【高校野球】弘前学院聖愛・原田一範監督&東北・佐藤洋監督が名将対談…刺激を与え合う両者が語る自由とは
スポーツ報知 / 2024年7月1日 11時6分
“ノーサイン野球”を掲げ、今春は県大会優勝&東北大会準優勝を果たした弘前学院聖愛(青森)の原田一範監督(46)と、“自律・自立”をテーマに昨春のセンバツに出場した東北(宮城)の佐藤洋監督(62)。他校とは異なるアプローチで取り組む2人が、高校野球への熱い思いを語った。常に刺激を与え合う、似た者同士の2人が語る“自由”とは―。
(取材・構成=有吉 広紀)
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始まりは1本の電話だった。だが佐藤監督は以前から原田監督のことを知っていたという。
佐藤(以下佐)「監督になる前に(原田監督の)記事を読んで、こんな人が高校野球の監督をやっているんだ、いつか会いたいと思っていて。ごあいさつで電話したら意気投合した」
原田(以下原)「雑誌の企画にあった洋さんの原稿を読んで、すごく面白くて。あの洋さんから電話がきて、勉強させてくださいとか言うんですよ。それで(就任した22年の)10月に初めて練習試合をした」
その後も年2―3回の頻度で練習試合を実施。毎回ひと味違った取り組みをしてきた。
原「2試合目を(両校の選手を混在する)ミックスゲームにしてます。何も言わなくても生徒たちが、あのスライダーどうやって投げるの?とか自然にやり始めるんですよ。仲間としてお互いを高め合う、こういった交流がすべて」
佐「(他校からも)ミックスゲームやってください、と言われます。我々は正しいとか少しも思っていなくて、こういうチームもあります、どうですかと選んでもらうことで野球人口が増えるかなと考えている」
原「多様性の時代なので、選択肢の幅を広げる一つということです」
両指揮官とも“自由”という大きなテーマを持つが、その中で異なる部分もある。
佐「聖愛さんは自由の中にルールと秩序がある。僕は高校野球の世界が短くて、知らなかった形だった。うちが足りないところだし、もう一回見つめ直そうとしています」
原「ぶれないな、と思います。自分は結構強制していることもあるしきつく話すときもあるけど、それがない。子どもたちを思う本気度は想像以上です」
“自由”を掲げるだけに、周囲との受け取り方の違いを痛感することもあった。
佐「自由って、ワーッと怒るより一番厳しいやり方だと思いますよ」
原「自由にしていたら勝てなくなるでしょう?って言われるんですけど、勝つ負けるとは違う域の話なんだけど、と思うんです。勝つために練習しているし、試合も勝つためにやる。そこを放棄しているわけじゃない。子どもたちにいろんな経験をさせたい、考えさせてあげたいというだけ」
佐「我々がやっていることの答えって、30年後40年後に出るんです」
原「野球を通して社会で通用する人間を、と言うけど、それならば現役時代に答えはないんです。社会に出ていないから。だから彼らの今後が楽しみです」
佐「壮大なんですよ、2人の考えは。30年後40年後なんて、僕死んでるって(笑い)。でもそれでいいんです。少し早すぎてたたかれることがあるけど、今後我々が言っていることが当たり前になる世界が来るんです。間違いなく来る」
佐藤監督62歳、原田監督46歳。年の離れた2人だが、関係性はとても近い。
佐「上下関係がなくて、目線が同じ。同士ですね」
原「洋さんと呼ばれているから、自分も選手たちに『範さんって呼べ』って。慣れていなくて監督さんって言われると、『範さんって呼べって言っただろう!』と怒ってた。本末転倒です(笑い)」
夏の大会が宮城は6日から、青森は9日から、それぞれ始まる。
佐「ずっと楽しく、と言っている。楽しんで野球をやってくれればいい」
原「優勝を目指してやるのは大前提。一試合一試合、いろんな経験をして成長していければいい」
◆原田 一範(はらだ・かずのり)1977年9月23日、青森・北津軽郡生まれ。46歳。弘前工から日大に進み、96年に母校・弘前工のコーチに就任。2001年4月に弘前学院聖愛の監督に就任。これまで夏2度の甲子園出場。現役時のポジションは内野手。
◆佐藤 洋(さとう・ひろし)1962年6月9日、宮城・石巻市生まれ。62歳。東北では2年春夏、3年春夏の4度甲子園出場。最高成績は3年春の8強。電電東北(現NTT東北)に進み、84年ドラフト4位で巨人に入団。87年に一軍初出場。94年に現役引退。その後アマ野球の指導に携わり、22年8月から東北高監督に就任して23年春のセンバツに出場。現役時のポジションは内野手。
30日に東北高グラウンドで行われた練習試合では1試合目が3―2で弘前学院聖愛、2試合目が3―2で東北がそれぞれ勝利した。1試合目に先発した東北のエース・進藤愛輝(3年)は7回を2失点。宮城大会開幕(6日)前最後の練習試合。夏に向け、武器の直球主体ではなく、変化球を多めに投げ込んで「徐々に伸びは出てきたけれど、まだコースに投げきる力が足りない。もっと状態を上げたい」と感触を確かめた。
今年は3年生発案で、グラウンドのスコアボードに夏の大会開幕までのカウントダウンを設置した。「数字で目に見えると緊張感が出る。あっという間に一週間を切って、気合が入っています」と語る。昨春のセンバツは登板機会はなかったが、ベンチで聖地の空気を感じた。「本当に迫力があって楽しかった。最後の夏ということで、絶対に勝ってまた甲子園に行きたい」と力を込めた。(秋元 萌佳)
〇…試合後には礼儀作法を重んじる弘前学院聖愛ナインから、東北ナインにあいさつのレクチャーがあった。ハッキリとした発声で角度やタイミングまできっちりとそろったあいさつを教わった東北の畠山重汰主将(3年)は「本当に格好良くて、改めて自分たちも野球以外の面も大事にしようと思えた」。聖愛の貴田光将主将(3年)は「ただやるだけでないという自分たちのこだわりが伝わっていたらうれしい」と笑顔。最後は「甲子園で戦おう」と約束を交わして健闘を誓い合った。
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