗・前組織委会長の問題発言の数々

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」(2/3 JOC評議会で)

今回の騒動で最も問題視された発言。後段では「恥を言いますが」と前置きして、5人の女性理事がいる日本ラグビー協会の理事会は倍の時間がかかると発言

「女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制しておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかはいいませんけど」(2/3 JOC評議会で)

「女性の発言時間を規制するべきとの声があがっている」と言及したくだり。女性の参加機会を奪う発言だとして炎上

「私どもの組織委員会に女性は何人いますか?7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます」(2/3 JOC評議会で)

女性は発言を自粛するべきとの思いが「わきまえておられる」に込められているのでは?と炎上することに

「最近、女性の話、聞かないからわかりません」(2/4「女性は話が長いと思っているのか?」の質問に対して)

「わからない」のに「女性は話が長いと言ったのか?」と火に油を注ぐことに

「まあ、これは解釈の仕方だと思うんですけれども、そういうとまた悪口を書かれますけれども、私は当時そういうものを言ったわけじゃないんだが、多少意図的な報道があったんだろうと思いますけれども」(2/12 組織委臨時懇談会にて)

なおも「誤った解釈で女性蔑視発言と受け止められた」と自身に非がなかったことを強調しつつ、報道の姿勢に問題があったと主張する一幕も……

「誰かが老害、老害と言いましたけれども(中略)老人が悪いかのような表現をされることも、きわめて不愉快な話であります」(2/12 組織委臨時懇談会にて)

自身の発言で女性に不愉快な思いをさせておきながら、ネット世論の「老害」発言を「すべての老人に対する悪口」と拡大解釈して不満を滲ませる場面も

◆森失言で注目される’22年北京冬季五輪への対応

 森前組織委会長の女性蔑視発言について、IOCは「絶対的に不適切な発言だった」と批判。

 これを受けて注目を浴びているのが来年の北京五輪。ウイグル族に対する弾圧や香港民主化運動への弾圧を行う中国の姿勢は、森発言擁護のために例を出すのは批判の論点を逸らすための姑息な「whataboutism」ではあるものの、本質的には看過できない大きな問題であるのは間違いない。

 現状、IOCは黙認しているが、人権団体はその姿勢を批判している。今後の行方が注目される。

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/アフロスポーツ ロイター/アフロ>

※週刊SPA!2/23・3/2合併号より

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