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フェンシング フランス人コーチと選手つなぐ“橋渡し役” 日本の躍進を陰で支える郷倉マリーン通訳「選手は私の誇り」…パリ五輪

スポーツ報知 / 2024年8月7日 7時0分

男子フルーレ団体後、写真撮影する(左から)エルワン・ルペシュー・コーチ、郷倉マリーン通訳、フランク・ボアダン・コーチ

 パリ五輪でメダル5個を獲得したフェンシング日本代表。金メダルに輝いた男子フルーレ団体では、フランス代表として5大会連続出場し、2021年東京五輪金のエルワン・ルペシュー・コーチの招へいなど、協会をあげての強化が実った。そしてルペシュー氏を含む3人のフランス人コーチと選手をつなぐ橋渡し役として、チームに尽力するのがスポーツ通訳の郷倉マリーンさん(30)。スポーツ界では珍しい日仏の通訳だ。

* * *

 情熱的で、雄弁なルペシュー氏。ミックスゾーンでは、同氏の言葉が同じ熱量で日本語に変わって記者の耳に届く。「私は、自称・カメレオン通訳。その人になりきって、その人の温度感で話します」と郷倉さん。フルーレ統括コーチのフランク氏やサーブルのジェローム・コーチの時もそう。選手がまるでコーチと2人で会話しているかのような空間を作り出すことが、スポーツ通訳としての使命という。

 フランス人の母、日本人の父を持ち、東京に生まれた。幼少から高校卒業までを都内のフランス人学校に通い、東京女子体大ではトランポリン部だった。大学4年の時、仏代表の通訳を手伝ったことがあったが、一度は一般企業に就職。ただ「やっぱり面白かった。天職だなと思った」と、通訳としての仕事を志す中でフェンシング協会と出会った。2018年。「確かにフランスのスポーツで見たことはあったけど(種目が)3種目あることも知らなかった」という世界に、飛び込んだ。

 母からは言われていた。「通訳は、経験だよ」。仕事のノウハウは全くない。フェンシングの専門用語も分からず、聞こえる言葉をそのまま変換するところから始まった。当然、コーチや選手の意志と異なる形で伝わったこともあった。例えば「デガジェ」という、相手の剣の下を回して反対側に交差させる技。「デガジェ」はフランス語で「どく、どかす」という意味があるという。「コーチが『そこ、デガジェ!』と技のことを言っているのに『私がどかなきゃ』と思って下がったり。初心者の時は、その場からどけと言っているのか、技のことを言っているのか、分かりませんでした」。気が付いたことをノートをつける。その習慣は、今でも変わっていない。

 男子フルーレは、東京五輪後にルペシュー氏が就任したチーム発足時から関わってきたという。フェンシング界のレジェンドでありながら、優しさにあふれているというルペシュー・コーチ。「私が訳した限りだと、9割はポジティブな言葉」。「最高!」「気にしない!」などを、豊富な言葉のバリエーションで伝えるという。一番最初に覚えた日本語は「大丈夫」。郷倉さんは「最近は、とうとう自分で日本語で『完璧!』って言うようになりました」と笑って明かす。

 通訳として心がけることは、まさに通訳に徹する事。コーチと選手がマンツーマンで練習する「レッスン」時は、隣にはいるが両者が言葉を発さない限り、口を開かない。パーソナルなミーティングの時も、選手には「私を見ないで、コーチだけを見て」と伝えるという。「パーソナルな時は、2人がお互いを見て、ただ日本語とフランス語が聞こえてくるだけ、ということは徹底します。真剣な感じ、楽しそうな感じ、その世界観を通訳が邪魔をしてはいけない。純度100%の言葉を届ける。そこはすごく、気を付けています」。あくまで黒子役。コーチ、選手に寄り添いながら、プロとして一線は越えない。

 それでも5年前。一度、女子フルーレの試合中にあまりもの激闘で、フランクコーチが言っていないにも関わらず選手に「頑張れ!」と叫んでしまったことがあった。すぐに「ハッ! ヤバイ!」と、試合後チームに謝罪。その際、フランクコーチがかけてくれた言葉が、今の郷倉通訳の礎にもなっているという。「ニュートラルに、正確に、スピード感を持って訳すことは大事だけど、ちゃんと応援してくれる人がチームにほしい。ロボットみたいな通訳は、求めていない。マリーンもチームの一員なんだから、言いたい事があったら言っていいんだよ」。プロとして守るものはあるが、共に冒険する仲間の1人。郷倉通訳は「フランクは、私をすごく尊重してくれる」と感謝する。

 パリ五輪では、出場した団体種目全てでメダルを獲得し、個人でも男子エペの加納虹輝(JAL)が金。男子フルーレ団体の表彰式後、郷倉通訳は「この選手たちは、本当に私の誇りです」と、喜びもひとしおだった。「私は、成功を願っているスタッフの1人。フランス語で『アントラージュ』。通訳という、一番の特等席で見させてもらっているんです」。コーチと選手を、言葉でつなぐ仕事。そして日本チームの心のつながりを、陰で支えている。(大谷 翔太)

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