“昭和の伝道師”玉袋筋太郎が目指す「いい加減なおじさん」の流儀…「#昭和あるある」出版
スポーツ報知 / 2025年1月6日 12時0分
2025年は換算すると「昭和100年」。その“記念本”と銘打った「玉袋筋太郎の#昭和あるある」(双葉社、1760円)が一足先に昨年11月に発売された。自らの経験を基に、昭和時代のさまざまなジャンルについてつづったエッセーだが、著者のタレント・玉袋筋太郎(57)は「単なる『懐かしいな~』と思うだけの本にはなってほしくない」との思いを込めているという。(高柳 哲人)
最初に目がいくのが、本書のタイトル。「昭和」という時代と、SNSで使用される検索の目印である「#(ハッシュタグ)」は、“昭和の伝道師”である玉袋とのミスマッチを感じさせる。
「それが逆に面白いというか。もしかしたら、この本がネットで広がるかもしれないし。そんな思いで自分と一緒にやっているライターさんと考えたんです…。って、あれ? (出版元の)双葉社が考えたんだっけな? まあいいか。謎ということで」
細かいところは気にしないのが「玉ちゃん流」だ。
最近はテレビ番組で「回顧もの」を多数放送。書籍や雑誌でも「昭和○年の―」ように過去を紹介するものは数多く存在する。その中で、本書は「玉袋筋太郎の」と付けられたことに意味があるという。
「一般的な『あるある本』ではなくて、オレのフィルターを通しての昭和。オレ自身が育ったのが特殊な環境だったし、この本に出てくる文化に触れていない人もいると思う。だから、共感できるものはしてくれればいいし、『それは違うだろ』という人がいても全然問題ない。これを読むと、オレがどういうふうに育ってきたのかが分かるマイヒストリーみたいなものでもあるからね」
読者が無理に自分に重ね合わせるのではなく、「へえ~、過去にはこんな文化があったんだ」と新たな知識を得る本としても読んでもらいたい。その点で、単なる昭和回顧本になってほしくないとの思いがある。
「昭和の人間にとって、平成から令和にかけては急激に生きづらくなっているっていうのはあるかもしれない。でも戻りたくても戻れない。前に向かって生きていかないといけないんです。それなら、戻りたいと思うよりも『先人はすごかったんだな、あんな時代をつくってくれて良かったな』と頑張りをたたえて、今の時代に伝えていけばいい。それが自分の役目かなと思うんですよ。『あの時代は良かったな…』と話すのは、同じ年代の人たちが集まって飲む時だけでいいんです」
ただ、ある一定の年齢を超えると過去にとらわれてしまい、融通が利かなくなることも多い。世間はそれを「頑固ジジイ」などと呼ぶが、そうならないためにはどうすればいいのだろうか。
「バランス感覚だよね。オレももう60歳近くなってきて、新しいことがどんどん上書きされることに追いつくのが大変になってきた。でも、やっていかないといけない。すると、過去の自分がこだわっている中のある部分と、今現在のある部分がつながる時があると思うんだよね。ただ、それは今のものを見て理解しようとする努力をしないと気付かないんですよ」
逆に、今の若い人には本書を読むことで「温故知新」となってもらいたいと考えている。
「物事というのは、どこかで全部つながっているんだから。自分が今、ハマっているもののルーツを知るなんてことも、この本を通じてできるんじゃないかと思う。そして『もっとよく知りたいな』となって、この本に書かれていること以外のことも調べるなんてのも面白いんじゃないの? きっかけが詰まっているというか、ヒントの本になってればいいよね」
そんな玉袋は、1年半ほど前の本紙のインタビューで「完成形のおじさん」になりたいと話していた。玉袋の考える「完成形のおじさん」とはどのようなものなのだろうか。
「いい加減(ちょうどいい程度)で、いい加減(無責任)になっていきたいね。話せばアクセントが違うから分かるけど、文字で書くと難しいな。アクセントの矢印(前半がで後半が→)を入れておけばいいか。そこに向けて、日々進んでいきたいと思っています。周りに迷惑をかけない程度のいい加減さで、だらしなく生きることほど楽なことはないですから。自分勝手というか。趣味に没頭するのも、ある意味、自分勝手ということだからね」
【玉袋筋太郎が選ぶおすすめ】
◆「1954 史論―日出ずる国のプロレス」小泉悦次著(辰巳出版)
◆「プロレススーパースター列伝」秘録 原田久仁信著(文芸春秋)
両方とも24年に読んで印象に残っている本。どちらもプロレス本で、真逆のアプローチで書かれてます。
「1954―」の方は、かなりマニアック。戦後、プロレスがどうやって日本に入ってきたか事実を追って紹介されてるんだけど、中でも興味深いのは「昭和の巌流島」と呼ばれた木村政彦と力道山の一戦について。あの試合についてはいろいろと言われているけど、この本はちょっと違った角度から考察している。当時、日本プロレスは設立間もない時期でビジネスモデルが完成しておらず、手探りだった。その中で起きた出来事だったと書かれていて、非常に勉強になりました。
一方、「プロレス―」は梶原一騎先生が原作を手掛けた漫画の作画を担当した原田先生が書いた一冊。プロレスというのはファンタジーの部分があって、梶原先生はファンにおまじないをかけていたんだと思うんだけど、原田先生も、その魔法にかかっていたんじゃないかな。その漫画の制作秘話が書かれています。描き下ろしの漫画があるんだけど、オレ涙したもんね…。
この両面があってこそプロレス。白か黒じゃなくてグレー。グレーゾーンが一番面白いし、それがプロレスの楽しみ方なんだよね。(談)
◆玉袋 筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)本名・赤江祐一。1967年6月22日、東京都新宿区生まれ。57歳。86年、ビートたけしに弟子入り。87年、たけしの追っかけとして出会った水道橋博士と「浅草キッド」結成。2014年、全日本スナック連盟を設立。17年、「スナック玉ちゃん 赤坂本店」を開店。20年3月、旧オフィス北野を退社し独立。レギュラー番組はBS―TBS「町中華で飲(や)ろうぜ」(月曜・後10時)など。
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