12月の世界選手権で初優勝を狙う自転車トライアル・土屋凌我インタビュー
スポーツ報知 / 2024年11月27日 5時0分
皆さんは、トライアルという自転車競技をご存じだろうか。自転車に乗ったまま足を着かないように障害物をクリアしていく競技。大きな岩や壁を乗り越えたり細い丸太を渡ったりする姿はスリリングかつダイナミックで、見る者を魅了する。日本トライアル界の第一人者、土屋凌我(25)=無所属=が、間近に迫った「UCI世界選手権」(12月10~14日、UAE・アブダビ)への意気込みと、今後の抱負などをスポーツ報知のインタビューで語った。(協力・日本自転車競技連盟)
昨年8月の世界選手権(英スコットランド・グラスゴー)では9位。1年ぶりに挑む世界最高峰の舞台に向けて今、静かに闘志を燃やしている。
「決勝に進むのは当たり前だと思っている。今はけがや故障はなく、このままいい調子で本番を迎えたい」
幼い頃にオートバイでのトライアルを見たのが競技への入り口。5歳から自転車での国内大会に出場し始め、9歳のときに世界選手権プッシンクラス(7~9歳)で優勝した。
「ダイナミックにジャンプしたりするのを見て、やってみたいと思った。オートバイに乗るのは無理だったので、小さい自転車を親に買ってもらった。自宅の庭にレンガを置いて乗り越える遊びをずっとやっていた。障害物をクリアしたときの達成感とか、緊張感を乗り越えたときの充実感が楽しかった」
当時から土屋選手を知る、日本自転車トライアル協会の甘利昇理事(64)は、興奮気味に振り返る。
「ビックリするぐらい天性の素質があった。少し大げさに言うと、トライアル界の大谷翔平。小学校高学年でやっとできるようなことを幼稚園のときにできていた。技術を習得するのが早かった」
大人になった今は、大き過ぎない身長(177センチ)もプラス材料。甘利理事は、こう付け加えた。
「体が大きいと、寸法が決まっている自転車に対して逆に邪魔になってしまう。凌我くんの身長ぐらいが、ちょうどピッタリ合っている」
恵まれた素質を努力で磨き上げた。数々の大会で実績を挙げ、日本自転車競技連盟(JCF)の強化指定選手に選出。国内トップ選手に上り詰めた。
「一時期、苦手なことをテーマに練習をしていたので、あまり得意不得意はない。技の引き出しが結構あって、割と何でもできるのが自分の強みかな」
現在、平日はフィジカルトレーニング中心。土日に自転車で、試合を意識した実戦形式の練習を積んでいる。
「以前はウェートトレーニングを多くやっていた時期があったけど、今はバランスよく体が作れている。筋肉を維持しながら瞬発力を上げたり、けがを予防したりするようなメニューも取り入れている。自転車での練習は、できるだけ自転車から降りないことをテーマに取り組んでいる。障害物から次の障害物に移る間も降りないことで、課題のスタミナ向上を狙っている」
また、インターネットが浸透した現代らしく、SNSを技術向上に利用している。
「海外選手の動画を見て、そのイメージを持って新しい技に挑戦する。トライアンドエラーを繰り返しながらやるのが練習になる」
着地などの衝撃で自転車のフレームにひびが入ることもある。けがの危険とも隣り合わせのハードなスポーツ。昨年に胸から丸太に落下して負傷し、しばらく練習ができない日々を過ごしたが、競技への情熱は揺るがない。
「試合のときは自分との勝負で、特にライバルはいない。難しい障害物をクリアしたときの達成感とか、体と自転車がイメージ通り一体になって走り切れたときのうれしさは、魅力だと思う」
男子は9~18歳が5つ、女子は9~15歳までが2つのカテゴリーに分かれ、体格差による優劣がつきにくい。そんな背景もあり、国際大会で活躍する若い日本人選手は珍しくない。
「パワーを技術で補えるのは、競技としての魅力の一つ。パワーだけでは勝てないので、日本人に有利な部分はあると思う」
トップカテゴリーにおいて、国際自転車競技連合(UCI)が主催する世界大会での自身最高位は、2022年ワールドカップ(スペイン・ビク)で記録した7位。今回、さらに上位を狙えるチャンスは十分ある。
「ミスをいかに減らせるかが課題。トップレベルの選手もミスをするけど、修正力がすごい。自分も後半にポイントを挙げる精度を上げていきたい」
本場の欧州に比べて、国内の競技人口や知名度は、まだ発展途上。自身の活躍を、自転車トライアルの拡大につなげたい。
「ここ数年は楽しむ気持ちをあまり持たずにやってしまっていたので、今年からは楽しむことを一番、優先してやってきた。今のところ、それがいい形でパフォーマンスに出ている。世界選手権には気負わずに臨めそうだし、この気持ちを忘れずにやっていきたい。自分が楽しみながら自転車に乗っている姿をいろんな人に見てほしい」
◇土屋 凌我(つちや・りょうが)1999年9月16日、長野県佐久市生まれ。25歳。5歳からトライアル競技を始め、2008年に世界選手権プッシンクラス(7~9歳)、翌09年に同ベンジャミンクラス(10~12歳)を制覇。12、13年にUCIワールド・ユース・ゲームのミニメットクラス(13~14歳)で2年連続3位。全日本トライアル選手権は19~24年まで5連覇中(20年はコロナ禍の影響で大会中止)。177センチ、血液型O。
◇自転車トライアル 自転車で岩、丸太、斜面などの自然地形や人工の構造物で作られたコース(セクション)を制限時間内に走行し、いかに足着きや転倒なく走破できるかを競う。トライアル用の自転車は20、24、26インチのホイール径が一般的で、サドルがないのが特徴。1970年代にスペインで、オートバイのトライアルを子供たちが自転車でまねていたことが起源と言われ、欧州を中心に盛り上がりを見せている。
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