1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. 野球

なぜ現代のプロ野球選手は歌わなくなったのか 「プロ野球音の球宴・ディスクガイド」著者・F.P.M.中嶋さんに聞く

スポーツ報知 / 2024年7月19日 11時30分

「プロ野球音の球宴・ディスクガイド」を上梓したF.P.M.中嶋さん。膨大な野球レコードを所有している(カメラ・加藤弘士)

 バンド「東京タワーズ」のドラマーとして活躍し、野球関連レコードがターンテーブル上でひたすら再生される夢のDJイベント「音の球宴」を主宰するF.P.M.(ファンタスティック・ピッチング・マシーン)中嶋さんの著書「プロ野球音の球宴・ディスクガイド」(東京キララ社)が、好事家たちの間で人気を呼んでいる。収録曲は実に756曲。世界初、かつてないディスクガイド164ページに込めた思いを聞いた。(聞き手・加藤弘士)

 ◆奥行きが広がっていった「家族もの」

 -ついに出ました野球レコードのディスクガイド。中嶋さんにとっては悲願だったと思います。構想何年という感じですか。

 中嶋「10年以上にはなりますよね。ある程度コレクションが集まった段階で、何か作れたらいいなと思っていたんですけども。東京キララ社の社長の中村(保夫)さんからも、ぜひ出しましょうとお声掛けいただいて」

 -面白かったのが、ジャンルを「球団愛」「選手愛」「アンチもの」「選手歌唱」という形でカテゴライズしている点です。

 中嶋「まず、もともと自分の中ではおおまかに選手歌唱もの、球団歌、応援歌、それもオフィシャルのもの、アンオフィシャルなものぐらいに大まかに分けていたわけですが、そこでさらに細かなカテゴリーを作った方がいいと思いまして。野球レコードって実際、聴いている人っていうのはそんなに多くはないと思うんですよ」

 -メガヒットになったのは一部ですからね。

 中嶋「曲を知っている人が少ないので、どういう曲なのかっていうのを端的に一言でわかってもらうためにも、細かなカテゴリー分類があった方がいいのかなっていうのは考えました」

 -中でも「家族もの」というジャンルは大きな発見です。

 中嶋「自分の中で、野球レコードの収集が頭打ちというか、どこの中古レコード店を回っても、すでに入手済みのものばかりしか見かけなくなって、ちょっと行き詰まった時に、思いついたのが『家族もの』だったんです。そしたらどんどん奥行きが広がっていって」

 -いつぐらいのタイミングですか?

 「十数年前、AKB48に倉持明日香さん…倉持明の娘さんがいて。同じ時期に元巨人の大森剛さんの娘さんもいる。そっか、野球選手の娘がアイドルグループに加入したりするっていうことも今、ありえるんだなと思って、いろいろ調べてみたら、野球選手の娘がアイドルグループに加入してるっていうケースがいくつかあることを知り、さらに考えてみたら、結婚相手も以前だったらCAさんっていうのが野球選手の定番の相手だったけれども、レコードデビューしているアイドル歌手とか、女性シンガーも結婚してるパターンがある。しかも娘がまた、アイドルとして活動していうということを知り、これだ!と」

 -それは、野球レコード収集の旅が終わらないことを意味しますよね(笑)。

 中嶋「野球選手の妻もの、元妻ものっていうのはまだまだ、掘り下げる余地もあるっていうことで(笑)」

 -野球レコードの制作陣には大物の作詞家、作曲家が本当に多くて、あの人がこんな曲を!?っていうのもディスクガイドの面白さかなと思いました。

 中嶋「一冊の本の中にこれだけ星野哲郎、中山大三郎って名前が出てくる本もないんじゃないかと(笑)」

 -「きたかチョーさんまってたドン」の作曲と編曲は細野晴臣さん。「ブッチー音頭」のアレンジャーが佐久間正英さん。そういった音楽家の素敵なエッセンスが凝縮された作品も多いですね。

 中嶋「音楽ジャンルの中でも、本当にオールジャンルになりますからね。演歌、ムード歌謡からディスコ、ニューウェーブまで」

 ◆巷から“野球レコード”が消えた理由

 -なぜ昭和ではこれほど様々な野球選手が歌を出したのに、令和の野球選手は歌わなくなったんでしょうか?

 「自分のあくまで説ですけれども、イチロー選手の台頭以降、プロ野球選手が以前の夜の銀座や北新地のブランデーの香りから脱して、アスリート化していくと。芸能にはあまり目を向けずに、ストイックにスポーツにひたむきに取り組んでいく姿勢みたいなのが、イチロー選手以降、そういうケースが多くなった。それはダルビッシュ選手とか大谷選手の流れに繋がっていきますけれども」

 -そう考えると、野球選手と晩ご飯を食べに行った際に、お酒を飲まない選手が増えましたね。ウーロン茶で、ご飯だけ食べて帰るみたいな。

 中嶋「しかも徹底して食べるものも気を使って。昭和の時代だったら、銀座のブランデーの香りが漂う店内で大物作家先生に『キミ、歌がうまいらしいじゃないか。今度、ワシが書いてやるから出してみようか』みたいなことがあったんじゃないかと。平成以降、選手がアスリート化していく中、そういうムードが消えていって、自然と野球選手がレコードを出すっていうことも廃れていっちゃったのかな」

 -野球人の音源を集めてきた中嶋さんとしては、寂しさがありますか?

 中嶋「それも時代なんだろうなっていうふうに思うんですよね。今回のこの本の中では、たぶん現役の選手がリリースしたケースでは、おそらくこれが最後だと思われるものっていうのが、元中日の平田良介さんの『夢よ!叶え!』。出囃子に自分自身が歌っている曲を使っていて、2014年にCDとして発売されたんですが、これが現役選手が出した最後の音源じゃないかなと思っています。それ以降ではベイスターズの複数の選手がチームの球団歌を歌っていますが、ソロでの現役選手は平田選手が最後ではないかと」

 -大仕事を成し遂げた今、さらにやってみたいことは、ありますか。

 「できることなら、歴史研究的な部分を掘り下げて、野球レコードを語ることができたらいいなと考えてます。そうなると、文献を探すのが大変な作業になるかなと思うんですけど。DJとしても、今後もイベント『音の球宴』を開催していきますので、ぜひ興味を持った方には足を運んでいただきたいですね」

【取材後記】

 F.P.M.中嶋さんは唯一無二の人である。野球レコードのコレクターとして「タモリ倶楽部」に出演するなど、文化系野球シーンをけん引したことで知られているが、その一番の魅力はやはりイベント「音の球宴」におけるDJプレーにあると断言できる。

 フロアの熱気を察知して繰り出される中田良弘「How many いい顔」に落合博満・落合信子の「そんなふたりのラブソング」、「ロッテ親衛隊のうた」、「嗚呼!深紅の旗 東京へ還る」(色鉛筆)、「甲子園」(ランナーズ)、「あなたまかせの夜」(江本孟紀・センセーション)、「新・射手座の女」(敏いとうとハッピー&ブルー)の高揚感たるや! 野球レコードで歌い、叫び、踊る。こんな甘美なひとときが、果たしてあるだろうか。いや、ない!

 私は「音の球宴」の世界観に魅了されて、もう20年以上が経つ。野球を愛する一人でも多くの方々に、中嶋さんが繰り広げるDJプレーの胸躍る瞬間を味わっていただきたい。まずはこのディスクガイド(読んでいるだけでめちゃくちゃ面白い)を熟読し、来たるべき次回の「音の球宴」へと備えてほしい。全ての文化系野球ファン、必読の一冊だ。(編集委員・加藤弘士)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください