芸能界デビュー55年 ピーターとして、池畑慎之介として「後ろを向く時間はない」人生を前向きに歩む秘けつ明かす
スポーツ報知 / 2024年9月15日 11時0分
歌手や俳優として活躍し「ピーター」の愛称で知られる池畑慎之介(72)が、今年で芸能界デビュー55年を迎えた。歌に芝居、タレント活動とマルチに活躍し、芸名変更や休養を経てたどりついた現在地。同世代が最期を意識して終活を行う中、自身は“やりたいことリスト”を作る。「後ろを向く時間はない」と人生を前向きに歩む秘けつを明かした。(奥津 友希乃)
企画タイトルを伝えると、開口一番「私の人生、あんまり七転び八起きって感じじゃないんですよね」。からっとした笑みを浮かべ「山はデビューの時にどーんと来たけど、その後は平野を歩いてきた感じで。大きな病気や苦労もないしね」。ただ、決して平凡な人生ではない。“前向き”を合言葉に、切り開いてきた道のりがある。
人間国宝で上方舞家元・吉村雄輝氏(98年死去)の長男として生まれた。幼い頃から舞などの稽古に励み、3歳から舞台に立ったが「『わての跡を継ぎなはれ!』みたいな空気も嫌だったし、レールを敷かれて締め付けられ、自由がないのはダメでしたね」と、どこか息苦しさを感じていた。
生い立ちを恨んで卑屈になることはなかった。「未知の場所へ行きたい」と10代で2度家出し、六本木のゴーゴークラブで働くと、中性的な魅力はたちまち話題に。「男の子なの? 女の子なの? あの子、ピーターパンみたいね」と言われたことをきっかけに、愛称「ピーター」が誕生した。
クラブでスカウトされ、ピーターとして芸能界入り。69年に主演映画「薔薇の葬列」で俳優デビューし、同年に発売したレコード「夜と朝のあいだに」は新人賞を総なめにした。メイクをして歌う美少年は茶の間では新鮮に映ったが、自身は「3歳から女形で舞台の化粧をしていたから、抵抗や違和感はなかった」。唯一無二のキャラクターを象徴するような逸話がある。
「昔、タクシーの運転手さんに言われたんだけど、歌番組にショートカットのきれいな女の子が出てきたと思ってテレビで見ていたら、『夜と~』って低い声で歌い出すもんだから、『テレビが壊れた!と思って、たたいたんだ』って。笑っちゃうでしょ(笑い)」
鮮烈デビューを飾った一方で、過密なスケジュールで心身の疲弊もあった。20代半ばに「このまま干されてもいいや、と思って事務所をやめてニューヨークへ行ったんです」と逃避行もした。ブロードウェーの舞台を鑑賞し「刺激を受けているうちに、自分がやりたいことはここ(エンターテインメントの世界)にある」と芸能界に身を置き続けた。
転機は、黒澤明監督の「乱」(85年)出演。俳優名義を本名の「池畑慎之介」にしたいと考えたが、監督から「ピーターの方がみんな知ってるよね。僕もピーターって覚えたんだから」とあっさり一蹴された。仲代達矢演じる猛将に仕える道化・狂阿弥役を好演し、役者としての評価を高めた。
「黒澤監督は大事なシーンの前は手紙をくださって、『まだ借りてきた猫みたいだから、もっと天衣無縫にやらなきゃだめだよ。分かったか、ピー公!』って。それと『ピーターのイメージはいらないね、メイクも取ろう』と言ってくれて。デビュー以来、初めてすっぴんで出演したんです。本当に感謝してますね」
歌手・タレントの「ピーター」、「乱」出演後に俳優名とした「池畑慎之介」、舞踊家「吉村雄秀」と一時期は3つの名前で活動。「私は他人の3倍大変だけど、3倍楽しめるんだ」と言い聞かせていた。それでも2018年に芸歴50年を迎え、1年の休養とピーターからの卒業を決意。報道各社に送ったFAXでは「普通のオジサンに戻りたい!?」などと思いを記した。
「少し休みたいって思ったの。ずっと朝から晩まで決められたスケジュールで動いていたから。深刻に苦労しましたって人生では全然ないから、わがままですけど、50年を区切りに好きなことをしたくてハワイやヨーロッパに行ってました」
1年3か月の休養期間を経て復帰。22年3月には、趣味のゴルフ中に左足首を骨折し、手術も経験した。
「1ホール目でひねったけど、捻挫だと思って18ホール回っちゃった。病院に行ったら骨折でびっくり。いまも足にチタンが入ってます。手術後は半年くらい車椅子と松葉づえで仕事に行って、不自由もありましたね」
骨折を機に、引っ越しを決意した。「前の家が階段だらけで松葉づえで怖い思いをして、これはだめだなと。同じ(神奈川)三浦半島の土地を探して、エレベーター付きの家を建てました」と、相模湾や富士山を望む家を終(つい)の棲み処(すみか)にするつもりだ。
30日スタートのNHK朝ドラ「おむすび」にスナックの謎の店主役での出演や、11月19日には東京・コットンクラブで単独ライブも控える。デビュー55周年の節目だが「周年だからって後ろを振り返ったりはしたくない。55年やったんだな~、『GO!GO!』って感じ」と軽く拳を突き上げる。
“死ぬまでにやりたい100のこと”をノートにつづるのが日課で「小さなことでも、やりたいことがこんなに残っていれば、後ろを向く時間はない。昔を自慢するおじさんみたいにはなりたくないし、前しか向かないです!」。はつらつとした笑顔がまた、はじけた。
阿部監督&体操岡に元祖しんのすけ親近感あります
〇…「慎之介」は本名で、巨人の阿部慎之助監督(45)の母が池畑の大ファンだったことから、阿部監督の名前の由来にもなった。今夏のパリ五輪で、3つの金メダルを獲得した体操男子・岡慎之助(20)は、名前が阿部監督に由来することから「漢字は違うけど、私が“元祖・しんのすけ”ってわけね。阿部さんも岡選手もお会いしたことはないけど、テレビで名前や活躍を聞くたびに人ごととは思えない」と親近感を抱いている。
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