元日本代表DF丹羽大輝、38歳で“自己最速”到達の理由 スペインで年齢にあらがう「圧倒的な努力」【前編】
スポーツ報知 / 2024年6月23日 6時0分
2021年よりスペインでプレーする元日本代表DF丹羽大輝(38)が、スペイン4部に当たるアレナス・ゲチョでのシーズンを終え、スポーツ報知のインタビューに応じた。35歳での欧州初挑戦から約3年目のシーズンを終え、何を思うのか。異色のキャリアを歩む男に、2023―24年シーズンの振り返ってもらった。(前後編の前編 取材・構成 =金川誉)
5月中旬、スペインでのシーズンを終えた丹羽は空港へ向かった。今季限りでの引退をすでに発表していたシントトロイデンFW岡崎慎司、そしてフランクフルトMF長谷部誠のラストマッチをその目で見届けるためだった。
「ここ数年、ヤットさん(遠藤保仁)、俊さん(中村俊輔)、伸二さん(小野伸二)と一緒にやったことがあるレジェンドの人たちが引退しましたけど、どこか日本での報道を見ていても実感が湧かなかったんです。だから、肌で感じたいと思ったんです」
スペイン3年目の今季、昨季まで約2年間プレーしたセスタオからアレナスへの移籍を果たした。JリーグではG大阪、徳島、大宮、福岡、広島、FC東京でプレーしたが、海外での移籍は初。しかし、すぐに新チームにも順応した。リーグ戦31試合に出場。2得点も挙げ、チームの主力としてフル稼働した。18クラブ中5クラブが降格するシビアなリーグで苦しんだが、12位で残留を決めた。
「今シーズンに関しては、自分のキャリアの中でもパフォーマンス的にも、数字的(出場試合数)にもすごく良かったんですよ、自分の中で。全ての時間をサッカーに、ピッチの上でハイパフォーマンスを出すために、注ぎ続けた結果だと思います」
年齢は確実に重ね、コンディションが低下するのは自然の摂理と言える。しかし、丹羽はその摂理にすらあらがおうとしている。
「日本にいる時も、もちろん、試合に向けて集中はしていました。でも、本当に本当の意味で120パーセントそこに費やしていたかって言ったら、今の生活の方が費やしている。サッカーの練習以外にも、食事や体のケア(の徹底)。ジムには毎日3回行っています。練習前、練習後、寝る前に3回。(3回目の)寝る前はちょっとストレッチしたり、プールで体をほぐしたり、軽く筋トレを入れたり。日本の時はジムに行っても1日1回でした。今、何が必要なのかを考えて変えています」
日本でプレーしていたときから、丹羽がチーム内でもプロ意識の高い選手だったことは間違いない。しかし、それだけでは年齢にあらがっていくには足りない、と感じていた。
「年齢を重ねると、どうしても経験が邪魔して、これぐらいでやれちゃうという感じになる。でも、僕は逆を取らないと、と思っています。ひと回りもふた回りも圧倒的な努力をしないと、(力が)落ちていくんだろうなと。だから経験に基づいて効率よくやるのではなく、経験があるからこそ効率悪く、逆を取りに行くみたいな作業を今してるんです。たとえばフィジカルトレーニングでも、経験ある選手って要領よく走れたりとか、こなしたりできる。でもそれもわかりながら、あえてその1番最初に1番きついことをやりにいく。日本だと、4対2のボール回し(外の4人がパスを回し、中の2人がボールを奪う役)をやったら、最初は中に若い選手が入ることが多いけど、(チーム)最年長の僕が率先して中に入る。そういうことを続けて、今シーズンは試合にも出て、パフォーマンスにも上がって、ガチャガチャって歯車がかみ合ったな、と思ったシーズンでしたね」
ベテランとして振るまうのではなく、練習では率先して若手と同じメニューをこなす。その上で体のケアや準備は徹底する。30代後半となれば、サッカー選手として必要なフィジカル能力は低下していくのが常識とも言えるが、それすらも疑い続けた。結果、今季中には「自己最速のスプリントが出たんですよ」と笑う。しかしその分、体には大きな負担がかかり、回復などが遅れるのでは、という疑問にも、迷いなく言葉をつないだ。
「若い選手にもよく聞かれます。でも自分の中で(回復が遅れるようになった)実感がなくて。もちろん、疲労はありますよ。でも20代の時も試合の後は疲れていたし、疲労感で言うと、そっちの時の方が大きかったんじゃないかなっていうぐらい。そこは考え方を変える、というところで整理できています。若い時って、自分が若いってわかってるじゃないですか。だから試合終わった後でも、例えば疲れていたとしても若いからすぐ回復できる、とどこかで思っている。逆に言うと、35歳を過ぎて疲れると、年齢のせいで疲れが取れにくいな、って周りに言われて、本当に自分もそうなっていくんですよ。だから、僕はそっちに引っ張られないようにしています。その感覚が、自分には心地よくて。別にストレスにもなってないし、疲れているのに無理矢理、疲れてないって言い聞かせるわけじゃなくて、本当にそう思ってやっています」
それでも、そんな現役生活がいつまでも続く、と思っているわけではない。必ず訪れる引退を意識しているからこそ、今にすべてをかけている。
「いつ引退してもいい、って思っている自分がいるかもしれない。現実的には年齢を踏まえると、もう今年が最後でもおかしくない年齢に差し掛かってるのは事実。その危機感と覚悟が、パフォーマンスに繋がったのかもしれない。でも、ハセさんや岡ちゃんの引退試合を見ても、僕はまだ現役をやりたい、と思っている。危機感と、まだやりたい、という思い。このダブルが、今の僕を動かしてくれているという感じです」
6月22日、丹羽はアレナス・ゲチョとの契約延長を発表した。39歳となる来季も、スペインでの挑戦は続く。後編ではスペインで学び、感じていることをどう日本に還元していくか、について語る。
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