「内心はドキドキですよ」斎藤雅樹さん、はじめにベンチから呼ばれたときは「無視しました」…10・8から30年
スポーツ報知 / 2024年10月8日 5時5分
伝説の「10・8決戦」から8日で30周年を迎えた。1994年10月8日、巨人は中日との史上初の同率首位決戦となったリーグ最終戦に6―3で勝利してセ・リーグを制覇。「国民的行事」と位置づけて臨んだ長嶋茂雄監督(現巨人軍終身名誉監督、88)が5度、宙を舞った。2番手で5回1失点と好投、勝利投手となった“平成の大エース”斎藤雅樹さん(59)が、記憶をたどった。(取材・構成=柳田寧子、四野宮秀和、太田倫)
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「10・8」の勝ち星は、通算180勝のうちの一つという感じではないんです。自分の1勝というよりは、チームの1勝。チームが勝つために、みんながけがしながらでも戦い抜きました。ジャイアンツは何千勝もしているけど、その中でもすごく大きな1勝でした。
10月6日のヤクルト戦で112球を投げてから中1日での登板でしたが、総力戦は当たり前です。だから、もし「お前は上がり(メンバー外)でいいよ」って言われた方がショックでした。ただ、メンバーに入れてもらったのはうれしかったけど、実際に投げたくはない、という複雑な心境でした。
長嶋監督は前日に僕と先発の槙原さん、桑田の3人をホテルの部屋に呼んで登板順を伝えたとおっしゃっているけど、僕は呼ばれていないんですよ。ホテルの監督の部屋、覚えていないですから。もし、明日投げるぞ、なんて言われたら絶対もっと緊張していたはずです。
試合前に、僕か宮本さんが2番手で行く、と伝えられました。宮本さんとは「マキさんが普通に5回ぐらいまで投げれば(投げなくても)大丈夫だよ」なんていう話をしていたくらいで、出番が来る実感はなかったんです。
それが2回の裏に4連打であれよあれよと同点に。止めたバットや、折れたバットでの汚い当たりばかりでした。ブルペンで一応投球練習していましたが、はじめにベンチから「斎藤!」と声が聞こえたときは、無視しました。呼んだのは山倉和博バッテリーコーチだったと思います。でも、これはベンチを見ちゃダメだと思って、聞こえないふり。でも、3度、4度と呼ばれたので、返事をしてね。「行くぞ!」じゃなく「行けるか?」という聞き方をされました。
平気そうな顔を保っていましたが、内心はドキドキですよ。準備は十分ではなかったです。体に張りもあって、ああ、真っすぐもいってないなあ…と。無死一、二塁の場面で、最初の打者が投手の今中。100%バントの状況で、2球目にカーブを投げて三塁で練習通りにアウトが取れました。救われましたね。続く清水雅治もボール球を振ってくれて三振、二塁走者の中村武志が飛び出して、村田さんが刺してゲッツー。これでよしって乗っていけたんです。相手も緊張していて、動きが相当おかしかった。球場入りしたときにはブーイングも浴びましたが、スタンドの空気も含めて、全てがシーズン中とは違っていました。
あの有名な長嶋監督のミーティング。「勝つ」を連呼したというより、「今日は勝つよ、お前ら勝てるよ」ということを言ったんじゃなかったかなと思うんです。ただ、僕らが完全に暗示をかけられていたのは間違いありません。ミーティング場で自然と「ウォー」っていう声が上がって、すごい雰囲気でした。
投げているうちに、もともと張りがあった右の内転筋に痛みが走るようになりました。5回の途中くらいで自覚があって、イニングの合間にバンデージをきつく巻いてマウンドに上がったはずです。村田さんに「足が痛い」と伝えると、「そんなん、切れてもええから投げろ!」って言われました。本当、ひどい人ですよ(笑い)。でも、投げなきゃしかたないですからね。
そんな状態で6回1死から仁村さんを三振に取ったインローの直球は、ベストピッチでした。今なら、内転筋が痛いって言って投げさせるコーチはいないでしょう。けど、そういう時代ではなかった。ピンチだから頼む、って言われたら、やりがいしかない。先のことなんか考えない。僕だけじゃなく、ジャイアンツはそんな集団でした。
ベンチの雰囲気も異様でしたね。降板してロッカー裏でアイシングしていたとき、「うわぁ」って沸くわけです。何があったかと聞けば、ワンストライク取っただけだったり。そのくらい、1球1球に思いを込めていたんです。
10・8とは? 人生そのものです。長嶋監督みたいですけどね。あれを経験したら、怖いものはありません。より強い自分になれたし、どんなところでもおじけづかなくなった。そこから2001年に引退するまでの、最後の原動力になりました。
当時の自分には「斎藤、よくやったよな」って声をかけてあげたいですね。もう1回やってみたいか? 同じようなピッチングができるんだったら、いいですよ。成功する前提だから。どうなるか分からないんだったら…やっぱり投げるのはイヤですね(笑い)。
◆斎藤 雅樹(さいとう・まさき)1965年2月18日、埼玉県生まれ。59歳。市川口(現川口市立)から82年ドラフト1位で巨人入団。89年に日本新の11試合連続完投勝利を含む20勝。沢村賞3度、最多勝5度。2001年に引退後は巨人1、2軍の投手コーチや2軍監督を歴任。16年に野球殿堂入り。通算426登板で180勝96敗11セーブ、防御率2.77。右投右打。
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