【パリ五輪】平均年齢４１・５歳「初老ジャパン」が銅メダル 田中利幸「奇跡の連続」…馬術９２年ぶりメダル

総合馬術団体でベルサイユ宮殿を背に障害を飛越する大岩（カメラ・岩田　大補）

◆パリ五輪　第４日　▽総合馬術（２９日、ベルサイユ宮殿）

　２９日に行われた馬術の総合馬術団体で、大岩義明（４８）＝ｎｉｔｔｏｈ、戸本一真（４１）＝日本中央競馬会＝、北島隆三（３８）、田中利幸（３９）＝ともに乗馬クラブクレイン＝の日本が銅メダルを獲得した。馬術の日本勢では１９３２年ロサンゼルス五輪の障害飛越個人で優勝した西竹一以来、９２年ぶり２個目のメダル。北島の馬が馬体検査をクリアできず減点で５位に下がったが、代わりに田中が出場した最終種目の障害馬術で追い上げ、３位に食い込んだ。

　昭和生まれの「初老ジャパン」が、涙の大逆転劇で表彰台に立った。最終３人目の大岩は、表彰台へミスは許されない中で執念を見せた。人馬一体となり最後の障害物を飛び越え、走行を終えると右腕を突き上げた。「やった！」と馬の背中に触れ、仲間とも抱き合うと「信じられない。集大成でメダル。やっとたどり着けた」と歓喜した。戸本が「ミラクル」と言えば、田中も「奇跡の連続」と広大なベルサイユ宮殿でうれし泣きした。馬術の日本勢で９２年ぶりのメダルをつかみ、再び時計の針を動かした。

　アクシデントに見舞われた。２８日の第２種目のクロスカントリーを終えて、メダル圏の暫定３位につけた。だが、北島の馬が左後ろ脚を負傷していたことが判明。夜通しでアイシングなどで回復を目指したが、同日朝の馬体検査をクリアできず、競技開始約２時間半前に補欠の田中が代わりに出場した。

　メンバーの入れ替えにより日本は２０点減点され、暫定５位に降下し、戸本は「朝は諦めかけた」。しかし代役の田中が「何か問題が起こる可能性は十分あるので、最終日に向け準備はできていた」と会心のパフォーマンス。続いた戸本、大岩も奮闘し計２点の減点で抑えた。キス・アンド・クライで祈るように見つめた北島も「感謝しかない」と涙が止まらなかった。

　北島も含めて４人は英国を拠点に置く。大岩は強くなる環境を求めて２５年前に渡欧。日本では年に４～５回というクロスカントリーの試合が、欧州では毎週開催されるからだ。１８年から一緒に練習する４人は「初老ジャパン」と呼んできた。平均年齢は４１・５歳のチームは「経験」を強みに、集大成と位置づけてきたパリで、夢を結実させた。（宮下　京香）

　◆総合馬術　「馬術のトライアスロン」と言われる。１頭の馬と１人の選手が３日間を通じて行う馬術の要素を盛り込んだ複合競技。〈１〉３種の歩法を取り入れた調教度合を審査する「馬場馬術」〈２〉丸太や水濠などの障害物を飛越する「クロスカントリー」〈３〉障害飛越競技の３種目を減点法で換算し勝敗を決める。

　◆バロン西　１９３２年ロサンゼルス五輪の障害飛越で金メダルを獲得した西竹一は、東京・麻布の男爵家出身。映画俳優のチャーリー・チャップリンらとも親交があるなど、欧米の社交界で人気があり「バロン西」と呼ばれて親しまれた。第２次世界大戦が始まると戦車隊として活動。４５年３月の硫黄島の戦いで戦死した。訃報を知ったのか、ともに世界を沸かせた愛馬「ウラヌス」も同月末に後を追うようにして死んだという。

　◆１９３２年（昭和７年）の世相　武装した陸海軍の青年将校たちが犬養毅首相を殺害する「五・一五事件」が勃発（ぼっぱつ）。関東軍が満州（現中国東北部）全土を占領した「満州事変」が前年に起こり、満州国の建国宣言が出された。日本ダービーの第１回となる「東京優駿大競走」が創設されたのもこの年だった。

　◆北島　隆三（きたじま・りゅうぞう）１９８５年１０月２３日、神戸市生まれ。３８歳。奈良・山辺―明大卒。リオデジャネイロ、東京五輪代表。騎乗馬はセカティンカ号（２００７年生まれ、牝馬、鹿毛）。

　◆戸本　一真（ともと・かずま）１９８３年６月５日、岐阜・本巣市生まれ。４１歳。各務原西―明大卒。東京五輪個人４位。騎乗馬はヴィンシー号（２００９年生まれ、セン馬、鹿毛）。

　◆田中　利幸（たなか・としゆき）１９８５年２月２日、福岡市生まれ。３９歳。福岡第一―日本経大卒。１２年ロンドン、２１年東京五輪出場。騎乗馬はジェファーソン号（２０１１年生まれ、セン馬、鹿毛）。

　◆大岩　義明（おおいわ・よしあき）１９７６年７月１９日、名古屋市生まれ。４８歳。ｎｉｔｔｏｈ所属。名古屋学院（現名古屋高）―明大卒。北京から５大会連続五輪代表。騎乗馬はグラフトンストリート号（２００８年生まれ、セン馬、鹿毛）。