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「日本百名山」最難関の『幌尻岳』“天上の楽園”の裏では違法行為も…専門家が懸念するオーバーユース 北海道

北海道放送 / 2024年7月13日 9時6分

6月誕生した『日高山脈襟裳十勝国立公園』―。原生の自然が、そのまま残っていることが特徴です。

“日本百名山”のなかでも最難関といわれる『幌尻岳(ぽろしりだけ)』を通して、その魅力と課題を考えます。

南北140キロに及ぶ日高山脈。その最高峰、標高2052メートルの幌尻岳(ぽろしりだけ)は、日本百名山のなかでも最難関と言われています。

今回、取材登山に同行してくれたのは、北海道の自然を撮り続け、日高の山にも詳しい、写真家の伊藤健次さんです。

写真家・伊藤健次さん
「幌尻岳は、日高山脈の中でも、最高峰の山ですけれど、特に入山口から奥深いところにあるんですね。さらに“額平コース”というのは、沢沿いに、沢を渡りながら行くところが特徴です」

およそ8キロの林道を歩いたあと、沢沿いを登る“額平川コース”は、体力、技術とも上級者向け。携帯電話の電波は通じません。

冷たく、流れも速い沢を十数回も渡ります。

重さ20kg近くにもなるザック、背負ったまま転んだら、危険です。滑りにくい、底がフェルト地の"沢登り専用の靴"が必要です。

2017年、ここで増水した川を渡ろうとした3人が死亡しました。

写真家・伊藤健次さん
「いまも渡って来たけれど、何でもないでしょ。まったく気にならないで渡れるけれど、これが日高では、雨が降った場合、本当に(水が)一気にあがって、膝より上…腿くらいになると渡るのが厳しくなります」

「ほかの“百名山”は、沢沿いにのぼるところは、ほぼないんですね…ふだん川を渡ったことがない人や、そういう登山をしたことがないと人にとっては、川の力を見るのが難しいんだと思います」

雨が降り続くと増水するため、下山ができなくなったり、遭難したりする登山客が後を絶ちません。

沢や岩場を歩くこと4キロ、中腹にある『幌尻山荘』に到着。管理人はいますが、食事の提供はなく、自炊の道具や食料が必要です。

翌朝、午前4時。雨予報だった空には、青空が広がっていました。針葉樹に覆われた急斜面を登っていきます。

写真家・伊藤健次さん
「これ…面白い木ですよね、歩き出しそうな木ですけれど…。なかが抜けているのは、昔…木が倒れて、そこの上の木の種が乗っかったんですね。どんどん大きくなって、エゾとトドとマツが、この上で成長した跡なんですけれど…」

写真家・伊藤健次さん
「ここは、笹がびっしり生えているので、なかなか倒木の上に乗っからない限り、発芽できないんですね。1本、木が倒れることで、ほかの木が芽を出せるという、それが凄い時間ですよね。見ただけでも面白い感じが…」

自然が織り成す、不思議な風景に出会えるのも、日高山脈の魅力。出発して2時間半、森林限界を超えると…。

藤木俊三記者
「これが、日高山脈最高峰の『幌尻岳』のピークです」

アイヌ語で“大きい・山”という名に相応しい姿…。

その前に広がるのは『北カール』です。“カール”とは、氷河がゆっくりと山肌を削り、スプーンですくったような、地形のこと…。

日本には、日高山脈と、本州の日本アルプスにしかありません。

遠く雲海の先にあるのが、芦別岳や夕張岳―。日高山脈の核心部。カムイエクウチカウシ山も見渡せます。

写真家・伊藤健次さん
「山が折り重なっている感じが日高らしいですよね。山に囲まれている感じが、本当だ、すごい、なんてこった」

登山道を彩るのは…、こんなものも。

写真家・伊藤健次さん
「クマの掘り返しですね。畑を起こしたみたいになっていますけれど、"ハクサンボウフウ"という、セリ科の草の根っこが大好物なので掘るんですけれど…。クマの鋭い爪は土を掘るためのもの…」

「いまの時期、これから上がって来て、いま姿は見えないですけれど、(クマは)カールの中に入っていても全然おかしくない…陰で休んでいると思います」

山荘を出発して4時間あまりで山頂に到着―。

写真家・伊藤健次さん
「着きました…なんとか」

足元には登ってきた稜線が…。反対側の斜面には、美しい『東カール』が広がります。

幌尻岳(ぽろしりだけ)の魅力は、ほかにも…『七ツ沼カール』です。

大小さまざまな沼が点在し、可憐な高山植物や、ヒグマなどの野生生物が生息し、“天上の楽園”とも言われます。しかし…。

日高町 地域経済課(国立公園等担当) 髙橋健 統括主幹
「今年の状況は、非常に雪解けが早くて、平年の7月上旬なら、カールバンドは雪で覆われ、池も水が溜まっているが、いま見える風景は、例年だと8月の風景になります」

「これが続けば、地球温暖化を示すものになるのでは…。植生の変化や動植物も生きづらくなっていく…」

6月、国立公園に指定された日高山脈。高山植物やヒグマが生息する“天上の楽園”ともいわれている『七ツ沼カール』に降りると…。

写真家・伊藤健次さん
「名前の通り、沼がたくさんあるんですね。平らな部分が広くて、雪解け水が溜まって、水辺と雪渓があり、それが融けると草が出てきて、非常に人にとっても気持ちいいところ、クマにとっても最高にいいところ…。日高の中でも、クマがいつもいるところが一番近いと思います」

「普通に、登山者が行き来している真下で、(クマは)草を食べたり、岩棚で寝ているんですね。それが登山者には足元なんで見えないんですけど、下から見えるとよくわかって、すごい近いところです」

そして、日高山脈が直面する課題も目の当たりにします。

日高山脈の国立公園化に取り組んできた日高町の高橋さんは、ある場所を案内してくれました。

日高町 地域経済課(国立公園等担当) 髙橋健 統括主幹
「“たき火の跡”になりますね…。この辺にあるような木を切って燃やしたと思います」

日高町 地域経済課(国立公園等担当) 髙橋健 統括主幹
「もしこの木が、周りにある木を切られて焚火をされたのでしたら、ここは国立公園内で『特別保護地区』なので、樹木の伐採は禁止されていますから、違法行為ということになりますね」

氷河地形の独特な自然や貴重な生き物たち…、そして人が、容易に近づけない環境が評価され、国立公園となった日高山脈。

私たちは、どう向き合えばいいのでしょうか?

写真家・伊藤健次さん
「百名山になっている“幌尻岳”は、十分に人が来ている状態なんですね。自然度の高さを評価して、日高を国立公園にしたのであれば、そういう人の手の入らない部分とか、そのまま山の状態であるということを、これから引き継いでいったほうがいいと思っています」

「個人が自分の力量にあって、山や原生の自然と向き合う場所なんじゃないかな…と思っています」

森田絹子キャスター)
日高町の高橋さんは、登山客が増えることによって、山荘のトイレ使用などの"オーバーユース"や、遭難が多発する懸念があって、入山規制も必要ではないかと語ります。

堀啓知キャスター)
自然を守りながら、その魅力を伝えることの難しさを感じます。

環境省は今後、自治体や登山、観光などの関係団体と協議会を設け、公園の管理や環境保全などのルールを話し合う方針です。

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