「それがあったから勝てたんじゃないか」松山英樹の最強メンタル 五輪後に起こった緊急事態もプラスに変えた

◆米男子ゴルフ　プレーオフ第１戦　フェデックス・セントジュード選手権　最終日（１８日、米テネシー州メンフィス・ＴＰＣサウスウインド＝７２４３ヤード、パー７０）

　パリ五輪銅メダルの松山英樹（３２）＝ＬＥＸＵＳ＝が、節目のツアー通算１０勝目を挙げた。単独首位から出て４バーディー、２ボギー、１ダブルボギーの７０で回り、通算１７アンダーで２月のジェネシス招待以来の今季２勝目。プレーオフシリーズでの日本勢の優勝は初で、賞金３６０万ドル（約５億３２８０万円）を獲得した。今季の獲得賞金は１１２３万７６１１ドル（約１６億６３１７万円）で自己最高を更新。ポイントレースでは８位から３位に浮上し、日本人初の年間王者を視界に捉えた。

　追い込まれてからの逆転劇に、松山の強さが際立った。重圧から解き放たれると、険しかった表情を笑みに変え、「苦しかった」と感情を込めた。培った技術と強いハートで、パリ五輪の銅メダルに続く快挙を手にした。「１０勝目は今年中に達成したかった。プレーオフシリーズで優勝することはひとつの目標にしていたので、本当にうれしい」。自身が持つアジア勢の歴代最多優勝を更新した。

　２位に５打差をつけて出た最終日は「リードしている分、アグレッシブにいきづらかった」。後半にまさかの急失速。１２番から４ホールで４打後退し、首位から転落した。３人が１５アンダーで並んで迎えた１７番。「無心で打った」８メートルをねじ込み右拳を握ると、１８番を連続バーディーで締めて振り切った。「５打リードで勝てなかったらもう勝てないんじゃないかと思った」と白い歯が光った。

　勝負を決した１７番のパットは「今週入っている流れで打てた」。エースパターのスコッティキャメロンのピン型を別のモデルに替えた。昨年手に入れたものだが、コースで使用するのは今週が初めて。「気分転換とリフレッシュしたかったのと。使ったら優勝できたのでびっくり」。大会前は１３６位だったパットのスコア貢献度が、今大会は全体１位だった。

　五輪後に経由地のロンドンで出かけた際、盗難に遭った。早藤将太キャディー（３０）と黒宮幹仁コーチ（３３）のパスポートが入ったバッグが持ち去られ、松山も財布を盗まれた。「それがあったから勝てたんじゃないかというプラス思考でいきたい」と笑いに変えた。財布は失うも、優勝賞金３６０万ドル（約５億３２８０万円）を得て、今季賞金を自己最高１１２３万７６１１ドル（約１６億６３００万円）とした。

　帰国を強いられたキャディーに代わり、普段は久常涼（２１）のバッグを担ぐ田渕大賀氏（３１）と組む緊急事態で、結果を残した。世界ランクは１８年５月以来６年ぶりの１桁となる６位に浮上し、年間ポイントレースは３位につけた。「しっかり準備して、また状態を上げていきたい」。日本人初の年間王者の称号と２５００万ドル（約３７億円）のボーナス獲得へ、ラストスパートだ。

　◆松山に聞く

　―パリ五輪後初戦で、節目の勝利。

　「銅メダルを獲得できたことはすごくうれしかったし、今週いいプレーができて優勝することができたので、これを続けていきたい」

　―ポイント１位にシェフラーがいるが、年間王者の可能性も。

　「（彼が）崩れてこないとチャンスはない。今のままではなかなか厳しいが、少しでも差を減らしていけるようにしたい」

　―田渕キャディーとの初タッグ。

　「ここに来るまで、ほぼしゃべったことがなかった。コースで今までと違ったルーチンになってしまっていたけど、それは仕方ないこと。（グリーンの）ライン読みは特に助かった」

　―今夜のお祝いは？　大好きなチックフィレ（米国の鶏肉料理のファストフード）は日曜休みだが。

　「Ｉ　ｋｎｏｗ（そうだね）。昨日食べたから、明日食べようかな」

　◆松山の年間王者への道　ポイントランク首位のシェフラーとは２６３３．８９５点差の３位。第２戦のＢＭＷ選手権で優勝し、２０００ポイントを上乗せしても追い抜けない。最終戦は第２戦までのランクに応じた３０選手によるハンディキャップ方式でスタート。最終戦を制した選手が年間王者となる。松山は最終戦に過去９度出場し、４位が最高で３度のトップ１０入りとコースとの相性は悪くない。