J1町田の激動シーズン 黒田剛監督の長女 手記で語る素顔「自分が批判されるほうがいい、という責任感の強い人」
スポーツ報知 / 2024年12月30日 6時0分
2024年シーズンのJ1リーグでは、初挑戦の町田が最終節まで優勝を争い、J2からの昇格初年度では史上最高位となる3位に食い込んだ。チームを率いた黒田剛監督(54)は、徹底して勝利にこだわるスタイルとその言動などでも話題を呼び、時にSNS等では炎上を招くこともあった。それでも初のJ1で重圧や批判を乗り越えて結果を残し“最強の新参者”となった指揮官の長女・黒田妃李(きり)さんがスポーツ報知に手記を寄せ、激動のシーズンを戦い抜いた父の素顔を明かした。(取材・構成 網野大一郎、金川誉)
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今年1年、そばで見てきて、最初はうまくいっていた時期もあったけど、後半戦は本当に苦しかったと思います。9割が苦しい1年だったと思うんですよね。喜んでいる姿や、軌道に乗っている雰囲気を醸し出していた瞬間って、1割あったかなって。
父がプロからのオファーを受けた時、青森山田高校の監督である父を誇りに思っていたので、少し寂しさはありました。でもいいタイミングでいいお話をいただいて。父は(兄と私)2人の子供たちを大学まで出すというのが、親の責務だと考えていたみたいで。そのときは私もすでに、就職が決まっていた時期でした。そうじゃなければ、ちょっと考えたって言っていました。おれが働いている理由は家族のため、と言う人。自分のキャリアとか、日本一になりたいとか、そういうことってあまり聞いたことなくて。自分の野望ばかりではなく、子供たちが不自由なく過ごせて、母親が幸せに暮らせて、それが1番の人なんですよね。
(子供の時は)ほとんど土日はいなかったので、寂しさはありました。でも時間がある時は、全力で家族サービスをしてくれるタイプ。子供大好きなんですよ。小さい時は毎日レゴ(ブロック)とかで遊んでくれていたので、忙しいから遊んでくれない、という記憶はなくて。安定を捨ててプロの世界に挑んだ、とも言われていますが、プロになってからは先生の時とはまた違った意識で、責任の所在、幅や質も変わったと思います。プレッシャーも、すごく感じていると思いますね。めちゃくちゃ神経質なタイプなので。毎日、1回は目覚めるみたいですし、寝られない日もあるみたいです。
ルーティーンで言えば、父はとても言葉を大事にしていて、思いついたら絶対にメモしなきゃ気が済まないタイプ。車を運転していても、止めてすぐスマホにメモしたり、バラエティ番組であろうとなんであろうと、自分がいいと思った言葉はメモにとって、それをどう伝えるか、ということを常にやっています。人並み以上に継続力があるんですよね。日々、言葉を取りためて、今の選手たちはどういう言葉を聞きたいか、を考えています。私も仕事の相談をすることもあるんですけど、アドバイスをくれます。毎試合前には神社に行くこともルーティーンで、家にも神棚があって、次の試合の着ていく服や時計も全部置いていますね。リアル(現実)でできることはもう全部やったから、最後は神頼みもして、運も味方につけなければ勝てないという思考らしいです。
(青森山田)高校の時も、批判が(SNS等で)飛んでくることはありました。ただ(今年は)量とか反響は桁違いだなという印象はありましたね…。私の周りでも、直接的な誹謗(ひぼう)中傷はありませんでしたけど、また炎上していたね、とか言われることはありました。精神衛生上よくないなって思い始めてからは(ネットを)見ない日も作ったり。でも世論は大事だから、こういう考え方の人もいるなっていうのは知りたかった。どんなことにも正解はないと言われる中で、父とも記事や世の中の声の話はたくさんしました。良くも悪くも、何でも話せるのが家族だと思っています。
一番最初に批判が大きくなったのは、筑波大戦※の時だったと思います。例えばロングスローなどについては、サッカーを知っている人は擁護してくれたり、ルール内のことだと言ってくれることも多かったです。ただ教育者だった人の話し方としては、ないよねというご意見は見ました。私たちもいろいろと話はしました。ただ父にも信念もある。誰よりも長く学生と関わってきた監督として、さまざまな思いがあったと思います。メディアに対しても、基本的に信じてサービス精神のある人だから、自身の見解をすべて話してしまって、あとで意図とは違う記事が出て、ショックを受けていたこともありました。そんなときは、火種を作らないっていうのが1番だから、もうお口チャックだね!(笑)なんて話していたりもしました。
基本的に、周りを矢面に立たせるより、自分が批判されるほうがいい、という責任感の強い人。だからこそサポーターの立場に立った時に、自分のクラブが批判されていることに対して、申し訳なさがあったと思います。それでも信じてついてきてくれることに対して、本当に感謝していました。家ではYoutubeで「ゼルビア」って検索して、ファンが載せてくれている動画とかを見ているんですよ。リビングのテレビで、(対戦相手の)分析などが終わった後に。(試合前に)サポーターの決起集会動画をみて「こんなに何時間も前に集まって飛び跳ねて練習してくれていたら、へとへとになるよな。ありがたいなあ」と話しています。
世間からのイメージはさまざまですが、私にとって父は、まったく怖い存在ではないです。ずっとダジャレとか親父ギャグばっか言ってるお父さん。青森山田時代から一緒にやっていただいているコーチ陣の方々からは「天然」なんて言われているので、天然エピソードを一緒に話したりします(笑)。私には(学生時代も)勉強しなさいとかはあまり言わなかったけど、(テストで)順位が上がったらめっちゃ褒めてくれて、下がったらその原因を一緒に言語化してくれていました。私や兄に対しても、すごくリスペクトをしてくれます。お兄ちゃんはすっごい優しい性格なんですけど、こういうところがいいよね、みたいな話を私にすごくしてくれます。
礼儀とか挨拶にはうるさいけど、家族を本当に大事にしていて、ワンチームだ、4人しかいないチームなんだよ、と言います。責任感やチームに対する助け合いの気持ちは、青森山田時代からです。高校監督時代に東日本大震災があったときは、父は首の手術で入院していました。でも病院を抜け出して、大量の食材を買い込んで、寮に行って200人分ぐらいのご飯を作ったんです。生徒に大きい鍋で。食事をつくる職員さんも来られないから。家に戻ってくるより、先に学校に。これは母の仕事への理解があってのことだと思うし、遠方から進学した生徒を含め、約200人の命を背負ってるという責任があると。守る範囲が広いんですよね。関わった人をすごく大事にする。本当にどこからどこまでも根っからの先生なんですよね。それは今でも、変わらないと思います。
【注】町田の天皇杯2回戦・筑波大戦=6月12日に行われ、町田の2選手が骨折した。PK戦で敗れた試合後、黒田監督は負傷の原因となった筑波大のレイトタックル(遅れてタックルする危険プレー)に対し、抗議。大学生から敬語を使われなかったことなどについて「批判覚悟で言わせてもらうと、勝った負けた以前に、怪我人を出すことが選手生命を脅かすということも含め、指導してほしい」とコメント。SNS上では町田にもラフプレーがあった点なども踏まえて、物議を醸した。
◆黒田 剛(くろだ・ごう)1970年5月26日、札幌市出身。54歳。登別大谷(現・北海道大谷室蘭)から大体大に進み、主にDFでプレー。卒業後はホテル勤務などを経て、94年に青森山田高のコーチに就任。95年に監督となり、総体2度、選手権3度、高円宮杯U―18プレミアリーグファイナルで2度優勝。2006年、Jリーグで監督を務められる日本サッカー協会S級ライセンス(現JFAProライセンス)を取得。23年シーズンより町田の監督に就任。同年J2を制してJ1昇格を果たす。
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