体操エース・橋本大輝「みんなのおかげでもう一度奮起できた」左肩に違和感かかえ迎えた大一番で最高の笑顔…パリ五輪

男子団体総合で優勝を決め、表彰台で喜ぶ日本チーム（カメラ・岩田　大補）

◆パリ五輪　第４日　▽体操男子　団体決勝（２９日、ベルシー・アリーナ）

　男子の団体決勝が２９日に行われ、予選２位通過の日本は、２５９・５９４点で金メダルを獲得。２０１６年リオデジャネイロ五輪以来、２大会ぶり８度目の五輪団体王者に輝いた。予選首位通過した最大のライバル・中国との一騎打ちを制し、王座奪還。５種目を終え、中国との３・２６７点差を最後の鉄棒で劇的大逆転。決まれば優勝確実の極度の緊張感で、２１年東京五輪金メダリストの橋本大輝（２２）＝セントラルスポーツ＝が着地までまとめ、エースとしてチームを頂点に導いた。

　この瞬間をずっと待っていた。０・１０３点差でわずかに届かなかった東京五輪の金メダル。そこから３年、得点が響いた瞬間。橋本の隣には笑顔に涙、歓喜を分かち合える最高の仲間がいた。「マジでうれしいっすね。みんなが死ぬほどハグして、さっきハグしたのに、なんかもう一度、ハグしたくなったり。個人総合で感じたことのない気持ちが出てきた」。ずっと欲しかった団体での金。想像を超える幸せがあった。

　衝撃の展開にどよめく会場で、託されたエースはただ一人、自分の世界に入り込んだ。下を向いて集中し、周囲の音をシャットアウト。“絶望的”とも言える３・２６７点差で迎えた最後の鉄棒で、中国にまさかのミスが連発。最終演技者・橋本が決めれば大逆転が見えた。湧き起こる「ニッポン」コール。メダルの色が自分の演技で決まる。この瞬間に、思わず瞳もうるんだ。

　息をのむような緊張感。Ｆ難度「リューキン」から次々離れ技を決めた。「最終的に見たことないような演技」（水鳥寿思・強化本部長）で、予選で乱れた着地も抑えた。すでに跳びはねる仲間たち。橋本も力いっぱい何度も腕を振り上げ、「最高。幸せ」。盛大に会場をあおった。

　「ちょっと背中たたいてください」。鉄棒の演技前、日本チームに声をかけた。「弱めに」と依頼も、一番強かったのは萱。２１年東京五輪でともに０・１０３点差の銀を経験し、この日もあん馬で落下し「自分のせいで金を逃したかも」と落胆する橋本に「諦めんな！」と励まし続けてくれた主将だ。自分一人だったら、立て直せなかったかもしれない。「みんな『ありがとう』と言ってくれるけど、みんなのおかげで橋本大輝がもう一度奮起できた。これだけ言いたかった」

　自身２度目の五輪。橋本は４月の全日本で本番を見据えた納得の内容で４連覇。五輪３冠も確実。順風満帆だと思っていた。だが、５月に右手中指を負傷。「金メダルをどう取るのかも考えられなかった」。公の場では気丈だったが、本当は不安で押しつぶされそうだった。よく分からない感情のまま代表合宿へ。練習場のドアを開くと「金メダル」に向かって励むメンバーの姿。「僕はもう一度、チームのために頑張りたい」と覚悟が決まった。仲間がいなければ、橋本はここにいなかったかもしれない。

　実は今月、左肩に違和感が生じ、万全とは言えない中で迎えた大一番だった。予選では鉄棒連覇の道が途絶えた。今は確かに、絶好調とは遠い状況かもしれない。それでもみんなはエースを信じてくれた。「俺はみんなのために戦う。弱い気持ちは捨てる」。チームへの思いが、橋本を突き動かした。（小林　玲花）

　◆体操男子団体の東京五輪　全員初出場の橋本大輝、北園丈琉（たける）、萱和磨、谷川航の４人で臨み、６種目合計２６２．３９７点で銀メダルだった。４種目を終えて首位と３．４７２点差の３位。平行棒で萱、北園が１５点台。首位と１．２７１点差に迫り迎えた最後の鉄棒は、最終演技者の橋本が着地まで完璧に決めて１５．１００点。優勝したＲＯＣ（ロシア・オリンピック委員会）にわずか０．１０３点届かなかった。