「ヘイトをやめろ」「差別の意図はない」街頭で渦巻く声、アイヌ施策推進法から5年…SNS上で続くアイヌ差別に「実効性ある取り組み必要」
北海道放送 / 2024年12月28日 8時56分
アイヌを先住民族と明記し、アイヌであることを理由にした差別を禁じた「アイヌ施策推進法」からことしで5年がたちました。しかし、今も形を変えた差別が続く実態が浮き彫りになっています。
11月21日、北海道内選出議員として初めて、アイヌ施策担当大臣となった伊東良孝衆議院議員が、胆振地方の白老町にあるウポポイ=民族共生象徴空間を訪れました。
■アイヌ施策推進法から5年 差別問題に大臣はどう対応?
視察後の会見では、記者からアイヌに対する差別の問題にどう取り組むのか質問が投げかけられました。
伊東良孝アイヌ施策担当大臣
「アイヌであることを理由として、差別することはあってはならない、私もアイヌ施策担当大臣としてアイヌの方々が民族としての誇りを持って生活することができ、その誇りが尊重される社会の実現に向けて力をつくしていきたい」
2019年に成立したアイヌ施策推進法。法律で初めてアイヌを「先住民族」と位置づけ、アイヌであることを理由とした差別を禁止しましたが、罰則は設けられていません。
施行から5年を迎えた今年からは、法律の見直しが可能となり、伊東大臣は「アイヌの方々と対話を重ねながら法律の施行状況を検討していく」との考えを示しました。
■警察が警備のイベント 市民団体は「アイヌ差別やめろ」
白石区民センターシュプレヒコール(11月15日)
「アイヌヘイトやめろ。差別をやめろ」
一方、札幌市ではアイヌをテーマに開かれたイベントに対し、市民団体らが抗議の声をあげました。
大臣がウポポイを視察する1週間前、札幌市の施設「白石区民センター」で開かれたイベントに多くの警察官が動員されました。
「講演会&パネル展」。具体的なタイトルのないイベントのチラシには「アイヌ副読本教材を検証」「小中学生の父兄同伴大歓迎」と書かれていました。
イベントを開いたのは、日本会議北海道本部など保守系の団体。
会場にはアイヌの同化を進め、その後廃止された「北海道旧土人保護法」を称賛したり、アイヌが「先住民族」であることに疑問を呈するようなパネルが並べられました。
会場の外では、こうした内容がアイヌへの差別にあたるとして市民団体らが抗議の声をあげました。
抗議のシュプレヒコール
「アイヌヘイトやめろ。差別をやめろ」
抗議に参加した国立民族学博物館 マーク ウィンチェスター助教
「アイヌの間違った歴史間違った解釈を子どもたちに教え込むという趣旨で、講演会が行われている。そうした歪曲された歴史、間違った歴史を聞いた子どもたちがそれをもって、もしかしてその子どもの学校に、同じ学級にアイヌの子どもがいるかもしれない。アイヌの子どもに対してその子どもたちが、今度どう思うか」
抗議に参加したアイヌの男性
「『アイヌってずるなんじゃないの?いないんだからないんだからそんなのずるなんじゃないの』『偽物なんじゃないの』という風潮が広まると、アイヌである当事者のどもとかが『うちはそんな偽物ものなんだ』みたいなふうに、自分のアイデンティティを否定してしまう結果につながってしまうし、許されるべきではない」
講演会では、講師らが道内の小中学校で配布される教材「アイヌ副読本」について、北海道の土地を「アイヌの人たちにことわりなく、一方的に日本の一部にした」との記述には、問題があるなどと指摘しました。
■主催者は「差別の意図はない」講演会に小中学生も参加
イベントを開いた日本会議北海道本部の幹部は、HBCの取材に「差別する意図は一切ない」と主張します。
日本会議北海道本部 菅原勝明常任理事
「何も知らない人たちに副教材とか、ああいうものがちょっと違うんじゃないか。違うのならこういうのがあるんですよと。そういう場を設けた方がいいということですね」
講演会には70人ほどの人が参加し、中には小中学生もいたといいます。
日本会議北海道本部 菅原勝明常任理事
(ネガティブな情報だけを並べたという意識はない?)「全然ないですよ。まだまだアイヌ問題については、いろいろな表現がされているから。だからたくさんあるんじゃないですか」
■SNSなど現在も続くアイヌ差別「実効性ある取り組みが必要」
北海道大学の文学研究院で日本史を研究する谷本晃久(たにもと・あきひさ)教授は、主催者側には「北海道に入植・開拓した歴史を肯定化したい」という思惑があるのではないかと指摘します。
北海道大学大学院文学研究院 谷本晃久教授
「入浴の問題であったり、至れり尽くせりの保護法っていうのも、本来はアイヌ民族の権利を奪ったうえで、わずかな土地を与えるあるいは、違う文化を見下しながら自らの文化を押し付けていく、それが近代化でありアイヌ民族には幸せだったんだ、こういう論理で植民支配を正当化する」
「特に当事者が、ああいったパネルを見たときに、傷ついたり気分を害したりするってことは当然あると思う。それこそがハラスメントですよね」
道が先月、結果を公表した今年度の「道民意識調査」。
26.9%の人が、アイヌの人々への差別や偏見を直接見聞きしたことがあると回答しました。昨年度アイヌ民族に対して、道が行った調査でも、およそ3割の人が差別を経験したと回答。差別を受けた場面については「SNSなどインターネット上の書き込み」が一番多かったことがわかりました。
こうした状況について鈴木知事は、SNS対策などより踏み込んだ検討が必要との見解を示しました。
鈴木知事会見(11月26日)
「道としては、フォーラムの開催とか啓発冊子の作成、配布などをこれまでも行ってきた。ただ、このSNSへの対策や若年層に向けた啓発など、やはり差別の解消につながるように検討して、アイヌの方々に対する正しい理解の促進にしっかり努めていかなければならない」
SNSなどを中心に差別が今も続いていることについて、北海道大学でアイヌ民族について研究する北原モコットゥナシ教授は、アイヌの歴史について知ることと同時に差別を禁止する実効性のある制度が必要だといいます。
北海道大学 アイヌ・先住民研究センター 北原モコットゥナシ教授
「差別をアイヌ施策推進法4条で禁じているけれども、そもそも差別とは何が該当するのかきちんと検討することと、それからそれを監視する第三者機関、公的な機関を作らないと、なかなかその実効性のある取り組みにはつながらないと思う」
法律の施行から5年、差別のない社会の実現に向けた本格的な検討が必要とされています。
■罰則がない差別禁止に限界も…
全国では条例でマイノリティへの差別を禁止して罰則を設けた自治体もあるんですね。
《神奈川県川崎市の条例》
人種や民族、性的指向などについてあらゆる差別的な取り扱いを禁止
⇒在日コリアンなどに対して、ヘイトスピーチを繰り返した場合、罰金を科す
《道に条例制定の考えは?》
鈴木知事
「まずはアイヌ施策推進法という法律がある中で、道だけでなく国としても全国でアイヌ差別の実態調査を進めてほしい」
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