尾上菊之助 5月に大名跡の菊五郎襲名へ「先人の思いを継ぐ」…東京・新国立劇場「彦山権現誓助剣」出演中
スポーツ報知 / 2025年1月12日 10時0分
新国立劇場に出演している(前列左から)中村梅枝、尾上丑之助、尾上眞秀、中村種太郎、中村秀乃介、(中列同)尾上菊五郎、坂東楽善、(後列同)市村光、市村竹松、中村時蔵、尾上菊之助、坂東彦三郎、中村萬太郎、上村吉太朗(カメラ・小泉 洋樹)
5月に8代目尾上菊五郎を襲名する尾上菊之助(47)は、東京・新国立劇場で「彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)」(27日千秋楽)に出演中だ。主人公・毛谷村六助に初役で挑んでいる。“国立の初春”は音羽屋の指定席というイメージが強いが、いまの名跡での初春公演はラスト。大名跡襲名まで約3か月半。年男でもある菊之助は、刻々と迫るその時に向け、いまどんな思いで舞台に立っているのか、胸の内を聞いてみた。(内野 小百美)
インタビューは開幕から3日過ぎた7日。合同囲み取材の後、菊之助に話を聞いた。「昨年から時間のたつのがものすごく早くて。今年に入って一層そう感じますね」。菊五郎襲名まで約3か月半。多忙さをうかがわせる言葉だ。いま演じている主人公・六助は父・尾上菊五郎(82)、義父・中村吉右衛門さん(21年没、享年77)も演じた大役。母親思いで優しく、剣術にたけた男。「“輪郭の太い役”といわれ、それをずっと考えましたが、想像できない部分が残っていた。それが幕が開くと、迷いなく舞台に立てている。支えてもらっているお客様の力を痛感します」
記者が見たのは初日(5日)。菊之助への割れんばかりの拍手には、もちろん襲名への期待が含まれている。国立劇場(隼町)は建て替えのため、初台の新国立劇場で正月を迎えるのは2度目。客席がすり鉢状で独立した花道がないなど、国立劇場や歌舞伎座とはかなり構造は違う。しかし、工夫を重ね、観客と目線の近い、くの字の形状の新しい花道も定着しつつある。
「その花道近くの特別席から入場券は人気と聞きました。歌舞伎座とは確かに違います。でも演じていて、とても近くに感じられるお客様との一体感、濃密さは、この劇場ならではです」。不自由さを逆に武器にしようとしている。
さて、5月に始まる襲名に向けて。かなり前から6代目菊之助を襲名する長男・尾上丑之助(11)との稽古は始まっていた。自身の役の準備もさることながら、息子に芸を伝えることも親の務め。「京鹿子娘二人道成寺」では2人の白拍子花子を親子で演じるなど、難しい大役ばかりだ。
「特に丑之助は女形で裾を引いて踊ったことがないものですから。いま、一つ一つの役を深めようとしています。私も18歳の菊之助襲名時、それはもう、艱難(かんなん)辛苦でした。(今年)12歳になる丑之助が、どこまで花子という役を生きられるか。それを伝えていかなければ、と思っています」
「尾上菊五郎」は「市川團十郎」に比肩する歌舞伎の大名跡。生まれたときから、その運命、宿命を背負って生きてきた。「同輩の團十郎さんもいて、切磋琢磨(せっさたくま)できる人たちがいて、これまで踏ん張ってやってこられた。でも実際に菊五郎になってみないと分からないことも、結構あると思うんですよね」
改めて、大名跡の重圧をどう受け止めているのだろうか。「自分にふさわしく、どこまでの覚悟があるのか。菊五郎という大きな器に自分を合わせていかなければならない部分もあるでしょう。歴代の菊五郎とその時代に生きた先人たちが、歌舞伎を守ってきてくれた。その中で大名跡となり、看板を大きくしてきた。重圧は『先人の思いを継ぐ』ということだと理解しています」
襲名まで舞台に立つ一方で、あいさつ回りなど気が遠くなるほど無数の準備もある。きちょうめんで何事もきっちりしないと気がすまないタイプ。神経が休まる時はあるのか気になるところ。「やっぱり家族と過ごす時間、それから丑之助との2人の時間を大事にするようにしています。一方で一人になることも大切で、1時間ほどカフェで何も考えずに過ごしたりとか。リセットできるので。そういう時間がないと、追われるばかりで精神的に余裕が持てなくなりますからね」
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