丸山達也・島根県知事の「東京は五輪を開く資格がない」発言について“お気に入り記者”たちは小池都知事に何も質問せず
HARBOR BUSINESS Online / 2021年2月25日 8時32分

記者会見に臨む丸山達也・島根県知事(島根県のウェブサイトより)
◆「東京都には五輪を開く資格がない」と厳しく批判した丸山知事
責任のなすりつけ合いで「GoToキャンペーン」の中断が遅れ、第三波感染爆発を招いた菅義偉首相と小池百合子知事が、自らの失敗を反省しないままに第四波を招きかねない五輪開催を強行しようとしている。
「コロナウィルスに打ち勝った証」として、五輪を開催した勢いで総選挙圧勝を狙う魂胆が見え見えだが、これに「待った」をかけたのが丸山達也・島根県知事だ。
2月17日の「五輪聖火リレーの中止検討」発言で一気に注目された丸山知事だが、1週間前の2月10日の会見ですでに、五輪の開催反対にまで踏み込む“過激発言”をしていた。
厚労省に出した積極的疫学調査の実態把握を求める要望書について聞かれた丸山知事は、「1週間経っても無回答状態だ」と不快感を露わにした後、30分にわたって政府と都の対応を批判、「都には五輪を開く資格がない」として開催反対の考えを明言したのだ。発言を引き出した『読売新聞』は同日の配信記事でこう紹介した。
「(会見で丸山知事は)東京都が新型コロナウィルスの感染経路を調べる『積極的疫学調査』を簡略化しているとして、『五輪を開く資格がない』と批判した。都は疫学調査を病院や高齢者施設などに重点化している。丸山知事はこうした対応について、感染経路の調査が不十分になると懸念を示し、『大都市の感染拡大で、島根も飲食店や宿泊業者が大打撃を受けている。五輪を東京で開いて感染が拡大し、同じことをされたらかなわない』と述べた」
島根県の要望書は、感染抑制には「積極的疫学調査」が不可欠にもかかわらず、東京都が簡略化(縮小)したことを問題視。厚労省にその実態把握と結果報告を求めるものだった。ところがこれに対してゼロ回答状態であったため、丸山知事の堪忍袋の緒が切れた。この時の、菅政権と小池都政への強烈な問題提起が発端であったのだ。
◆丸山知事発言について小池知事に質問するも、無言で立ち去る
しかし2日後の2月12日の小池知事会見で、都政への異議申立といえる丸山知事発言について質問した記者はゼロ。そこで会見終了直後、3年以上も指されない“記者排除”を受けている筆者は、小池知事に向かって大声を張り上げた。
「島根県知事は『五輪反対』と言っています。『都には(開催する)資格がない』と言っていますが?」
しかし小池知事は、この日も無言のまま会見場を立ち去った。
なお丸山知事は、五輪開催の景気浮揚効果を認めながらも「感染拡大を招くリスクもあわせて開催の可否を判断するべきだ」という立場であり、「現在の都や政府のコロナ対応では再び感染拡大を招く恐れがあるため、開催には反対」と訴えているのだ。
また丸山知事は、東京都の積極的疫学調査の簡略化(縮小)だけでなく、小池知事の「千代田区長選」(1月31日投開票)での街頭演説も2月10日の会見でこう問題視していた。
「最終日19時半からの飯田橋駅の西口前で、(小池知事は)大勢の人を集められた中で演説をされているようです。緊急事態宣言のさなか、不要不急の外出自粛を強く都民に求められている中で、都知事のお仲間の当選のためにこういう行動をされていることも信じがたい。そして、これが大きな問題になっていないこと自体が二重に信じがたい。『都に対する社会的チェックがまったくきいていない』ことをメデイアとかを含めて反省するべきだと思う」
筆者も2月12日の配信記事「自ら『密』状態を作っても千代田区長選の応援をした小池都知事」で、最終日の飯田橋街宣で「密」状態になっていたことを写真つきで紹介、会見で小池知事が密状態を否定する虚偽答弁をしたことも合わせて批判していた。
その1週間後の2月19日の小池知事会見でも指名されなかったので、「丸山知事の問題意識と同じだった」と思いながら、小池知事に対して声かけ質問をした。
「島根県知事は、千代田区長選の“密集街宣”も問題にしていますよ。『密』状態だったことを認めないのですか。(丸山知事は)『都へのメデイアチェックがきいていない』とも言っています。ちゃんと10日の(丸山)知事会見を読んだのですか?」
小池知事は、無言のまま立ち去った。
◆会見で指名される記者たちも、小池知事に対する厳しい質問は皆無
小池知事の「密」状態街宣については、2月6日付の日刊ゲンダイ「都は無自覚感染8万人超の恐れ 小池知事“密”つくるも平然」や、2月9日付のダイヤモンドオンライン「コロナ入院格差、自宅死亡を引き起こした都庁『入院調整』の機能不全」などの記事でも、証拠写真つきで紹介されている。さらに丸山知事発言(批判)が加わっても、小池知事は非を認めようとしないのだ。
そして筆者と違って会見で知事に指名される都庁記者クラブの記者たちも、知事の虚偽答弁を厳しく問い質そうとしない。丸山知事は、こうしたメデイアのノーチェック状態の背景に“五輪タブー”があるのではないかとも指摘していた。
「オリンピックというイベントはメデイアにとっては多分やりたい事業だと思うが、それが『メデイアとして本来やるべき仕事がぶれていないのかどうか』を私は疑問に思っています。普通はメデイアのチェックがきく。私がこんなこと(『密』状態での街宣)をやったら、袋叩きになると思いますよ。でも(小池知事は)大きなイベントの主要主催者だから、みなさん(メディア)遠慮されているのかな、としか私は思えない」(2月10日の会見より)
「五輪開催自治体トップだから、小池知事はメディアチェックを免れている」という見立てだが、この丸山知事発言を受けて筆者は8か月ぶりに「都知事会見指名回数順位(“小池知事お気に入り記者”ランキング)」を作成することにした。小池知事のウソが罷り通る、都庁会見の異常な実態を再び可視化しようとしたのだ。
●表1 小池知事会見指名回数順位(お気に入り記者ランキング)(20年6月19日~2021年2月19日)
1 民放 O記者 31回
2 民放 Y記者 24回
3 民放 N記者 16回
3 NHK N記者 16回
3 ブロック紙 k記者 16回
3 ブロック紙 O記者 16回
最下位 フリー 横田一 0回
●表2 著書『仮面』で紹介した「都知事会見指名回数順位=“小池知事お気に入り記者”ランキング」
1 民放 O記者 15回
2 民放 N記者 12回
3 全国紙 K記者 11回
3 独立放送局 S記者 11回
4 全国紙 N記者 10回
4 NHK N記者 10回
最下位 フリー 横田一 0回
2020年8月出版の自著『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』でも都のホームページの知事会見録から質問者を拾い上げて集計したランキング表を紹介したが、前回(表2)は「2019年12月27日~2020年6月12日」の集計だった。そこで今回の表1は「6月19日から2月19日」までを調査期間にした。一度も指名されない筆者に対して、“お気に入り記者”たちは10回以上指名されている。いずれも上位には民放テレビ局の女性記者が並んだ。
◆メディアは“五輪タブー”の呪縛から解き放たれ、チェック機能を取り戻せるか
『女帝』の著者・石井妙子氏は、2020年6月17日付の「ダイヤモンドオンライン」で、都知事会見について次のように語っていた。
「彼女(小池知事)のくだらない冗談に、前の方に座っている民放キー局の女性記者たちが、大げさに受けたり、うんうん、うんうんと必死でうなずいて見せている。私は秘かに『うなずき娘』と呼んでいるのですが(笑)、記者たちが権力者に迎合しすぎています」
小池知事に迎合的な記者が優先指名される異常事態は、1年以上も前から現在まで続いている。「都に対する社会的チェックがまったくきいていない」という丸山知事の指摘は的確で、“五輪タブー”に縛られたメディアは猛反省すべきだ。
こうしたメディアの機能不全状態こそ、「カイロ大学首席卒業」という疑わしい経歴でキャスターから国会議員を経て都知事となった小池知事が、今でも虚偽発言を押し通せる状況を許しているといえる。これも、「仮面」をかぶった小池知事の実態(素顔)をメディアが伝えない“職務怠慢”の産物ではないか。
これまで小池知事を“巨人化”させたメディアが、丸山知事発言を機に“五輪タブー”の呪縛から解き放たれ、チェック機能を取り戻すのかが注目される。
<文・写真/横田一>
【横田一】
ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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