初実施の陸上敗者復活ラウンド 田中佑美が燃えた…パリ五輪・担当記者見た

ハードルを飛び越える田中佑美（左）（カメラ・岩田　大補）

　今大会、陸上競技では五輪で初めて敗者復活ラウンドが設定された。男女２００～１５００メートル（障害種目含む）が対象で、予選通過できなかった選手が回る。欠場や途中棄権がない限り、選手らは確実に２レースは走れることになる。柔道やレスリングでなじみがある制度で、世界陸連のセバスチャン・コー会長は「競技の進行をより分かりやすくし、ファンの期待を高める」と、観客やファンが応援できるレースが増えることも理由の一つとした。

　この新システムを利用したのは、女子１００メートル障害の田中佑美（２５）＝富士通＝。敗者復活は予選の翌日に設定されるためタフなスケジュールになる。同種目の場合、敗者復活を使って決勝まで進むと４日連続レースに挑むことになるが、田中は「準決勝に進めれば、五輪で３本も走れる」とメラメラと燃えていた。選手にとって五輪で走ることが、何にも代えがたいモチベーション。田中は敗者復活から準決勝に駒を進めた。

　一方で、男子４００メートルは佐藤拳太郎（２９）＝富士通＝、佐藤風雅（２８）＝ミズノ＝、中島佑気ジョセフ（２２）＝富士通＝が予選敗退。初のメダル獲得が期待される「１６００メートルリレーに集中するため」という理由で、全員が敗者復活ラウンドを回避した。４００メートルは特に消耗が激しく、敗者復活から決勝に進んだ場合は４日連続で走り、さらに中１日でリレーを２日連続走るという強行日程になる。リレーチームとして戦略的撤退を決めた。

　敗者復活の導入で、パフォーマンスを出し切って終わる選手が多いと取材を通して感じられた。田中は「今後の人生において成功体験になるようなありがたい経験だった」と３本のレースを充実した表情で振り返った。レース増の負担で、けがが増えるリスクも排除しなければならないが、選手の心を見たし、今後の成長につながる良いシステムだと感じた。（手島　莉子）