【昭和の大相撲】貴ノ花、「かばい手」か「つき手」かで大論争…昭和４７年初場所プレーバック

昭和４７年１月１７日付本紙

　２０２５年は令和７年だが、昭和（１９２６―１９８９年）で数えると１００年になる。"昭和１００年"の節目を記念して、昭和の大相撲名勝負を振り返る。

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　昭和４７年初場所８日目の横綱・北の富士―関脇・貴ノ花戦は、「かばい手」か、「つき手」かで大論争となった。土俵中央、北の富士の右外掛けを、背中から落ちそうな貴ノ花が左へうっちゃる。横綱の右手が先についた。

　立行司・木村庄之助は北の富士の「つき手」として、貴ノ花に軍配を上げた。すかさず物言いがつき、約６分の協議の末、春日野審判長（元横綱・栃錦）は「北の富士の手は、かばい手とみて、（北の富士の）勝ちと決定しました」とマイクで説明した。

　「かばい手」は、相手の負傷を避けるために、やむを得ず手をついたと判断される。審判は４対１で北の富士の「かばい手」とした。

　一方、庄之助は「貴ノ花の投げで、北の富士の体が飛んだ」と主張。一転して黒星の貴ノ花は「見れば分かるだろう」と悔しさをにじませた。

　微妙な一番になったのは、貴ノ花が驚異の粘りを発揮したからだ。本紙評論家だった玉の海さんも「貴ノ花の下半身にはもうひとつの命がある」と、その足腰の強じんさを例えた。取組後、日本相撲協会やマスコミにも抗議が殺到。報知新聞にも「貴ノ花の勝ちだ」という電話が多数寄せられた。翌日、行司差し違えの庄之助は千秋楽までの謹慎処分を言い渡され、辞表を提出して受理された。

　現在、協会決まり手係を務める甲山親方（元幕内・大碇）は「あの一番は何とも言えない。『かばい手』という認識がなければ（北の富士が）負け」と判断の難しさを明かした。

　同場所で初優勝した元関脇の初代・栃東、志賀駿男さんも「（弓なりで耐えた貴ノ花の）あの体勢になったら、師匠から『力を抜け』と我々は教わってきた。けがにつながるから。北の富士さんも、それが分かって手をついたはず」とした。半世紀以上の時を経ても、なお見解が分かれる一番だ。（久浦　真一）

　◆貴ノ花　利彰（たかのはな・としあき）本名・花田満。昭和２５年２月１９日生まれ。北海道・室蘭市出身。４０年夏、初土俵。４３年九州、新入幕。５６年初、引退。最高位は東大関。通算成績は７２６勝４９０敗５８休。得意は左四つ、寄り、つり、上手投げ。優勝２回。引退後は藤島部屋を興し、息子の若乃花、貴乃花を横綱に育てるなど手腕を発揮。平成１７年５月３０日に死去。１８３センチ、１１４キロ。