なぜ大企業は非正規労働者への休業手当支払いを拒否するのか?

HARBOR BUSINESS Online / 2021年2月17日 8時31分

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 なぜ支払い能力のあるはずの大企業が、休業手当の支払いを拒んでいるのか。

 2021年1月27日の東京新聞によると、パート・アルバイトに休業手当を支払っておらず、厚生労働省から支払いを要請されていた大企業が少なくとも25社あるという。さらに、そのすべての企業が要請を受けてなお休業手当を支払っていないことも明らかになった。

 筆者が事務局次長を務める首都圏青年ユニオンは10社以上の大企業と休業手当に関する交渉をしているが、率直に言って、大企業は中小企業以上に休業手当を支払いたがらない。なぜ中小企業以上に支払い能力のあるはずの大企業が頑なに休業手当支払いを拒否しているのだろうか。

 本稿では、大企業が休業手当を支払いたがらない本当の理由は、資金難などではなく、シフト制労働という柔軟なコスト調整手法への固執にあることを論じ、シフト制労働を規制する必要性とその方向性を提案したいと思う。

◆カフェで週4~5日働く

 社員567名・アルバイト7766名を雇う株式会社フジオフードシステム(会社ホームページより)が経営するカフェ「デリスタルト&カフェ」でパートとして働く田中聡美さん(仮名)は、週4~5日・1日5時間ほど働き、月10万円ほどの収入を稼いでいた。田中さんには2人の子どもがおり、共働きとはいえ田中さんのパート収入は家計にとって欠かせない。

 フジオフードシステムで働く労働者のうち9割超がパート・アルバイトであり、店舗の正社員は店長1人のみである。店長・正社員が全くいない時間帯もあり、田中さんは店長不在時には実質的な店舗責任者となっているという。フジオフードの運営は、田中さんのように大きな責任を担うパート・アルバイトたちに支えられているのだ。

◆正社員には休業手当が支払われているが……

 2020年4月の緊急事態宣言を受けた「デリスタルト&カフェ」の店舗休業の結果、田中さんは6月の営業再開まで完全休業を強いられた。4月以降の休業について正社員には通常給与10割の休業手当が支払われているが、田中さんらパート・アルバイトには4月分として約1万円の休業手当が支払われただけで、5月分の休業手当は一切支払われていない。店舗が再開した6月以降もコロナ前と比べてシフトは半減しているが、減少しているシフト分の補償は一切されていない。パート・アルバイトに対する明白な休業手当差別だといえよう。

 田中さんは飲食店ユニオンに加入し、フジオフードシステムに対して、4月以降の休業やシフトカット分について、正社員同様に通常給与10割の休業補償を行うよう要求した。フジオフードシステムは団体交渉の席上で、シフト制労働者のシフトが出ていない期間については休業手当を支払う義務がないとして、パート・アルバイトへの休業手当支払いを拒否した。飲食店ユニオンは引き続き休業手当支払いを求めており、交渉は継続中である。

◆シフト制労働者には休業手当を支払わなくていい?

 フジオフードシステムのように、パート・アルバイトに休業手当を支払わない大企業は少なくないが、休業手当支払いを拒否する大企業がその理由としてほぼ必ず主張するのは、「シフト制労働者には休業手当支払い義務がない」というものだ。どういうことだろうか。

 「シフト制」労働では、1週間ごと・半月ごと・一か月ごとに決定される「シフト」によって労働時間が決まる。通常の労働契約であるならば、労働契約の段階で労働時間が定められ、使用者の都合でその労働時間未満しか働けなかった場合には、使用者の側に、働けなかった労働時間分の休業手当支払い義務が発生する。

 しかしシフト制の場合、労働契約では労働時間が定められておらず、シフトによってはじめて労働時間が確定されるため、シフトが出ていない期間についてはたとえ労働時間を0にしたとしても休業手当支払い義務は発生しないというのである。

実際、2020年11月18日に発表された野村総合研究所の調査では、休業中の正社員女性の62.8%が休業手当を受け取っているのに対して、休業中のパート・アルバイト女性のうち休業手当を受け取っているのは30.9%にとどまり、69.1%が休業手当を受け取っていないことが明らかにされた。パート・アルバイトが休業手当受給から差別的に排除されているが、この理由の1つはパート・アルバイトの多くがシフト制で働いているということだろう。

◆コスト調整手段を死守したい大企業

 

 こうしたシフト制労働は、企業の側からすると、非常に使い勝手のいいコスト調整手段である。シフトカットで労働時間を減らしても減らした分の給与補償をしなくていいのであれば、それによって柔軟にコストカットできるためである。支払い能力があるにもかかわらず休業手当を支払おうとしない企業の多くは、「柔軟なコスト調整」手段としてのシフト制労働に固執しているがゆえに、休業手当の支払いを頑なに拒んでいると思われる。シフト制労働者への休業手当支払い義務を認めてしまえば、今後シフトカットをした際にはその分の休業手当を支払わなくてはならなくなり、シフトカットによるコストカットができなくなってしまうためである。

 飲食店で働く労働者のうち約8割がシフト制で働くパート・アルバイトであるが、経営が不安定で労働集約的な飲食業は、この柔軟なコスト調整手段としてのシフト制労働に大きく依存してきたため、企業のシフト制労働への執着は強力である。

 また2000年代に入り、「有期雇用としての非正規労働」の不安定性が様々に問題化され、契約期間満了での雇止めにはいくつかの規制がかけられるようになるなか、シフト制労働は、雇止めや解雇をせずに労働力コストの柔軟性を高める手法として、企業にとっての重要性を高めているとも考えられるだろう。

◆シフト制労働者の収入は家計補助に過ぎないのか?

 企業にとって都合の良すぎるシフト制労働者の働かせ方は、「シフト制労働は家計補助労働」であるという家計補助労働論によって容認されてきた。すなわち、パート・アルバイトなどのシフト制労働は、夫もしくは父親である男性正社員の収入を補助するために子どももしくは妻が行っている「家計補助労働」であり、収入が減っても労働者生活に大きな影響を与えないと考えられてきたのである。

 しかしこうした家計補助労働論は、ますます現実と合致しないようになっている。シフト制労働による収入がなければ普通の暮らしが送れないという労働者世帯が増えているのである。

◆シフト制労働者に依存する飲食産業

 例えば報道で大きく取り上げられた株式会社一風堂に休業手当を求めているアルバイト男性は、20代後半の単身であり、そのアルバイト収入で自らの生活を支えている。また、冒頭で取り上げた株式会社フジオフードシステムの田中さんには正社員の夫がいるものの、田中さんのアルバイト収入がなければ労働者生活に大きな困難をもたらすほどその家計における位置づけは高い。シフト制労働が労働者生活において非常に大きな役割を果たすようになっているのである。

 こうした労働者のシフトと給与を大幅に減らしてしまえば、労働者生活に大きな困難をもたらすことは明らかであり、柔軟なコスト調整手段としてのシフト制という企業側の位置づけと、労働者生活におけるシフト制労働の位置づけとの矛盾は非常に大きくなっている。

 シフト制労働者は飲食産業で働く労働者の約8割を占め、シフト制労働者無しに飲食産業は成り立たない。田中さんの事例からもうかがえるが、企業もシフト制労働者に大きく支えられているのである。シフト制労働者に大きく支えられながら、そのシフト制労働者の生活への責任を一切果たそうとしない大企業を放置していてはならないだろう。

◆最低労働時間の保障

 新型コロナウイルス禍においては、休業手当を受け取れないシフト制労働者の休業補償要求をうけ、休業支援金制度など緊急的な制度によって対応してきた。従来は中小企業労働者のみにその適用は限定されていたが、大企業のシフト制労働者にも適用されるよう制度改善がなされる見通しである。こうした緊急的な制度創設自体、非常に画期的である。しかしこれによって、企業の労働者に対する無責任を放置してはならない。労働者の生活を守るため、企業のシフト制労働の無責任な運用に規制をかけていくことが必要である。

 第1に、新型コロナ禍においては飲食店ユニオンなどの労働組合が、シフトカットされた分の休業手当の支払いを企業に求め勝ち取ってきた。休業手当の支払いを以前拒んでいる大企業に対しても、このように休業手当の支払いを求めていくことが重要だろう。

 また飲食店ユニオンは、現に生じているシフトカットに休業手当を支払わせるというだけでなく、「最低シフト・最低労働時間保障協約」の獲得を目指している。「労働協約」とは、労働組合と企業とで結ぶ「約束」であり、法的拘束力を持つ。この協約によって、シフト制とはいえ「これ以上減らしたら補償義務が発生する」シフト・労働時間のラインを定めようというのが「最低シフト・最低労働時間保障協約」である。パート・アルバイトの場合、労働者によって働きたい労働時間が多様であることが想定されるため、2つもしくは3つ程度の労働者カテゴリーをつくり、それぞれで「最低シフト・最低労働時間」を定めることが考えられよう。

◆休業手当支払い義務の適用

 第2に、法的な休業手当支払い義務をシフト制労働者にも適用するようにして、労働基準監督署が企業を指導できるようにすべきだろう。「シフト制労働者」と一口に言っても実態は様々であり、実際に短期的に労働時間が変動している労働者もいれば、実態としてはかなりの程度労働日・労働時間が固定されている労働者もいる。また契約書上でも労働日・労働時間が詳細に規定されている場合も少なくない。

 しかしこうした場合でも、契約書上に「労働時間はシフトによって変動する可能性がある」といった趣旨の文言が挿入されるだけで、労働基準監督署は、労働基準法上の休業手当支払い義務を問うことができなくなってしまう。少なくとも、契約書上で労働日・労働時間の記載があり、実態としてもおおむねそれに従って働いている場合には、シフトが出ていない期間についても、労働基準監督署は休業手当支払い義務を認め、その義務を果たさない企業に対しては法律に基づいた介入をすべきだろう。

<文/栗原耕平>

【栗原耕平】

1995年8月15日生まれ。2000年に結成された労働組合、首都圏青年ユニオンの事務局次長として労働問題に取り組んでいる。

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