「相撲レスラー」日下尚が激戦区・グレコ77キロ級で金メダル 名前の由来となった名ランナーと同じ舞台で頂点に
スポーツ報知 / 2024年8月8日 22時45分
◆パリ五輪 レスリング男子グレコローマンスタイル77キロ級(7日・シャンドマルス・アリーナ) ▼決勝 日下尚(三恵海運)5―2ジャドラエフ(カザフスタン)
7日の男子グレコローマンスタイル77キロ級で初出場の日下尚(23)=三恵海運=が金メダルに輝いた。決勝でジャドラエフ(カザフスタン)を5―2で下し、フリースタイルを含めて日本勢では最も重い階級での優勝となった。女子マラソンで2000年シドニー五輪金メダリストの高橋尚子さん(52)にあやかって「尚」と名付けられたレスラーは、同じ五輪の舞台で頂点に立った。
憧れていた光景を再現した。決勝の6分間の戦い。マット上でのバック宙のパフォーマンス。日の丸を掲げてのウィニングラン。勝利の儀式を終え「夢を見ているようです。最高に楽しい6分間でした」と喜びを口にした。名前の由来となった高橋尚子さんがゴール後に発した名言にちなんだ言葉は「めっちゃ前から考えていた」と明かし、満面に笑みを浮かべた。
自らを「凡人」と称する。「走っても女子に負けたり、運動能力に優れている方ではなかった」。小学4年時はエリートを育成する「スーパー讃岐っ子育成事業」でも体力測定で落選。努力を積み重ねるしかなかった。高松北高進学後、自主的な朝練はもちろん、昼休みには、日体大ではグレコ84キロ級で04年アテネ五輪代表の松本慎吾監督(46)に志願し、1時間のスパーリングを続けた。
もう一つの武器は相撲経験だ。小中でレスリングと並行して習った相撲。下から押すように前に出て、圧力をかけ続けることで「相手を見ていて露骨に『嫌だな』と表情に出ているのが分かった」。海外選手と戦い始めた時、“相撲スタイル”が世界に通用すると確信は深まった。
海外勢の層が厚い階級で、昨年9月の世界選手権で銅メダルを獲得してパリ五輪代表を決めた。さらなる飛躍へ、今年2月には佐渡ケ嶽部屋、錣山部屋に出稽古。大関・琴桜や関脇・阿炎らに胸を借りた。試合前に四股を踏んでから入るルーチンも欠かさない。子どもの頃から体にしみ込んでいる鍛錬と継続力。凡人の自覚が生んだ日下の、最大の武器になった。
「凡人から超人へ」。五輪へ挑む過程で、自身を奮い立たせてきた言葉だ。決勝の前半も相手ペースだったが「最後もう3分、人生を変えるという思いで前に出た」と気持ちの強さを発揮した。日下の圧力に相手がバランスを崩した瞬間を逃さず倒し、逆転につなげた。
人生を導いてくれた高橋尚子さんのように、少しでも影響を与えられる存在になりたかった。「いつアベンジャーズ(アメリカンコミックスのヒーローチーム)に誘われるか心配」と冗談めかしたが、胸を張って言える。「凡人」も「超人」になれるんだ、と。(林 直史)
◆グレコ70キロ級以上のメダル 過去に21年東京大会銅の屋比久翔平だけ。日下の金は初の快挙。
◆日下 尚(くさか なお)
▽生まれとサイズ2000年11月28日、香川・高松市。23歳。172センチ。家族は両親と弟2人、妹
▽競技歴 3歳でレスリングを始め、高松北高、日体大を経て、23年4月に三恵海運入社。19年明治杯全日本選抜選手権の72キロ級でグレコ史上最年少の18歳6か月19日で優勝。20年末から77キロ級に上げ、23年世界選手権3位
▽チーム四国 今大会に四国勢4人の出場が決まると「チーム四国」を掲げて積極的にPR
▽ぶどう 近所に住む祖父母がぶどう農家を営み、幼少期は収穫を手伝って足腰を鍛える
▽好きな超人 「スパイダーマン」が憧れ
▽幼稚園時の夢 「すき屋の店員」。父と初めて牛丼を食べに行き、味に感動する
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