平松政次さん「喜」 「カミソリシュート」名付け親は一番大好きなあのレジェンド…巨人が恐れた男たち
スポーツ報知 / 2025年1月28日 10時0分
V9を筆頭とする巨人の栄光時代は、強大なライバルの存在なくしては語れない。スポーツ報知では「巨人が恐れた男たち」と題し、熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げてきた名選手のインタビューを毎月掲載する。第1回は元大洋の平松政次さん(77)。代名詞の「カミソリシュート」を武器に巨人戦歴代2位の51勝を挙げ、あの長嶋茂雄を最も苦しめた投手の一人だ。レジェンド右腕が、野球人生の「喜怒哀楽」を語った。(取材・構成=太田 倫、湯浅 佳典)
子供の頃から巨人ファンだった。そして、長嶋さんの大ファンだった。私の野球人生の節目には、長嶋さんの存在が必ず大きく関わっている。
「カミソリシュート」という呼び方が広がったのは、プロ4年目の1970年と記憶している。キャリアハイの25勝を挙げて、沢村賞ももらった年だった。投手として沢村賞は一番の喜び。他の人がもらうものだと思っていたから、発表の日はゴルフ場にいた。まだ価値を分かっていなかった。あの年は巨人戦で3連続完封、さらに33イニング連続無失点もあった【注1】。3年目の春のキャンプで覚えたシュートがキレた。ボールが指先から離れる瞬間が、自分で完全に見えていた。直球のコントロールも抜群。打たれる気がしなかった。
誰が「カミソリ」と呼び始めたのかは知らなかった。引退したら名付け親を探そう、と考えていた。10年くらい前に、あるベテラン記者から「あれを名付けたのはミスターだよ」と教えてもらった。私のボールに手を焼き、「平松のシュートはカミソリみたいだ」って言ったのが始まりだ、と。うれしかった。一番好きな人に命名してもらったのだから。
「カミソリ」というネーミング自体は、実はそんなに気に入っていなかった。速球と大きなカーブで勝負するのが理想だった。昔は鋭く大きなカーブを「懸河のドロップ」と呼んだ。私は投げられなかったが、そっちの方が正直格好いいと思っていた。
現役を終えてから、ニッポン放送の名アナウンサーだった深沢弘さんに逸話を聞いた。長嶋さんは関東近辺で試合があったときは、ユニホームのまま車で家に帰り、そのままバットを振る。翌日の先発が平松だと知ると、深沢さんにフォームをマネさせて、素振りをしていたという。深沢さんは「平松のマネなんかできっこない」と言っていた。
何とかシュートを打とうとした長嶋さんが、打席の中でバットを短く持ち替えてきたこともあった。気づいたときは「なんちゅう打ち方してるんだ」と驚いたものだ。見方を変えれば、それほど悩んで、必死に研究してくれた証拠だった。
【注1】70年5月31日、7月12、24日にマークした巨人戦の3連続完封は95年ブロス(ヤクルト)と並ぶ最多タイ記録。33回連続無失点は54年・杉下茂(中日)の35回に次ぐ。
◆先輩から嫌み カミソリシュートは偶然の産物
伝家の宝刀も、怒りの産物だった。入団3年目、69年の春。舞台は静岡・草薙キャンプ。その日は雨で、体育館での練習となった。
平松さんが板張りの床で投球練習していると、近藤昭仁、近藤和彦といった主力組が目慣らしにやってきた。当時の球種は直球とカーブくらい。「よほどヘナチョコだったんだろうね。『他のボールはないのか』と言われて、カチーンと来た」。とっさに「シュートがあります」と返した。
日石時代にOBに握りを教わったが、投げた経験は一度もない。縫い目に指をかけない“ノーシーム”。記憶を頼りに腕を振ると、驚くほど曲がった。投げたのは6球。「すごい球だ」と先輩も目を見開いた。魔球誕生である。
「『溺れる者はわらをもつかむ』の心境だった。あれが曲がらなかったら、シュートは投げていない」。この年14勝。翌年に沢村賞も受賞し、大きく花開いた。
◆平松 政次(ひらまつ・まさじ)1947年9月19日、岡山県生まれ。77歳。岡山東商時代は65年のセンバツで4戦連続完封をマークし優勝。日本石油(現ENEOS)を経て、66年ドラフト2位で大洋(現DeNA)入団。70年に最多勝と沢村賞を受賞。71年は2年連続最多勝を獲得した。83年の200勝達成時の相手は巨人。翌84年限りで引退した。通算201勝196敗16セーブ、防御率3・31。引退後はフジテレビ系「プロ野球ニュース」の解説などで活躍。17年に野球殿堂入り。右投右打。
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