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「体操バカ」内村航平さんを「深みある人間」にした五輪 東京で「一段落ちた」価値をパリでこそ伝えたい

スポーツ報知 / 2024年7月26日 6時0分

五輪への思いを語った内村航平さん

 パリ五輪は26日(日本時間27日未明)に開幕する。スポーツ報知の特別コラムニストを務める、体操男子個人総合連覇の内村航平さん(35)が、4度経験した五輪の価値を熱く語った。大会期間中、現地で精力的に取材。鋭い感性と豊富な経験を下敷きにした「キングの考え」を随時掲載する。

 自分を証明した大会こそが五輪でした。免許証、マイナンバーカードに並ぶ、証明書。出てないと自分じゃなくなるような感覚。僕は2022年に現役を引退しましたが、今回は伝える側、応援する側として携わります。見る五輪は04年アテネ五輪以来、20年ぶり。やはり、自分と五輪は切っても切り離すことができません。

 競技人生で4度の五輪を経験し、「ただの体操バカ」で終わらなかったなという気がします。深みのある人間に成長できた実感もあります。自分が強くなりたいだけで始めた体操で世界一になり、最初はそれだけでいいと思っていました。しかし、実際に頂点に立つと見える景色は一変。本当にたくさんの人に応援されていることに気付き、自分も周りに大きな影響を与えている。それは五輪に出て活躍しないと気付けなかったと思います。

 団体を制し、個人総合でも連覇した16年リオ五輪で引退していたら、それこそ本当に「体操バカ」で終わっていました。21年東京五輪は鉄棒に絞って出場。でも、結果は出なかった。基本的に努力すれば結果は出ると思っていた人間が、努力をしても出ないということを知りました。努力しても、望む結果が出ないことはある。でも、努力することは大切で、意味があると思えました。

 リオ五輪以降は、度重なるけがでなかなかうまくいかず、17年世界選手権は左足首を痛め途中棄権、そこから両肩痛と次々負傷。体は悲鳴を上げていました。普通なら「つまらない」「つらい」「苦しい」で終わるはずですが、僕はそれを「おもしろい」と思えてしまった。新しい境地に行ったなっていうか。だからこそ、引退しても続けている。体操研究家ですね。今もメチャクチャ面白いし、6種目全部できる。なんならブレトシュナイダーも【注】。急きょ「交代!」と言われても(出場する)自信はあります(笑い)。

 パリと前回21年東京との大きな違いは観客の有無。例えると、有観客での五輪は音量マックスのヘッドホンを押さえつけられているような感覚。全ての大会で鮮明に覚えているのはやはり会場の雰囲気で、それほど観客の作り出す空気感はその五輪を象徴すると言っても過言ではありません。

 12年ロンドン五輪の個人総合決勝は、出場選手が24人もいる中、「みんな僕しか見てないな」という感覚がありました。「これを団体でできたら多分勝てる」と学び、実際に次のリオでは団体を制覇。あの時は白井(健三さん)が跳馬の着地を止めた瞬間から、一気に歓声が日本寄りになりました。

 今の日本代表には「会場を日本の色に染めろ」と伝えました。演技で観客もまるっと引き込む。今回の男子団体は日本と中国の一騎打ち。どの国が、どっちの色に染めるかが勝敗を分けると思います。日本は最もバランスのいい5人の組み合わせで、得意種目の偏りもなくベスト。イメージカラーは「黒」。なぜなら、どんなにカラフルな色も全て混ぜて、まとまると真っ黒になるから。

 五輪代表として出場する選手にはまず楽しんで、良い経験をしてほしい。あと選手村に入ったら、そこでしか買えないお土産を初日か2日目には買うことが大切。後ろの方では確実になくなる。僕は先輩たちからそこまでは教わらなかった(笑い)。1回経験しないと分からないこととも言えます。

 現役時代は、12月頃に受けたインタビューが、五輪イヤーの1月1日付に掲載されると「今年は五輪だな」とスイッチが入ってました。でも、今回はまだ実感が湧いていない。「応援される側」から「する側」に変わり、今本当に見ている方々と同じように「選手のみなさん、本当に頑張ってください!」という気持ち。体操以外は、あまり深く知らないまま競技を見て、見ている方々と同じような疑問や感情を選手に素直に聞いていこうと思います。

 そして今回、僕たち「五輪を伝える者」には大きな使命があると思っています。正直、僕は東京大会で「五輪」そのものの価値が一段落ちたと感じている。さまざまな問題が起き、本来なら「スポーツで国民に活力を届ける」はずの五輪が、全く違う話題で注目を集めることが多かったと思います。「そこまでして五輪をやる必要あるんですか?」と言われてしまうような。広い目で見ると、五輪の価値が下がると、日本としても元気がなくなっていく気がする。

 選手だけでなく、伝える僕らもそこは意識してやらないといけないという思いがあります。もう一回、ちゃんと五輪の価値をみなさんに分かってもらうための大会こそが、パリ五輪なんじゃないかなという気がするんです。僕のやるべき大きな仕事は、多分そこにあります。(体操男子個人総合12年ロンドン、16年リオ五輪金メダリスト)

 【注】ブレトシュナイダーは、鉄棒でバーを越えながら後方抱え込み2回宙返り懸垂(コバチ)を2回ひねりながら行う技。14年にアンドレアス・ブレトシュナイダー(ドイツ)が披露したH難度の大技。内村さんの現役時代の代名詞、武器にしていた技でもある。

 ◆内村 航平(うちむら・こうへい)1989年1月3日、北九州市生まれ。35歳。両親が長崎・諫早市で設立した体操クラブで3歳から競技を始め、夏季五輪の個人総合は2008年北京銀、12年ロンドン、16年リオで連覇。リオでは団体も優勝。21年東京大会も出場し、五輪は種目別を含め通算7個のメダル。世界選手権は09年ロンドンから15年グラスゴーまで個人総合6連覇など10個の金含む21個のメダル獲得。パリ五輪ではNHKでアスリートナビゲーターを務める。162センチ。

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