塀の中の日々は“懲らしめ”ではなく“立ち直り”の時間に…変貌する刑務所の今 受刑者を番号で呼ばず、呼び捨てにもしない『管理』から『対話』へ
北海道放送 / 2025年2月1日 9時17分
近年、刑務所に入る人は減少する一方で、繰り返し、刑務所に入る人は増加傾向にあります。
“懲らしめ”という考え方から、“立ち直り”を目的とした捉え方に変化しつつある、刑務所の今を見つめました。
受刑者A
「上司に今の理由を聞かれたらどうする?」
受刑者B
「いや、ありのままを伝えます」
受刑者A
「ありのままを伝える?そういう困った人がいて、助けようとして、遅れたと」
顔を寄せ合って、話し合う受刑者たち。北海道空知地方にある『月形刑務所』の風景です。
刑法が改正され、明治時代以来の大転換期を迎える刑務所。変化する現場に密着しました。
街頭の木々が葉を落とし、冬を迎える準備を始めた去年11月の朝―。
札幌拘置所に勾留中の、ある人物が記者の面会に応じました。
海野秀男受刑者(88)【取材ノートより】
「今度は生きては帰れないが、また、この歳で懲役に行くのは恥ずかしい…」
海野秀男(うんの・ひでお)受刑囚88歳―。
常習的に窃盗を繰り返し、15回の有罪判決を受け、50年以上を刑務所で過ごしてきました。
海野秀男受刑者(88)【取材ノートより】
「自分の住んでいる社会には、真面目な人間なんて1人もいない。外の人たちは、刑務所に入った人間には厳しい」
受刑者のうち、55パーセントが繰り返し、刑務所に入っています。
新たな被害者を生まないためにも、刑務所の中で、どう立ち直らせるかが、大きな課題となっています。
毎朝、起床チャイムが響いたあと、刑務官が、受刑者が収容された部屋を、一つ一つ点検してまわります。
海野受刑囚も、一度服役した経験がある月形刑務所。
収容されているのは、覚せい剤の使用や窃盗などの犯罪を繰り返した人たちです。
これまでの刑務所では、刑務官は「先生」と呼ばれ、受刑者は「番号」や「呼び捨て」で呼ばれていました。
行進の際の手の角度や、歩幅を指定するなど、刑務官は規律を徹底するため、受刑者に厳しく接してきました。
しかし、法務省の通達で現在は、行進の際の号令が廃止され、受刑者はそれぞれの歩幅で歩けるようになっています。
そして―。
刑務官
「縫い目も揃っていて、とてもきれいに仕上がっています」
受刑者
「ありがとうございます」
刑務官も、受刑者に敬語で話しかけるなど、“管理”から”対話”へ、刑務所の在り方を大きく変えました。
きっかけは、今年6月に控えた『拘禁刑』の導入です。
これまでの懲役刑、禁固刑を廃止し、再犯防止に向けて、受刑者の特性に応じた指導を可能にします。
刑務官
「受刑者の行動や考え方も変わってくるのかなと思っているので、厳しさの中に、やはり、彼らの声に耳を傾けるっていうのが必要になってきたのかな…」
受刑者
「自分は社交不安症という障害を持っていまして、刑務所と社会だと、何か壁がある感じがあって」
『拘禁刑』の導入に先駆けて、去年2月、月形刑務所では、高齢や障害など、身体的、精神的にハンディキャップを抱えた受刑者を対象とした工場を作りました。
最大の特徴は、刑務作業の合間に行われる“グループミーティング”です。
刑務官
「会社に到着したら、上司は聞くよね。“どうしたんだ、なんで遅刻したんだ”と聞かれたときに、あなただったら、どういうふうに、その上司に対応しますか?ということを話し合ってほしいと思います」
“人助けをしていたら、電車に乗り遅れ、会社に遅刻してしまった―”
その場合、上司にどう報告するのか?出所後に起こり得るトラブルを想定し、受刑者同士で対策を話し合います。
受刑者C
「最初に“困っている人が居たから助けた”ということをまずは言って」
受刑者A
「それは、素直な気持ちだからね」
受刑者C
「次の電車でも間に合うだろうと思っていたけど“その次の電車が遅れたので遅刻しました…すみません”と」
受刑者B
「ありのままを言うってこと?」
グループで話し合ったことをまとめ、全体の前で発表します。
受刑者
「自分もそうなんですけれど、(グループ内で)一緒に話した人も、困っている人が居たらいたら、ほっとけないっていうのがあって」
刑務官
「これを経験したからといって、次から困っている人がいても無視しようっていう考えにはならない。何度遅刻しても、私は助ける、なるほど、そういうのも大事かもしれないね」
狙いは社会に定着してもらうこと。これまで刑務作業に費やしていた時間を“立ち直り”のための指導にあてる―。
刑務所の環境は、大きく変わりつつあります。
刑務官
「今までちょっと敵意や、少し引いて見ていた受刑者たちが、少し心を開いてくれるような面も感じたので、私たちは、刑務所の中でしか彼らと接することがないので、一般社会に出たときは、一般社会の方々の力がどうしても必要になるのかなと」
「外の世界の人にも、刑務所のことを理解していただいて、協力していただければ…」
過ちを犯した人が、立ち直ることができる社会にするために、私たちにも変化が必要なのかもしれません。
◇《スタジオ解説》
堀啓知キャスター)
拘禁刑の導入を見据えて、月形刑務所では、ほかにも様々な取り組みを始めているんですね?
森田絹子キャスター)
受刑者に読み書きや計算など義務教育段階の勉強を教える『個別的補習教科指導』。
そして、受刑者が日々どんなことを考えて過ごしているのかを書く『交換日記』。
また、コミュニケーションをとりながら仕事を進める能力を養うため『作業中の会話』。
作業中に、受刑者同士が会話をすることが許されている工場もあります。
こうした変化の一方で、刑務官からの意見として、課題もあります。
・『受刑者との対話を重視する一方で、厳しく指導しなければいけない場面とのバランスが難しい』
・『勉強やコミュニケーションを教えるといった専門外の仕事が増える』
・『研修の時間や人手が足りない』
堀啓知キャスター)
明治時代以来の大転換期を迎える刑務所で、受刑者の立ち直りは進むのか、今後も刑務所の取り組みをお伝えしていきます。
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