『純粋なアイヌってまだいるんですか?』“自覚なき差別”“無知の偏見”といわれるマイクロアグレッションとは?差別と闘うアイヌ民族の苦悩
北海道放送 / 2024年6月14日 20時31分
人種にまつわる差別やいやがらせを指す「レイシャルハラスメント」。
アイヌ民族に対する存在の否定や自覚のない差別などのレイシャルハラスメントが今、社会問題となっています。
アイヌ施策推進法 第四条
「何人も、アイヌの人々に対して、アイヌであることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」
2019年に成立したアイヌ施策推進法。
法律で初めてアイヌを「先住民」と位置づけアイヌであることを理由とした差別を禁止しました。
一方で、アイヌ施策推進法の差別禁止規定には罰則が設けられていません。
2016年に自身のブログでアイヌや在日コリアンの女性を誹謗中傷し、人権侵犯の認定を受けた自民党の杉田水脈衆議院議員。
その後も自身を正当化する発信を繰り返しました。
鈴木知事(4月)
「いわれのない差別偏見の解消に向けて、国として正しい理解の促進を図る仕組み等についての配慮、 これは必要だと大臣にも申し上げました」
アイヌ施策推進法の施行から5年が経つ今年は、法律の改正が可能になりますが、政府や国会で見直しの機運は高まっていません。
札幌市に住む多原良子さん。杉田議員に民族衣装を「コスプレ」と誹謗中傷されたアイヌの当事者です。
3月末、多原さんは、法律を改正して差別の禁止に実効性を持たせることなどを求めて、集めた署名およそ9万3千筆を国会議員に提出しました。
杉田氏に誹謗中傷された多原良子さん
「私たちマイノリティーばかりじゃなくて、マジョリティーの社会の中にも(差別が)浸透していく。そんなことでやっぱりいいのかというのは、私たちの主張ももちろんあるけど皆さんにも問いたい」
古くからアイヌを苦しめてきた直接的な差別。今、形を変えた差別が顕在化しています。
SNS上のコメント
「あんたみたいな自称アイヌを見ていると朝から気分悪い。早く認めな、アイヌはもういない」
SNS上には、アイヌは優遇されていて逆差別だという主張や、存在そのものを否定する投稿も多く見られます。
アイヌを傷つけるのは、存在の否定だけではありません。自覚のない差別があります。
ゴールデンウィークの最終日。北海道白老町のウポポイ・民族共生象徴空間には多くの観光客が訪れていました。
観光客にアイヌに対するイメージを聞くと…。
帯広から来た人
「狩りをしてるイメージが強い。音楽を奏でているイメージ」
札幌から来た人
「とてもいいですよね。自然に根ざしたというか割と人間らしい。自然とともに生きているよね」
アイヌに対する差別は直接的なものでけではありません。
「マイクロアグレッション」と呼ばれる自覚のない言動などによる差別も問題となっています。
書籍『アイヌもやもや』。
現代に生きるアイヌを取り巻く環境やアイヌの人たちの思いについて伝える本です。
本では、和人の男性と結婚したアイヌの女性が、義理の父親の何気ない言葉に戸惑いを感じる様子が描かれています。
書籍『アイヌもやもや』の中から抜粋
義父「お腹の子もね、きっと絵がうまいでしょう」
嫁「えっどうしてですか?」
義父「いやほら、アイヌの血が入っているもの。我々とは違いますよ」
嫁「はぁ、そうですか…」
義父「みんな平等平等!」
嫁「本人は1ミリも悪気ない」
本の著者、北原モコットゥナシ教授は、アイヌ差別を考えるときはマジョリティーとマイノリティーの力関係の違いを認識することが大事だと指摘します。
北海道大学 北原モコットゥナシ教授(『アイヌもやもや』著者)
「自分は常に問う側であって、自分は当たり前だ、普通だっていう感覚を人間どうしても持ってしまう。相手との間に力関係がそんなにないとか、そういう場合には単なる誤解で済むが、日本社会の中でのアイヌというのは、政策によってずっと抑圧されてきた。直接的な差別も経験してきたという歴史の上に、今のアイヌと和人の関係があるので」
ウポポイの管理運営を行うアイヌ民族文化財団は、6月6日、アイヌの存在否定やマイクロアグレッションをレイシャルハラスメントと定義づけ、こうした差別に対応する宣言を発表しました。
ウアイヌコロ宣言。アイヌ語で「尊敬しあう」という意味です。
アイヌ民族文化財団 齊藤基也特別参与
「ウポポイにおいてもマイクロアグレッションというのは日々起こっていて、例えば『純粋なアイヌってまだいるんですか?』とか、あなたはアイヌに見えるとか見えないとか職員の容貌に言及される場合もあるし、場合によっては『アイヌのくせに~だ』というような言い方をされるケースもある。レイシャルハラスメントに反対するというスタンスを表明すると同時に、私ども財団が果たすべき使命 役割というものを改めて宣言したものになる」
アイヌ文化の振興に注目が集まる今、差別に対しても毅然と立ち向かう姿勢が必要とされています。
意図せず、無知がゆえに、アイヌ民族などマイノリティーの立場の人たちを傷つけているマイクロアグレッションという言葉がでてきましたが、直訳すると「ささいな、小さな攻撃」となります。
マイノリティーの人たちの見方とはどうなのかという配慮ある思考を社会の中で、広げていけたらと思います。特集でした。
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