「役目は五体満足の体で親元に帰すこと」 日本ボクシング界の母はなぜ表彰を辞退し続けたのか
スポーツ報知 / 2025年1月6日 6時10分
プロボクシングの帝拳ジムのマネジャーとして長年、運営や選手育成などに貢献してきた長野ハルさんが1日午後8時40分、老衰のため99歳で死去した。80年近くにわたって名門ジムを支え、元WBA世界フライ級王者・大場政夫(故人)ら多くの名選手から慕われた“日本ボクシング界の母”とも言える存在だった。
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長野さんは信念の人だ。帝拳ジムを支えること75年以上、その功績にボクシング団体からは表彰の話が数多く届く。だが、必ず辞退する。もし、受けたとしても表彰式は代理を立て欠席した。
ジムのマネジャーとして一番大切にしていることを聞いたことがある。答えはこうだった。「私たちの役目は、人様の息子を預かっているのだから、五体満足の体で親元に帰すことなんです」。ジムの初代世界チャンピオンの大場政夫さん、辻昌建さんが現役中に亡くなり、忘れた日は一日たりともないという。だからこそ、人前で表彰を受けることを辞退し続けた。
口癖は「みんなが幸せになれればいいのに」。生涯独身を貫いたが、子供たちの幸せを願いユニセフ募金を30年以上続けていた。実践女学校在学中の戦時中、東京・西大井のニコンの工場でレンズ磨きに動員された。慶大の男子学生も多く動員され「いつの間にか、女子大の友達たちが慶大生と仲良くなって、みんな結婚していったのよ。あたしは何をしていたのかね」と、大笑いしながら話してくれた。長野さんが目を光らせるジム内は、常に張り詰めた緊張感があった。その姿だけで選手たちにいい練習環境を提供できる、不世出のマネジャーだった。合掌。(1991~2004年ボクシング担当・近藤 英一)
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