土用の丑の日に味わう『雪うなぎ』業界初、北海道産のうなぎ…やっかいものの“雪”とコンピューターからの“廃熱”で「名物がまたひとつ」
北海道放送 / 2024年7月24日 19時15分
24日は土用の丑の日です。
札幌市の場外市場にあるうなぎ料理店で、この日、販売したうな重には、北海道育ちのうなぎ「雪うなぎ」が20食限定で使われました。
海を知らない 内陸育ちの「雪うなぎ」。 おいしさのヒミツは?
札幌・ススキノのうなぎ料理店です。
香ばしい香りに誘われた客で 連日にぎわっています。
客
「柔らかくてすごくおいしいです」
「北海道にまた名物がひとつできた」
好評のうな重に使われているうなぎは 、先週デビューしたばかりの「雪うなぎ」。業界初、北海道産のうなぎです。
この店では先週3日間限定で、この 「雪うなぎ」のうな重を販売。1日30食限定でしたが、連日完売しました。
88歳の客
「長生きしててよかったよ!」
おいしさのヒミツは、産地の近さ=「新鮮さ」です。
かど屋 八巻直宏店長
「(通常は)だいたい1~2日、九州から取り寄せているので、1時間半ほどで届くのは魅力的です。鮮度大事なんで…」
札幌市のうなぎ屋さんにとって、注文から入荷まで数日かかるのは当たり前。
しかもうなぎは、出荷から20時間で鮮度が失われるという敏感な魚です。
それが わずか1時間半で届いてしまう、夢のような「雪うなぎ」のふるさとは?
札幌から北へ60キロ。空知の美唄にある「ホワイトデータセンター」です。
ホワイトデータセンター 本間弘達さん
「見えますかね。この真下、ここにいる。平均すると200グラムぐらいの大きさに育っています」
水槽には 体長50センチほどのうなぎが たくさん泳いでいました。
ホワイトデータセンター 本間弘達さん
「初めてだったので分からないことだらけだったのと、思った以上に水の管理が大変だったのを思い知りましたね」
養殖を担当する 本間 弘達(ほんま・こうた)さん。熱エネルギーの専門家です。
1月から、人気が高い「ニホンウナギ」の養殖に取り組んでいます。
とは言え、ここは石狩平野のど真ん中です。海から遠い内陸で、うなぎの養殖を可能にしたのは…
雪です。美唄市は、ひと冬に8メートルを超える雪が降る豪雪地帯です。
「ホワイトデータセンター」では、冬の間、市内の除排雪を集めて、雪山を造り、夏でも解けないように、ウッドチップで覆って保存しています。
松本雅裕記者
「ウッドチップの中には冬の間に蓄えられた雪が残っています。非常に冷たいです」
この雪を解かして、ろ過した雪どけ水を養殖に使っているのです。
ホワイトデータセンター 本間弘達さん
「雪どけ水って分子の塊。普通の水より粒が小さいことで、餌の吸収が良いのではないかと思っていて…」
一方、うなぎは 30℃近い温かい水を好みます。冷たい雪を解かして温めるには、新たな燃料が必要ですが、ここでは…
ホワイトデータセンター 本間弘達さん(1月)
「露天風呂みたいになってますけど、IT機器の廃熱を使ってそれで熱を与えています」
養殖施設のそばには、企業がデータの保管や通信に利用している「データセンター」があります。
年中無休で動き続けるコンピューターからは、常に50℃を超える高い熱が出ています。
正に宝の山、この廃熱で水槽の水を温めているのです。
ホワイトデータセンター 本間弘達さん
「こんな内陸の美唄でも、養殖が可能だというのは分かったし、独自性というか そこがビジネスチャンスでもありますので」
世界で初めて、すべて雪の恵みで育てる「雪うなぎ」新たな名物の誕生に 地元も動き始めました。
札幌・ススキノのうなぎ料理専門店で7月11日、美唄産の「雪うなぎ」が、お披露目されました。
試食した人
「やわらかくて脂もすごく乗っていておいしいウナギと思っていただいた」
ひと冬約10億円の除雪費に悩む、美唄市の桜井市長。雪の恵みがもたらす味わいに…
美唄市 桜井恒市長
「おいしい。本州で食べるうなぎと引けを取らない味になっている」
美唄市では、年明けから「雪うなぎ」を使った新メニューを開発する動きがあります。
地元のイタリアンレストランでは 「雪うなぎ」を使ったメニューを考案中です。
「やっかいモノ」の雪を、地域を元気にする「宝モノ」に変える。豪雪地帯に生きる研究者のアイディアが輝き始めています。
ホワイトデータセンター 本間弘達さん
「限られた資源のウナギですので大切に育てたいですし育てるからには地球環境になるだけ負荷がかからない方法で、大事に育てたい」
スタジオにはVTRで紹介しました、札幌のかど屋の「雪うなぎ」のうな重を用意しました。
まだ出荷量が少ないために、現在は かど屋でも「雪うなぎ」を使ったメニューを食べることはできません。
今回は、関係者の粋な計らいで、お2人のために 作っていただきました。
雪どけ水で育てたウナギ。世界初の「うな重」です。
いまの、札幌市内のうなぎ店のうな重の平均価格を調べてみますと、うなぎ1匹を使った「並」サイズが およそ3,500円。2匹を使った「特上」になると5000円以上 でした。
現在の札幌市のうなぎ蒲焼き100グラム(1匹の3分の2)小売価格の平均は1714円。20年前の約2倍、10年前の1.3倍です。
うなぎの値段が高騰している要因としては、 ウナギの稚魚が深刻な不漁に陥っていることが背景にあります。
特に味が良い「二ホンウナギ」は、絶滅危惧種に 指定されるほど、資源が減っています。
それに加えて、養殖には、餌代や暖房費などコストがかさみ、価格に上乗せされている現状です。
この「雪うなぎ」は、すべて「捨てられるモノ」で賄っているので、低コストもメリット。産地が近いので、安く食べられる期待もありますね。あり余る雪で、おいしい食べ物を作る。北海道が 世界に誇れる技術だと思います。
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