不幸な理由から酪農の世界で生きられない乳牛たちの「かくれ家」アニマルセラピーとして活躍へ…関口晴実さん28歳「畜産ではない形で活躍できるところを見るのが楽しみ」
北海道放送 / 2024年10月23日 19時11分
牛乳やバターなど、私たちの食生活を支える乳牛のお話しです。ある不幸な理由から酪農の世界で生きられない乳牛がいることを、ご存じでしょうか?
牛舎の外にある小屋で飼育されている1頭の子牛。
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「まめちゃんです」
今年5月に生まれた「まめちゃん」。見た目は普通の子牛なんですが…。
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「まめちゃんはフリーマーチンといって、メスだけど妊娠できない体で生まれてしまって」
フリーマーチンとは、オスとメスの双子で生まれ、90%以上の確率で、妊娠できない体になるメスのことです。大きくなっても、乳牛にはなれません。
さらに、まめちゃんは体も小さく、食肉としても買い手がつきませんでした。関口さんは、ある決断をします。
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「引き取らせてもらえないかと話したときに、(上長が)やってみようと言ってくれて、引き取りが決まった」
この子牛が向かう先は、日本では珍しい、牛たちの新たな終の住みかとなる牧場でした。
石狩市の当別町の森の中にできた、小さな牛の牧場。名前は、「牛たちのかくれ家」です。とはいっても、まだ牛は1頭もいません。
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「牛がいっぱい来てもらって、何か新しく畜産ではない形で、活躍できるところを見るのが楽しみ」
牧場主の関口さんが話す、「畜産」以外で活躍する牛とは…。
江別市にある乳業メーカーの農場です。関口さんは、従業員として、牛たちの世話をしています。
名古屋の大学に通っていたころ、実習で出会った「牛」に興味を持ち、関われる仕事を求めて、北海道で就職しました。ただ「命」を扱う現場は、楽しいだけではありません。
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「酪農の乳牛としては生きていけない子たちが、目の前で安楽死という形で一生を終える姿を見て心を痛めたというのがあって、畜産をやる側としては割り切らなければいけないところなのだけど…」
通常、乳牛は2歳ころから、搾乳が始まります。その後、5~6年ほどで、その役目を終えると、食肉などにまわされます。しかし…
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「一番よくあるのは足が痛い子たちなんだけど、立てなくなってしまうと自分の足で歩いて搾乳に行けないので、その子の寿命を終わらせてしまうという形になる。(酪農のサイクルから)外れてしまった子たち、行き場を失ってしまった子たちを助けたい」
こうした”行き場を失った牛”は毎年、何百頭、何千頭と出るわけではありません。でも、その命を救い、酪農とは別の生き方で全うさせる…。
そんな牛たちのための牧場が「牛たちのかくれ家」なんです。
関口さんの思いに、職場の上司は…
町村農場 町村均 社長
「すべてを救えるわけではないが、(人間の)生活の役に立てていくような発想を持ってやっているから、それはそれで1つのあり方なんだろうなと思う。応援するしがいがある」
築30年以上の牛舎は、雨漏りもするほど老朽化していて、電気や水も確保できていない状態でした。手持ちの資金も、あまりなかったため、自分たちで修理を始めました。
関口さんに共感し、協力してくれる仲間もいます。
牛たちのかくれ家 村上玲央さん
「(関口さんと)出会ったときはそういうことをやるとは全く知らなかったが本気なんだというのが分かって、自分も協力したいなと」
関口さんは、引き取った牛たちで、日本では珍しい、あることを始めようと考えていました。
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「将来的には牛たちの癒やしの力を発揮してもらって、新しくセラピーCOWとして活躍してもらえたらうれしい」
牛のアニマルセラピーです。「COW HUG(カウ・ハグ)」といって、オランダやアメリカなどではイヌやネコ同様、牛たちと触れ合える牧場があるんです。
ニューヨーク大学 動物による心理療法に詳しいキャサリン・コンピタス博士
「この取り組みは、オランダのホラントで始まり、ずっと前から行われていて、人々は都会から田舎に行き、牛とハグをして過ごすことでストレスを軽減していた。アメリカでも広まってきていて、不安やうつ病にも効果がある。もし日本でやるなら、とても素晴らしいことだと思う」
そして9月、まめちゃんが牛たちのかくれ家へと無事お引っ越し。関口さんたちが目指す牧場が、歩き始めました。
牛たちのかくれ家 関口晴実さん(28)
「行き場を失った子たちはたくさんいるので、そういう子たちを少しでも多く、ここに連れてきて、牛らしい生活を、してもらえるような場所にできたらいいなと思う」
牛たちのかくれ家は、酪農・畜産としては飼育せず、基本余生を過ごすのみです。
運営費は現在、自己資金とサポーターからの寄付でまかなっていて、入場料を徴収するなどの営利行為をしないことを目指しています。
牛たちのかくれ家では、牧場を支えてくれる「サポーター」を募集しています。支援金は月1000円からで、詳しくは、インスタグラムをご覧ください。
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