マキタスポーツが抱く“アラ還”の夢 「自分で作品を撮ってみたい」…芸人、ミュージシャン、俳優、文筆、マルチな才能
スポーツ報知 / 2025年1月27日 11時0分
俳優・お笑い芸人・ミュージシャンなど多才な顔を持つマキタスポーツ(55)。28歳でお笑い芸人としてデビュー。「R―1ぐらんぷり」で準決勝進出した一方で、2012年の映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞を受賞した。演技力が高く評価され、「闇金ウシジマくん」シリーズや「地面師たち」(Netflixシリーズ)などの話題作に出演。25日に“アラ還”を迎え、唯一無二のキャリアの集大成ともいえる夢を見据えた。(田中 雄己)
色付きメガネに、蓄えたヒゲ。そこに重なるマキタ独特の低音ボイス。「よろしくね」。一瞬身構えたが、ひとたび口を開けば、ジョークを交えながらも理路整然としたトークに、質問も忘れて観客のように前のめりになっていた。
なるべくしてなったお笑い芸人。「ドリフやひょうきん族、あとは欽ちゃんとか見ていましたね。生まれ故郷の山梨は民放が2局だけで、放送開始当初は『笑っていいとも!』とか見られなくて。あとは、4つ上の兄の影響が大きくて。(笑福亭)鶴光さんや所ジョージさんのラジオが好きで。電波を拾うためにラジオを持って、深夜に部屋をうろちょろしていましたね(笑)」。そんな環境で生まれ、育ち、卒業文集には「お笑い芸人になってバカなことをする」とつづった。
大学卒業後、フリーターなどを経て「夢」をかなえた。だが、売れなかった。
「90年代後期からネタ番組ブームがあって。僕はどこにも引っかからなくて。若手は1~2分でネタをやらないといけないけど、短いネタは持っていないし、やりたくもないみたいな」
11年に「R―1ぐらんぷり」準決勝進出、12年には「中居正広の金曜日のスマたちへ」でヒット曲の法則を語ったことで人気が爆発。各局から引っ張りだこになったが、ここでもなじめず。
「自宅で出演した番組を見ていたら、ひな壇の僕が、真顔でブツブツ話していて。話を振られた時のためにシミュレーションをしていたのかもしれないですけど、『イタいな』って。1年半くらいは来る仕事を受けていたんですけど、『もうちょっときつい』と」。限界に達し、自身の肩書から「芸人」を外した。「ライブは、象徴的な活動なのでやりますけど、バラエティー芸人という道からは、ずらしました」
そんな時「たまたま」出演した「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞を受賞。「抵抗があった」俳優業に、のめりこむ契機となった。
「それまでは、勝手が分からないし、メチャクチャ緊張していたんですけど、『みんな!エスパーだよ』(13年)とかで合宿ロケみたいなことをして。周囲の人間とも親しくなって、チームワークもできて。『あ、面白いかも』と。あと、現場で働いている人の専門性が面白くて。カメラマンは自分が撮る画角のみに集中しているし、それらを結集して作品を完成させる。それに、ひかれましたね」
このページでは、これまでも安井順平や今野浩喜らお笑い芸人と俳優業に向き合う人に話を聞いてきた。お笑い芸人と俳優業との親和性は高いのだろうか。
「人を笑わせることは、センシティブでちょこっとだけズレたら笑いにならない。あとは、音楽にしても時事にしてもいろいろなものに触れているアンテナがないと務まらない。どう表現したら喜んでもらえるかというツボを持っている方も多い。他の表現事をしている方よりも、スライドはしやすいのかもしれないですね。あとは、ネタを作っている人は演出している人の気持ちも分かるので」
さまざまなシーンに活躍の幅を広げている現在の肩書についてたずねると、「芸人・俳優・ミュージシャン、あと文筆ですかね」と言いつつ、「一つに絞ると、タレントですかね」と笑った。「嫌ですけどね、タレントってなんか軽いから。でもマルチパフォーマーと名乗る勇気もないし。まぁ、やっていることにウソはないのでね」と深くうなずいた。
25日に55歳を迎えた。“アラ還”の「夢」がある。
「長年の夢なんですけど、自分で作品を撮ってみたい。アイデアを出したり、本を書いたり、やらなければいけないこともあるので、実現するためには時間を取らないといけないんですけど」。そして、続けた。「あとは、久しぶりにテレビとかでネタとかをやりたい。芸人・マキタスポーツの価値を高めてみようかと」。一度は外した肩書を、再びつけたい思いとは―。「今みたいな芸風でお客さんに満足してもらえるのは、70歳くらいまでのイメージなんですよね。そう考えたら、あと15年しかない。ここらで芸事を知らしめる活動を力入れてやらないとなって」。そう言い、ニヤリと笑った。「本当は、まだあるんですよ。70歳くらいにどうなっていたいかも。でもそれは恥ずかしいのでね。70歳以降もより良く生きるために。何かって? いや、恥ずかしいから」。イタズラな笑みを浮かべたマキタの目は、少年のように輝いていた。
◆マキタスポーツ(本名・槙田雄司=まきたゆうじ)1970年1月25日、山梨県出身。55歳。大学卒業後、フリーターなどを経て、28歳でお笑い芸人の道に。音楽ネタ(オトネタ)を得意とし、注目を集める。「闇金ウシジマくん」シリーズ、「きのう何食べた?」シリーズなどの話題作に出演。2022年に自伝的小説「雌伏三十年」を発売。芸名は、実家のスポーツ用品店の店名が由来。
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