パリ五輪で兄妹同日連覇へ 「苦しさは２倍。喜びも２倍」阿部一二三、「兄がいることで大丈夫と思える」詩…２９日未明大一番

単独取材に応じ、兄妹で五輪連覇を誓った阿部一二三と詩（カメラ・小林　泰斗）

　パリ五輪開幕が２６日（日本時間２７日未明）に迫った。スポーツ報知ではカウントダウン連載を開始。初回は今大会のハイライト、２０２１年東京五輪の再現となる柔道男子６６キロ級の阿部一二三（２６）、女子５２キロ級の阿部詩（２４）＝ともにパーク２４＝の兄妹（きょうだい）同日金メダルへの挑戦だ。一二三と詩が１６日までに単独取材に応じ、２８日（同２９日未明）に臨む「兄妹同日２連覇」への歴史的一戦に向けて心境を語り、互いにエールを送った。

（取材・構成＝林　直史）

　前人未到の同日金メダルに輝いた東京五輪から３年。阿部兄妹が再び偉業に挑む。柔道の日本勢で五輪を連覇したのは男子４人、女子が３人。ただでさえ重圧がかかる挑戦。それを２人そろって期待される特殊な状況をどう捉えているのか。

　詩「一緒の状況がもう１人いて、血がつながっていると思うと心強い。これが１人だともっと不安になると思うけど、兄がいることで大丈夫って思える。自分自身が勝ち上がれば（兄も）絶対、勝ち上がってくるって信じている」

　一二三「プレッシャーはかかっているけど、そこは兄なので。苦しさは２倍。でも、喜びも２倍だと思う。そこでいいバランスは取れている」

　一二三は東京五輪では丸山城志郎（３０）＝ミキハウス＝と激しく代表を争った。日本柔道初のワンマッチ代表決定戦により、決着を迎えたのは２０年１２月。男女１４階級で最後の代表決定だった。過去３勝４敗の強敵との決着戦は新型コロナ禍で無観客。２４分の死闘の末に大内刈りで技ありを奪い、優勢勝ちで１枚の五輪切符をもぎ取った。

　その経験値から「気持ちの面は間違いなく強くなった」。パリ五輪は１年以上前の昨年６月に柔道競技で最速で内定。パリは３年間無敗の五輪王者として本番を迎える。ここまでの道のりを「しっかり勝ち続けられたことが良かった。隙のない柔道ができるようになってきた」と胸を張った。

　詩は東京五輪後、不安を抱えていた両肩の手術からのスタートだった。リハビリ期間も「思っていたより苦しくはなかった。この肩が治って、どう前の柔道から変化できるんだろうとか、逆に楽しみの方が勝っていた」と下を向くことはなかった。復帰後は世界選手権を連覇。兄とともに最速で五輪切符を獲得し、妹もまた３年間無敗でパリの畳に立つ。

　２人にとって、未知の要素は試合順だ。これまで五輪や世界選手権は女子→男子の順で決勝が行われてきたが、史上初めて男女出場数が同じになるパリ五輪は、男女平等の視点から試合順は１日ごとに入れ替わる。阿部兄妹の試合は男子→女子で実施されることになった。一二三の金メダルが決まる男子６６キロ級決勝の後は、女子５２キロ級の３位決定戦と決勝を順に実施。詩の決勝が終わるのは日本時間２９日午前１時過ぎの見込みで、およそ３０分後には史上初の兄妹五輪連覇の達成となる。その状況をどう感じているのかを聞くと、兄は涼しげな顔で言った。

　一二三「僕は何とも思わない」

　詩「素直に嫌ですね。先に優勝して喜んでおきたいなって。兄が優勝して『いいな』って気持ちで決勝に挑むのがきついし、『待ってるやん』とちょっとなりそう」

　一二三は以前から、野村忠宏氏の最多３連覇を超える４連覇を目標と公言。足がかりとなるパリへ闘志も高ぶる。

　一二三「２連覇しないと、４連覇もない。パリでは自分の柔道をして、圧倒的な力を見せてオール一本勝ちで優勝できるように頑張りたい」

　目前に迫った２連覇に集中する詩は「パリが直前すぎて（五輪後に）考えがいかない」と足元を見つめるが、胸に秘めた思いはある。

　詩「自分の中では一つの五輪として捉えているので、あまり連覇ということは意識してないけど、女子で３連覇はいない。それは成し遂げたい」

　今五輪のハイライトとなる兄と妹の黄金リレー。完遂まで、まさに手に汗握る「３１分」となりそうだ。

◆阿部兄妹の東京五輪同日金メダル　２１年７月２５日、柔道男子６６キロ級と女子５２キロ級が行われ、決勝は先に詩が一本勝ちを収め、約３０分後に一二三が優勢で勝ち、日本勢初の同日金メダルを達成した。

◆柔道で五輪を連覇した日本勢　連覇は過去７人。男子は野村忠宏が最多３連覇。斉藤仁、内柴正人、大野将平が２連覇している。女子は谷亮子、谷本歩実、上野雅恵が２連覇。パリ五輪では阿部一二三と詩に加え、男子で８１キロ級の永瀬貴規、１００キロ級のウルフ・アロン、女子は７８キロ超級の素根輝に２連覇が懸かる。