斉藤由貴「私のところに来てよかったな。幸せ」…代表曲「卒業」歌うと「お客さんのスイッチが入って焦点が合う」
スポーツ報知 / 2025年1月5日 10時0分
女優の斉藤由貴(58)が1985年にシングル「卒業」で歌手デビューし、2月に40周年を迎える。40代、50代の卒業式の定番ソングとして知られ、今なお多くの人に愛される名曲。楽曲にまつわる秘話や当時の思い出、デビュー記念日の2月21日から始まる36年ぶりの全国ホールツアー(神奈川県民ホールほか全8公演)に向けた思いなどを語った。(加茂 伸太郎)
「卒業」の歌詞を手にした時の記憶は、はっきりと残っている。斉藤は当時18歳。前年の1984年に「ミスマガジン」でグランプリを獲得し、出演した明星食品「青春という名のラーメン・胸騒ぎチャーシュー」のCMが話題を呼んでいた。
「歌詞を見て、ホッとしたのを覚えています。キュンとするとか、かわいいとか、健気(けなげ)とか、そういう感情はなくて。少しほんのりと冷ややかで、静かに先を見ている感じ(の楽曲の世界観)が、自分が納得できるものだったから」
数々のヒット曲を生み出した作詞・松本隆さん(75)、作曲・筒美京平さんのゴールデンコンビからの楽曲提供。誰もが羨むところだが、その反応は彼女らしいものだった。
「18歳の子どもなわけですから。『ああ、いい曲だな』『この曲は合うな』という俯瞰(ふかん)的なものの見方はなく、『なるほど、これを歌うのか!』というのが最初の感情です。芸能界、歌謡曲そのものに疎かったので、松本隆さん、筒美京平さんがすごい方だということも、あまり分かっていませんでした」
女優として揺るぎない地位を築くが、スタート時はアイドル歌手。「時代だって、由貴に染まる。」がキャッチコピーだった。今になって感じるのは「ものすごく運が良かった」ということだ。ディレクターを務めた元「甲斐バンド」のベーシスト・長岡和弘(73)との出会いが大きかった。
「『アイドルたるもの、こうあるべき!』みたいな、アイドルに求められる素養が、今よりもはっきりとしていたと思うんです。でも、長岡さんは『アイドルありき、方向性ありきは面白くない』という考えだった。『この子はどんな子?』『どういう性格でどういう特質があって、どういうことをすれば輝くか?』を考え抜いてくださった。『卒業』を含めてピカピカのアイドル曲ではないものが多いので、それが年齢を重ねても音楽活動を続けられている要因な気がします」
発売から40年、「卒業」は令和になっても色あせない。自身の代表曲であり、人生で一番歌ってきた楽曲になった。
「(代表曲は)他にないのかって話ですけど(笑)。いつも思うんですが、この曲を歌い始めると、お客さんのスイッチが入ってシュッと焦点が合う感じ、熱量が集まる感じがすごく伝わりますね。皆さん、この曲が大好きなんだなって。私のところに来てよかったなって幸せに思います」
斉藤由貴にとって「卒業」とはどういう存在か―。しばらく沈黙した後に言った。「やっぱり運命的なものを感じますね。宝物です」。これからも大切に届けていくつもりだ。
2月からは「YUKI’S TOUR ONE・TWO」(89年)以来、36年ぶりの全国ホールツアー「水辺の扉~Single Best Collection~」が幕を開ける。デビューから3年にわたり、編曲&プロデュースを手がけた武部聡志氏(67)を迎え、同曲や「白い炎」「初戀」「情熱」などの歴代シングル曲を当時のアレンジのまま届けていく。
「来てくださった皆さんに(80年代)当時の感情、感傷、感動を思い起こさせることがテーマになっています。そこに、40年たった『現在の斉藤由貴』を合致させていくんですけど、熟(こな)れるまでにはなかなかハードルが高い。ぎこちなかったり、きれいな形でまとまらなかったりするかもしれないけど、最終的には、必死になって、一生懸命やる以外はないと思っています」
全公演に帯同する武部氏には全幅の信頼を寄せる。「『由貴ちゃんの40周年、僕がやらなくて誰がやるの』って、真っ先に手を挙げてくださったんです。40年前の自分とは違うものを歌うわけだし、自分の中にいろいろな不安要素があるわけです。それを受け止めて、『大丈夫だから』『僕が守るから安心しなさい』って。全て包み込んくれるような存在です」と感謝した。
観客層は自身と同世代の50代、60代が中心。「大抵の人は中学生や高校生、大学生の頃に聴いてくれていたんじゃないかな。それがおじさんになり、おばさんになり、人生にいろいろな変化が起こって…だと思うんです。そういうものを思い返す、まざまざとよみがえらせる手助けができたらうれしいです。感謝祭のような雰囲気になればいいなと思っています」
音楽活動から離れた時期もあったが、40代に入ってから定期的に再開。自身にとって不可欠なものになった。その理由は明確で、役者の仕事とは180度違う影響を与えてくれるからだ。
「私にとって(役になりきる)女優業は試練であり、修練であり、挑戦なんです。その経験が私自身を励ましてくれることはない。(対照的に)歌を歌っている時は、ものすごく自分自身を励ましてくれる。『これから私、あと何年生きるのかな』とか、『死ぬってどんな感じだろう』『実際にいつか訪れるんだよな』とか、この年齢になるとリアルに考える。歌の仕事をやっている時は(全てから解き放たれて)生きていく上で、毎日一歩踏み出す上で励まされていることに気づかされる。不思議だな~、面白いな~って思いますね」
歌手デビュー40周年記念日を1か月後に控え、斉藤は「自分の人生にとって、すごく大きな節目の年になると思います。体力的なことを考えると、どうかなと思いましたけど、いろいろな方々が私のために協力してくださった。無理せず、着実にできることをしていきたい」と誓った。
自分の歩幅で。マイペースに歩みを進めていく。
〇…斉藤は2月21日にセルフカバーアルバム第2弾「水響曲 第二楽章」をリリースする。武部氏による全曲リアレンジ。「夢の中へ」「悲しみよこんにちは」「土曜日のタマネギ」などのシングル曲に加え、ファンの間でも人気の「予感」「家族の食卓」「青春」など全10曲を収録。「シングル曲に関しては、武部さんと互いの好きな曲を持ち寄りながら選曲しました」と明かした。
◆斉藤 由貴(さいとう・ゆき)1966年9月10日、神奈川県出身。58歳。85年フジ系「スケバン刑事」で連ドラ初主演、「雪の断章―情熱―」で映画初主演。86年NHK連続テレビ小説「はね駒」のヒロインを務め、紅白歌合戦初出場(紅組司会も)。2006年にTBS系「吾輩は主婦である」主演。映画「三度目の殺人」(17年)でブルーリボン賞助演女優賞。長女は女優の水嶋凜。
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