選挙とSNSでマイナス面が表面化 ネットによる「分断」か「統合」か境目の1年 政治心理学専門の麗沢大・川上和久教授
スポーツ報知 / 2024年12月27日 12時0分
2024年は世界各国で大型選挙が行われた。11月の米大統領選では、トランプ氏は自身が設立したSNSなどを効果的に使い、返り咲きを果たした。国内の衆院選、兵庫県知事選などでもSNSは威力を発揮。有権者の投票行動に大きな影響力を持ったが、誹謗(ひぼう)中傷や虚偽情報の拡散などマイナス面も表面化した。政治心理学を専門とする麗沢大の川上和久教授(67)に今後の選挙とSNSのあり方について聞いた。(久保 阿礼)
米大統領選で民主党のハリス氏を大きく引き離し、圧勝したトランプ氏。その勝利に大きく貢献したのが、実業家のイーロン・マスク氏による全面支援だったと分析されている。
英NPO団体の調査によると、マスク氏は2年前に買収した「X」を使い、選挙戦の3か月で746回投稿し、閲覧数は171億回に達した。宣伝費用に換算すると、37億円に上ったという。フォロワーは約2億800万人で世界一とされ、100万ドル(1億5000万円)を抽選で配るキャンペーンや、7500万ドル(110億円)を寄付。カネを使ってSNS、メディアをフル稼働させ、勝利を後押しした。川上氏は「プラットフォーム、SNSの影響力の大きさを再認識させられた選挙でした」と振り返る。
「マスク氏がツイッターを買収して以降、共和党寄り、右寄りの投稿がおすすめ投稿として、利用者に表示されるようになりました。米国の選挙は、お金をたくさん使って候補者の宣伝をしないと、当選できないようになっています。一方で、日本は政治活動、選挙運動ともに公職選挙法などである程度制限されており、抑制的です」
選挙戦が激しくなることで、虚偽情報の拡散も問題となっている。同団体の調査によると、マスク氏の投稿は少なくとも87件が虚偽と判断されたが、閲覧数は20億回を超えた。大物タレント、経営者らインフルエンサーの情報伝達力は、マスメディアの影響力をはるかに超えることもある。
「マスク氏の投稿内容は主に反ワクチンなどの陰謀論、主要メディア批判が中心でした。閲覧者は繰り返し目にすると、そうした世界を強烈に支持するようになります。世の中の出来事が、米大統領選だけしかないというふうに映ってしまいます。閉鎖的空間の中で、自分の意見が過激になっていく『エコーチェンバー』現象が生まれます」
兵庫県知事選では、候補者のほかに支援者を含めた脅迫的言動なども問題となった。SNSにより候補者の「発信力」が増し、個々人をつなぐ「動員力」も確保できるようになったが、収益目当てに活動がより先鋭化したケースもある。
「ネット空間では、極端な主張、意見が比較的そのまま受け入れられてしまう傾向があります。既存メディアが世論を操作しているとか、選挙に不正があるとか、善悪二元論で片付けてしまうというものです。反対論であっても耳を傾け、多様な意見を認め、最後は意見の集約を図ることが欠かせません。ネットによる『分断』か『統合』か。今はちょうど過渡期、境目の1年だったと思います」
◆川上 和久(かわかみ・かずひさ)1957年12月8日、東京・調布市生まれ。67歳。東大文学部卒。東大大学院社会学研究科博士課程単位取得。明治学院大法学部、国際医療福祉大を経て現職。専門分野は、政治心理学や戦略コミュニケーション(広報)。
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