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「人生はネタ作り」木下紫乃さん、週一でスナックのママ 「場の力」で誰かとつながり、自分の引き出しを知る

スポーツ報知 / 2024年7月2日 6時0分

「年齢も世代も制限のない、遠い親戚のようなコミュニティーを広げていけたら」と語る木下紫乃さん(カメラ・頓所美代子)

 ミドルシニア世代の生き方・働き方を支援する「株式会社HIKIDASHI」の代表・木下紫乃さんは「スナックひきだし」のオーナー・紫乃ママとしての顔も持つ。仕事を5回変わり、プライベートでは3度結婚するなど波乱すぎる人生経験から繰り出される紫乃ママの助言は、年齢も性別も置かれた環境も違う人たちの胸を打つ。家庭でも職場でもない「サードプレイス」が人生にもたらす豊かさについて迫った。(宮路 美穂)

 港区・赤坂にある駅近のビルの一室に「スナックひきだし」は店を構えている。壁紙やインテリアのしつらえ、小物もおしゃれで居心地の良い場所。紫乃さんはママとして木曜日の昼に店に立ち、一方で「HIKIDASHI」の代表として企業向けの研修や、40~50代のミドルシニア世代に「壁打ち」と称したキャリア支援を行っている。

 「もともとは、自分たちの世代が、しょぼくれないで生きていくような人が増えたら、若い人たちも年をとるのが怖くないと思えるんじゃないかと会社を作ったんです。今は、ひとりでも元気なミドルが増えるようであれば、仕事になることもならないこともやってるって感じです」

 起業したのは2016年、47歳のころ。「45歳から2年間大学院に行っていたんですね。それまで人材系の会社にいて『若いリーダーをどうやって育成していくのか』みたいなことを勉強しようかと思っていたんです。でも一緒に学ぶ若い子たちから就活の相談を受けると、自分にはやりたいことがあっても、ことごとく親が『なんでそんなワケわかんない会社に…』とブロックするっていう話が多かった。私は、もっと冒険する若い子が増えたらいいと思っていたんですけど、結局自分らぐらいの親世代が足を引っ張っているという現実が見えてきた。変わらなきゃいけないのは若い人じゃなくて、うちら世代じゃん?と思うようになって…」

 「HIKIDASHI」を興し、イベントや研修を企画したが「まあ、誰も来ないんですよね(笑い)。個別にお話を聞くと、結構悶々(もんもん)としてたりするんだけど、なかなか一歩踏み出したりセミナーに出るようなところまでいかない。もっとそういう人たちが来やすい場所を作らないといけないのかなって思い、始めました」。ちょうどそのタイミングで大学院の同級生がバーを開業。バーの開店前の時間を借り「スナックひきだし」の看板で週に一度、店に立つようになった。

 「最初は周囲の友達とかSNSで告知したぐらいなんですけど、セミナーだと人が来ないのに、スナックにするとめっちゃ人が来るんです。『せっかくなので自己紹介しよう』って言うと、本当に場の力だと思うんですけど、自分のことを話し出すんですよね。隣の人がどこの誰とも分かっていなくても『その悩みはこうしたら?』と屈託のない提案をし合える感じになって。うちらが欲しいのはこういう場なのかもしれない、と」。3年間の間借りを経て、コロナ禍の20年夏に、赤坂にオーナーとして店を構えた。

 ここ数年、ビジネスにおいて、自宅でも職場でもない「サードプレイス」の重要性が提唱されている。「例えばスターバックスさんが掲げているサードプレイスって、『仕事と職場以外でも、自分らしくひとりになれる場所』みたいな感じじゃないですか。うちは、スナックという場の力もあって、来たらみんな話し始めるみたいなちょっと変わった感じのサードプレイスに少しずつなっていった」と紫乃さんは語る。

 「もちろん、一期一会でもいいんですけど、普段あんまり会わないような他者と会うことって、結構人生にとって大事だと思っていて。名前も覚えてないような人に言われたことを、意外に結構聞いたりすることもあるじゃないですか。そういう機会を一個でも作れたらいいなと思っています」

 紫乃さん自身も、かなり波乱の人生を生きてきた。渡り歩いた会社は5社、間に2度の離婚、3度の結婚を挟んでいる。「ポンコツ人生」「どこに出しても恥ずかしい人生」と笑うが、それでもすべての選択は紫乃さん自身が決断し、下してきたものだ。

 「私は、自分の生き方が素晴らしいと1ミリも思ってないけれど、でも変えようと思えば変えられる。『これは嫌だ』と思ったら変えてきている、でも世の中には『変えられない』と思ってる人たちがすごいたくさんいて…。そんなことないよって言ってあげたい。そんな老婆心みたいなものでここに立っているんだと思います」

 いま「スナックひきだし」には、紫乃さんの曜日以外にも多くのママ、マスターが店に立つ。毎週の人もいれば、月1という人も、時々という人も。ペースは人それぞれだ。会社員や自営業、福祉、結婚相談所など、さまざまなバックグラウンドを持った人たちがカウンターに入って、その人自身の半径を広げていく。

 「自分の経験も踏まえてなんですけど、自分のいつものテリトリーから離れてまず一歩外に出て、参加者になってみて、それに慣れてきたら主催者になろうという話をしているんです。主催者って言うと大袈裟に聞こえるけど、飲み会の主催者でもいい。自分が主催者になると『どんな場にしようか』『何を残そうか』と考えるようになる。それって何物にも代えがたいリーダーシップ。自分で何かを作っていくっていう経験をみんなもっとやった方がいいと思う」

 店に立つ“主催者”によってコンセプトはさまざま。「思いとしては、自分がまず主催者になって人を集めてコミュニティを作ること。仲間がいれば自信もつくし、困ったらあの人に相談すればいいんだっていう人の輪っかを広げていく。やっぱり人とのつながりって、セーフティネットになるから。スナックって様式美というか、みんなフラットで、ママとかマスターとかを中心に人が繋がって何を話してもいい。普段は会議室で話すようなことを、場を移すことで意見を出させる可能性があるものは全部スナックでやりたいと思っています」

 紫乃さんは55歳で社会福祉士の資格を取得した。「たまに、『それスナックで話してる場合じゃなくない?』みたいなお話とかもあるんですよ。例えば旦那さんがめっちゃ朝から酒飲んでるとか、80代のお母さんが新興宗教にハマっちゃってるとか。そういうとき、どこに行って誰に相談したらいいかを伝えられたらもっといいなと思って」。資格取得を通じ、縦割りで閉じられたコミュニティになりがちな福祉を、ビジネスの視点からとらえることもできるようになった。

 人生100年時代と言われ、長く働く人たちも増えている。「長く働き続けていることは、福祉的な課題を持つ人が増えると思うんですよ。親の介護や自分の病気とか。福祉的課題を持ってるビジネスパーソンとかが、まず一旦相談できるような場もスナックで作っていきたいという思いはありますね」

 紫乃さんは「人生はネタ作り」と話す。端から見れば笑うしかないようなド派手な失敗だったとしても、その経験はきっと誰かの背中をドンと押すはずだ。スナックという「場の力」の魔法。誰かとつながることが、また新たな自分の引きだしを知るきっかけになるかもしれない。

 

 ◆木下 紫乃(きのした・しの)1968年、和歌山県生まれ。慶大卒業後の91年にリクルートに入社。度重なる転職を経て、2016年に40代、50代のキャリアを支援する「HIKIDASHI」を設立。「スナックひきだし」のオーナーも務める。著書に「昼スナックママが教える 『やりたくないこと』をやめる勇気」(日経BP)がある。

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