「緊張で手が冷たく」東京銀メダリストも震える過酷トレ レスリング日本代表「地獄の合宿」を記者が体験
スポーツ報知 / 2024年7月5日 5時0分
レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級の文田健一郎(28)=ミキハウス=らパリ五輪代表の男女4選手が4日、群馬・草津町で合宿を公開した。7日間の合宿の4日目。午前中は天狗山の急傾斜の山道を何度も駆け上がり、パリ五輪前の最後の追い込みを行った。レスリング担当の林直史記者が「地獄の合宿」で山道ダッシュを体験。五輪金メダルへ、草津で養われるスタミナと精神力の一端を肌で感じた。
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屈強な選手たちが1本のダッシュを終えるたびに斜面に倒れ込み、草まみれになって苦悶(くもん)の表情を浮かべた。草津町での伝統の合宿で、最も過酷とされる天狗山のトレーニングが5年ぶりに復活。代表4選手はスキー場のゲレンデの急傾斜を使ったダッシュなどを計14本こなし、文田は「心が鍛えられた。ここを上ると、試合に挑む気持ちがぐっと高まる」と、引き締まった表情で語った。
草津合宿は日体大が1985年に始め、今年で36回目を数える。何度も参加した文田も、合宿直前には「緊張で手が冷たくなって、朝ご飯を戻した」と震えるほどで、この“地獄の合宿”を想像しただけで体調を崩す選手も続出するとか。だが、草津の地に足を踏み入れれば、指導陣も選手も気持ちが高ぶり、極限まで追い込める独特の空気に包まれるという。
五輪選手も恐れるメニューはどれほど過酷なのか。来月に40歳を迎える記者もゲレンデのダッシュを体験した。まずは指導陣の勧めで中間地点から。余裕を感じ、今度はスタート地点から参加。これも先頭集団でゴールできた。だが、次周のために山を下りようとすると、「ピリッ」。太ももの内側と腰に張りが走った。危険を感じて続けられなかった。
斜面を振り返れば、ゴール地点は丘の上にあるように見えた。草が生い茂る斜面では足も取られ、一歩が進まなくなってくる。気温こそ20度前後と涼しいが、標高約1200メートルで空気も薄く呼吸もつらい。距離は数百メートルと短くても、繰り返すほどに過酷さは増すことは容易に想像できた。選手たちは終盤になるにつれ「天狗山サイコー!」と叫ぶなど、苦しさを通り越して笑顔を見せるようになっていた。気づいたら一体感も広がっていた。
21年東京五輪前はコロナ禍で合宿は中止。本番で文田は決勝で敗れた。日体大の松本慎吾監督は「何か一つ足りなかった」と、悔いが残っていたという。男子グレコ67キロ級の曽我部京太郎は「一番の追い込みができた」。育英大から女子57キロ級の桜井つぐみと参加した同62キロ級の元木咲良も「死にそうだったので、これ以上はないと思って試合に臨める」と自信を深めた。
体験し、取材を通して、選手たちは技量の向上とあわせ、「やりきった自信」を手にするために合宿に参加していることが分かった。金メダルへの“ラストピース”。今夏は天狗山からパリの頂へ駆け上がる。(林 直史)
◆草津合宿 今年は日体大、育英大、自衛隊が合同で企画し、7月1日から7日まで実施。五輪代表5人を含む各所属から選手が参加。マット練習やトレーニングなど、2部練習が基本。山道でのダッシュや森林コースでのランニング、腕立てをしながら原っぱを進むなど、自然に囲まれた環境を生かしたトレーニングも組まれている。
◆レスリング界の過酷なトレーニング 64年東京五輪で、当時の日本協会会長の八田一朗氏(故人)がライオンとにらめっこをさせて度胸を鍛えるなど独特の強化策で“八田イズム”と呼ばれた。女子は毎年、新潟・十日町市の山の中にある桜花道場で強化合宿を実施。かつては五輪イヤーの“年越し合宿”も恒例行事で、初日の出を浴びながら寒中水泳を行った年もある。アテネ五輪前には、女子代表の浜口京子らが富山合宿で滝行を行った。パリ五輪代表の須崎優衣は今年5月、ロシア南部のダゲスタン共和国で単身武者修行。動物園で熊、虎、オオカミがいる檻(おり)の中にも入って精神力を磨いた。
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