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最果てのマチの自慢は“監獄だけじゃない” 稲作の常識を大きく変える“畑で育てる”抜群に美味しいお米に注目!『陸稲』に挑んだ農家の情熱 北海道網走市

北海道放送 / 2024年11月13日 20時26分

シリーズでお伝えしている「食の未来を考える」です。

私たちの毎日の食卓に欠かせない米。

場所を選ばず、田植えもいらない…これまでの稲作の常識を変えるかもしれない新しい栽培方法を取材しました。

いい匂いが、漂ってきました。炊き上がったようです。ふっくらとした、ツヤツヤのご飯。北海道網走産のお米“ななつぼし”です。

早速、食べてみると…。

貴田岡結衣記者
「おいしい、おいしいです…“食リポ”になってないですね」

オホーツク海や知床の山並みを見渡す、北海道網走市。観光地として知られる博物館網走監獄には、映画『網走番外地』の監督、石井輝男さんの墓碑が建っています。

碑文をしたためた俳優・高倉健さんが、映画の中で“脱獄”や“出所”を繰り返し、網走に“最果てのマチ”というイメージを作り上げました。

年間の平均気温6.9℃。“コメの栽培は適さない”といわれ、麦・てんさい・ばれいしょの、いわゆる“畑作3種”が栽培されてきました。

福田農場 福田稔さん(43)
「育てた作物を収穫して、工場に運んで行って、ケーキとかパンになって、ようやく初めて口に入る。それがすごく(消費者と)“距離が遠い”なって…」

そんな北海道網走市でいま、注目を集める米があります。作っているのは、畑作農家の福田稔さん43歳です。

貴田岡結衣記者
「お米が植えられているのは畑です。水をひいていないため、傾斜地でも栽培が可能になっています」

その米作りは、見慣れた水田=水稲(すいとう)ではなく、種籾(たねもみ)を畑に直播きする“陸稲(りくとう)”です。

栽培を始めたのは2018年。傾斜地のため、水をひくのが難しく“陸稲栽培”を選ばざるを得なかったのです。

陸稲を栽培する農家 福田稔さん
「その米を学校給食にすれば、地元の子どもたちが自分が作ったお米を食べてくれて、元気に大きく育ってくれるというのが目の前でわかる。それが一番のモチベーションになると思って」

収穫量は、この6年間で徐々に増え、去年から、網走市内の居酒屋でも福田さんの「ななつぼし」が提供されるようになりました。

“陸稲は…おいしくない”そんな風に思っている方は、間違いです。

貴田岡結衣記者
「畑で作ったから水分量が少ないという感じもなくて、ふっくらしていておいしい」

しかし、道のりは、決して平坦なものではありませんでした。

『水稲は収穫皆無の状態がつづいた』網走市史に記された昭和の連続凶作を伝える言葉です。

網走は、1931年から1935年にかけて4度、冷害などに見舞われ、米作りは、昭和初期以降、行われなくなりました。

それから90年あまり…、福田さんが『食べてくれる人の顔を見たい』と、網走で米作りを始めましたが、最初の2年間、稲穂に実が入ることはありませんでした。

しかし、翌年、転機が訪れます。わずかでしたが、米が実ったのです。

陸稲を栽培する農家 福田稔さん
「お茶わん1杯分くらいは食べました。味は…自分で作ったものって絶対、一番…一番の調味料で、陸稲ってあまりおいしくないって思いながら食べたけど、全然そんなことなくて。品種も“ななつぼし”だし、おいしかった」

ビールの製造過程で生まれるビール酵母、この副産物が、陸稲の決め手となる肥料となりました。

アサヒバイオサイクル 上藪寛士 アグリ事業部長
「オホーツクでお米がとれたことは、われわれも、農水省も注目している。従来の栽培だけではない、新しい米作りの可能性を無限に秘めているんじゃないかなと感じます」

水田が要らず、畑で米を作る=陸稲は、山地や乾燥地でも栽培が可能なため、いま世界の注目を集めています。

2020年には茶碗1杯分だった収穫量は、7回目の収穫期を迎えた今年、6.3トンにまで増えました。

福田稔さん
「(この光景が見られて)すごくうれしいですね。1年間、頑張ってちゃんと実がなったなぁという思い。11月の頭に学校給食を提供するので、間に合うようにおいしいお米をとりたい」

網走の白鳥台小学校でこの日、特別な給食が用意されました。

初めて、地元の畑作農家・福田さんのお米が給食で振る舞われたのです。あの網走産“ななつぼし”です。

子どもたち「いただきます」

『食べている人の顔が見たい』農家としての福田さんの夢が叶った瞬間です。

福田稔さん
「直接、子どもたちが食べてる顔を見ながら、お話ししながら食べられるっていうのは最高。給食のお米なので、安心安全で、安価で安定的なものを作っていきたい」

2024年の秋から、網走市内の4店舗に広がった福田さんの『陸稲』。“網走でしか食べられない”ブランド米を目指して、改良が続いています。

この米の2024年の収穫量は、もみで6.3トン。茶碗1杯=150グラムとすると、お茶碗42,000杯と年々収穫量を大きく伸ばしています。

この栽培方法は、今まで「栽培に適さない」とされていた土地や、灌漑設備が失われた被災地などでも、栽培が可能になると言われています。

冷害に苦しんできた、北海道網走の土地でのコメ作り。給食での活用を目指し、安定的で、そして何より美味しいお米を作り続けたいと福田さんは話しています。

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