あす運命の再戦 藤井聡太七冠と永瀬拓矢九段の王座戦開幕 藤井は「１年の成長を出せれば」

王座戦前日会見を行う藤井聡太王座

　将棋の藤井聡太王座＝竜王、名人、王位、棋王、王将、棋聖との七冠＝に永瀬拓矢九段が挑戦する第７２期王座戦五番勝負第１局が４日、神奈川県秦野市「元湯　陣屋」で開幕する。両者は３日、現地入りし、対局場検分と前日会見に臨んだ。

　１年前も同じ場所で同じタイトル戦の会見を行っていた両者にとって、運命の再戦だ。２３年、藤井が前人未到の八冠制覇をかけた最後の番勝負が前期の王座戦。相手は永瀬だった。死闘の末、２３年１０月１１日に藤井は八冠に輝いた。

　藤井は前期の王座戦について「どちらかというと昔のことのような感覚がある」と話しつつ、「王座戦の対局やシリーズの中でいろいろな経験をすることができた。そういうことは今でも鮮明に覚えています」と柔らかい表情を見せた。また、「私にとっては記憶に残るシリーズだったが、内容としてはかなり全体を通して押されていた。今期の五番勝負では、そこからどれだけ改善していけるかが問われる」とした。

　八冠獲得から１年、藤井は同学年の伊藤匠七段に叡王のタイトルを取られ、七冠に後退。一方の永瀬は１年ぶりにようやくタイトルへの挑戦権を得て、ひのき舞台に戻って来た。両者は日頃から練習将棋を行う練習パートナーでもある。直近では８月中旬にも練習将棋を指したという。

　藤井は自身の現在の調子について「比較的良い状態」と話し、「永瀬九段とまたこの王座戦で対戦するということで、この１年で成長できたところを少しでも出すことができれば」と意気込む。これに対して、挑戦者決定戦後の会見で再戦が王座戦となったことについて「運命を感じます」と話していた永瀬は「挑戦が決まってから藤井王座との対局をどんなときも考えることが多かった」と話した。

　前期決着局となった第４局は、最終盤での永瀬の逆転負け。逆転に気づき頭をかきむしる永瀬の様子はあまりにも苦しそうで、シリーズを象徴するシーンとして多くの将棋ファンの記憶に焼き付いている。永瀬は「１年たつのは、あっという間だなと。私はそこから記憶の無い時間というのがあるのですが…。明日からの王座戦で一生懸命戦うことで、止まった時間が動くというわけではないですが、自分を前に進めるために一生懸命向き合って一生懸命取り組んで、一生懸命戦いたいと思っています」と「一生懸命」という言葉を重ねた。

　１年前と同じ場所で、１年前と同じカード。それでも、１年前よりも経験を重ねたふたりが、また違う戦いを盤上で繰り広げる。（瀬戸　花音）