「あまり比べないで。僕なんて“序ノ口”みたいなもの」横綱昇進確実の豊昇龍、叔父・朝青龍は雲の上の存在

ともえ戦で王鵬（下）を下し、優勝を決めた豊昇龍。横綱昇進が確実となった（カメラ・今西　淳）

◆大相撲初場所千秋楽（２６日、東京・両国国技館）

　大関・豊昇龍（２５）＝立浪＝が逆転優勝し、横綱昇進が確実になった。結びで大関・琴桜を寄り切り。１２勝３敗で金峰山、王鵬と並び、優勝決定ともえ戦で２連勝。自身２度目、大関として初の賜杯を抱いた。先場所は１３勝で優勝次点。昇進を預かる審判部は打ち出し後、八角理事長（元横綱・北勝海）に昇進を審議する臨時理事会の開催を要請した。２９日に第７４代横綱が正式に誕生する。横綱昇進は今場所限りで引退した照ノ富士以来。春場所（３月９日初日・エディオンアリーナ大阪）は１９９３年初場所以来の横綱空位は回避される。

　鬼のような表情をした豊昇龍の目に涙が浮かんだ。横綱昇進を確実にする２度目の賜杯。ともえ戦を２連勝で制すると、国技館の天井を見上げ、大きくうなずいた。「（横綱は）意識していなかったが、入門してからの夢。ちょっと近づいたかな」。無我夢中で果たした逆転優勝だった。取組を終え、臨時理事会の開催を知ると「マジで。いいね」と無邪気に喜んだ。

　トップの金峰山が王鵬に敗れ、琴桜との本割に勝てば優勝決定ともえ戦に持ち込める展開。「このチャンスは絶対に逃さない」。琴桜を破り自力優勝の可能性を復活させると、さっそうと支度部屋へ。正面に座った金峰山が両足を小刻みに動かすのとは対照的に、表情は変えず。「２人は初めてだけど、僕は（一昨年名古屋場所で）優勝決定戦の経験がある」と精神面で上回った。ともえ戦では金峰山、王鵬を連破。約２０分間、“３連勝”で遠のきかけた横綱昇進をつかんだ。

　昨年九州場所は１３勝同士の千秋楽相星決戦で琴桜に敗れた。引き揚げてきた支度部屋では「クソーッ！」と絶叫。「来場所、死ぬほどやり返す！　忘れない」。夢を実現させたのは、叔父で元横綱・朝青龍譲りの勝負への執念だった。

　大横綱の“教え”が豊昇龍を変えた。８勝７敗に終わった昨年秋場所後、師匠の立浪親方（元小結・旭豊）から金言をもらった。師匠が昭和の大横綱・大鵬さんから聞いた「（毎日）四股５００回、てっぽう１０００回やるから力士は応援してもらえて、認めてもらえる」との言葉だった。それから、てっぽう５００回を日課にした。得意の投げに加え、強烈な突き押しが加わった。「稽古場では四股、すり足、てっぽうの基本が一番という師匠の言葉を信じた」としみじみ語った。

　照ノ富士の引退で、来場所は３２年ぶりに横綱空位の危機だったが、モンゴルの後輩がつなぎ、朝青龍と肩を並べた。「あまり比べないで。僕の年（２５歳）で横綱だったし、優勝も２５回。比べると僕なんて“序ノ口”みたいなもの」。雲の上の存在とするが、幼少期から見ていた土俵入りを思い浮かべ「こう（雲竜型）ですよね」と茶目っ気たっぷりに答える。

　八角理事長は「ガッツポーズしようとしたが、よく我慢した」と力量だけではなく、品格も認めた。１場所１５日制が定着した１９４９年夏場所以降、昇進直前場所で連敗した力士の横綱昇進は０％だったが、奇跡を起こした。来日から１０年。「しっかり一から頑張る。（まず）土俵入りの練習しないとね」。叔父の背中を追う２５歳が、第７４代横綱として角界の顔になる。（山田　豊）

　◆３敗での綱取り　１場所１５日制が定着した１９４９年夏場所以降で、３敗しながら横綱に昇進したのは３３人のうち３人。６１年秋場所の大鵬と柏戸、９８年夏場所の３代目・若乃花で、大鵬と若乃花は優勝した。柏戸は大鵬らとのＶ決定戦で敗れたが、場所後にダブル昇進を果たした。９日目までに３敗しての昇進は初。

　◆豊昇龍　智勝（ほうしょうりゅう・ともかつ）

　▽本名　スガラクチャー・ビャンバスレン

　▽生まれ　１９９９年５月２２日、モンゴル・ウランバートル市

　▽スポーツ歴　５歳から柔道。レスリング留学した千葉・柏日体（現日体大柏）高で相撲に転向し、３年次に全国高校総体２位

　▽入門後　立浪部屋で１８年初場所で初土俵。１９年九州場所で新十両。２０年秋場所で新入幕

　▽しこ名　師匠の立浪親方の現役時代の旭豊から「豊」、叔父・朝青龍の「しょうりゅう」から番付を上りつめたい思いを込めて「昇龍」にした

　▽得意　右四つ、寄り、投げ

　▽特技　ルービックキューブ

　▽歌が好き　来日して一番最初に覚えたのは長渕剛の「Ｍｙｓｅｌｆ」。昨年２月の大関昇進パーティーでは歌手・小林幸子と「もしかしてＰＡＲＴ２」をデュエット。ラップもよく聞き、場所に行くまでは「ノリノリの曲で気持ちを高める」

　▽身長・体重　１８８センチ、１４８キロ