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「老後の備えを甘く見ていたようです。ママは仏様のような状態」認知症の89歳妻を殺害した94歳の男の裁判、エリート社員が直面した“老々介護”「子どもに迷惑をかけてダメな父親です」

北海道放送 / 2024年7月17日 8時44分

初公判が開かれた法廷(16日 札幌地裁)

去年11月、札幌市豊平区の自宅で、89歳の妻を殺害したとして殺人の罪に問われている94歳の男の裁判員裁判が、16日札幌地裁で開かれました。

65年間連れ添った妻を自らの手で殺害したとされる被告。検察が証拠として提出した遺書などから、認知症が進む妻の介護に疲れ、将来を悲観した被告の苦悩が明らかになりました。

起訴状などによりますと、札幌市豊平区の無職・上牧道雄被告94歳は、去年11月、札幌市豊平区の自宅で当時89歳の妻・英代さんの首を紐で締めて殺害した罪に問われています。

事件当時、上牧被告と英代さんは2人暮らしで、上牧被告は普段から、認知症を患い、要介護度2の認定を受ける英代さんの食事の世話などをしていました。

16日、札幌地裁で開かれた裁判員裁判の初公判にグレーのスーツ姿で出廷した上牧被告は、しっかりとした足どりで証言台の前に立ちました。

難聴を患う被告のために、証言台にはスピーカーが用意されました。

札幌地裁の吉戒純一裁判長に、起訴内容に間違いがないか問われた上牧被告は「ございません」と認めました。

冒頭陳述で検察側は「妻の介護を継続できず、施設に預ける金銭的余裕もないと将来を悲観し、心中を決意して犯行に及んだ」と指摘。

弁護側は「無理心中を試みたのは介護疲れによるうつ病が原因で、再犯の可能性は低く、犯行を深く反省している」などと情状酌量を求めました。

北海道東部の弟子屈町で生まれた上牧被告は北海道大学農学部を卒業後、大手製紙会社に入社し、60歳で定年退職するまでに札幌支社長などを務めました。

妻の英代さんとは、1958年に結婚。翌年には長男、結婚から4年後には長女が誕生しました。

64歳で製紙会社の系列ホテルの社長を退任してからは、年金生活に入り、2016年から自宅で英代さんと2人で暮していました。

英代さんが2019年に軽度の認知症と診断されてからは、平日は訪問介護やデイサービスなどを利用し、上牧被告も食事の世話などの介護を行っていました。

証言台に立った長男は、2人について「円満で仲の良い夫婦だったと思っている」と証言していました。

検察によりますと、事件のきっかけになったのは去年10月26日。上牧被告自身がめまいやふらつきなどの症状で病院を受診したことでした。

この時、英代さんの認知症は進行し、去年の夏ごろには要介護度2の認定を受け、上牧被告の介護の負担は増えていました。

上牧被告のめまいやふらつきは、介護疲れによって発症したうつ病の症状でしたが、受診した消化器内科では「異常なし」という診断でした。

症状は、老衰の表れだと考えた上牧被告。「治る見込みはなく、どんどん悪くなる」と考え、英代さんを施設に入れることを考えました。

しかし、当時の収入は月27万円の年金のみ、預金も少なく、月14~15万円かかる施設への入所は諦めました。

自身の体調悪化から妻の介護を続けることができず、施設に預ける金銭的余裕もないと悲観した上牧被告は「2人で冬を越すのは難しい。いっそ家内を私の道連れにして楽になろう」と心中を決意。

そして長男と長女に向けて遺書を書きました。

▼遺書の内容(検察の証拠調べより)
11月7日、これからママを連れて死出の旅へ立ちます。父は老後の備えを甘く見ていたようです。ママは仏様のような状態で、かわいそうでたまりません。最後に子どもに迷惑をかけて本当にダメな父親です。

11月11日、後のことを考えると夜も寝付けません。7日から5日間眠れておりません。今のママは、時間と空間のない世界で生きています。

弁護側の被告人質問で上牧被告は、英代さんの人柄を「本物の優しさを持って、家族に対する暖かい気持ちを持つ人だった。(認知症が進んで)自分の意思表示をできなくなってからも、その思いはにじみ出ていた」と語り、「かわいそうなことをしてしまった。静かに老後を送らせてやるんだったと、反省をしてみても帰って来ませんので無念を噛みしめています」と話しました。

裁判は17日にも開かれ、被告人質問の続きや証人尋問が行われます。

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