「真っ白」指名漏れから立ち直れた理由 後輩のために叩いたメガホン 健大高崎からトヨタ自動車へ…箱山遥人の新たな挑戦
スポーツ報知 / 2025年2月4日 16時0分
昨年までとはずいぶん違う、トヨタ自動車の赤いウェア。身にまとった箱山遥人は少しだけ、大人びて見えた。新天地へと合流して、まもなく1か月が経つ。健大高崎(群馬)の正捕手、主将として昨春センバツ制覇に貢献した18歳は、新鮮な日々をこう語ってくれた。
「野球のレベルはもちろん、格段に上がっています。トヨタの雰囲気の良さがあって、野球がやりやすく、お手本になる先輩ばかりがいます。高卒から3年でプロに行きたいという目標があるので、自分を磨くためにこれ以上ない環境だと、この1か月で感じることができました。本当に楽しく野球ができていると感じます」
昨年の10月24日、プロ野球ドラフト会議。強肩強打と高いキャプテンシーを兼ね備えた捕手として、前評判は決して低くなかった。進路は「プロ1本」。しかし会議中、その名が呼ばれることはなかった。
その時の心境は、どういうものだったのか。
「『真っ白』っていうのが、表現的には一番いいんですかね…。本当に『悔しい』もなくて。監督さんやスカウトの方ともいろいろなお話をさせていただく中で、『指名はあるだろう』と言っていただいていたんで。正直、指名がないっていうのは、考えていませんでした。今となれば結構、自分のことを過大評価してしまっていたのかなって思ってるんですけど…」
ドラフトはタイミングであり、縁だ。決して実力順に消えるわけではない。各球団とも補強ポイントに従って選手を指名していく中で、結果的に箱山は“残って”しまった。
ドラフト翌日は金曜日だった。本来ならテレビカメラが密着し、所属する3年3組の仲間から祝福されるという「画」を撮影予定だった。撮影は“バラシ”になった。ホームルームの冒頭、箱山はクラスメートに頭を下げた。
「皆さんもご存知の通り、指名がなくて。応援していただいたのに、申し訳ありませんでした。この先、どこで野球をやるとか、この後どうするっていうのは全く、今はわからないんですけど、もし野球をするとなったら、応援していただければと思います」
* * *
人は逆境の中でこそ、その本質が出ると言われる。
ドラフトから3日後の10月27日。箱山の姿は、後輩たちがセンバツ切符を懸けて戦う秋季高校野球関東大会の会場、等々力球場の一塁側スタンドにあった。同級生たちと一緒に両手でメガホンを持ち、にぎやかに叩いた。率先して応援歌を歌って場を盛り上げた。強い男だな、と思った。まだ悲しみは癒えていないはずだ。わざわざ会場に行かないという選択肢もあっただろう。しかし箱山は応援部隊の一員になることを自らに課した。
あの日の心もようを回想し、言った。
「正直、無理してた部分もあります。みんな気を使っているだろうなと思いましたし、一般客の視線も感じました。でも自分がうまくいかなかった時、立ち直れたきっかけは、ずっと健大でやってきた仲間…3年生28人がいたことなんです」
同じ釜の飯を食い、切磋琢磨してきた同志たち。彼らは誰もがレギュラーを夢見て健大高崎の門を叩いたが、全員がベンチ入りできたわけではない。
「思い描いた通りの高校野球生活にならない選手ももちろん、いたわけです。自分はキャプテンとして、メンバーに入れなかった3年生にも、現実を受け入れてチームのために行動してほしいんだ、応援してほしいんだ、それは絶対に勝つ上での力になるからと、ずっと言ってきました。そういう、感情を押し殺してチームのためにやってくれた3年生のメンバー外の存在が、立ち直れたきっかけになってくれました」
感極まり、言葉を紡いだ。
「自分はドラフトに選ばれなかったっていう現実がある。自分の思い描いていた未来とは違う結果になってしまった。その時、夏にサポートに回ってくれた仲間も、悔しい感情を押し殺して、チームのために尽くしてくれたんだなと、あらためて実感したんです。本当にありがたかったなって。だから自分もしっかり立ち直って、チームのために応援しようと心の底から思えたんです」
* * *
ドラフトから数日後、トヨタ自動車からオファーが届いた。迷いなく入社を決めた。
「トヨタに決めたのは一番レベルの高い場所に身を置きたかったから。一番強いチームでやりたかった。あとは自分を知るという意味で、いろいろな数値をもとに自分を伸ばしていけるチームに行きたかった。練習見学で来た時には、ここなら絶対成長できるなって思いました。あとは素晴らしいキャッチャーとピッチャーがいる。良いピッチャーを受けてこそキャッチャーは成長すると、自分は思っています。プロに近い環境でやりたかったっていうのが、一番の決め手です」
捕手の指導役を務めるのは早大、DeNA、ソフトバンク、トヨタ自動車でプレーした細山田武史コーチ(38)だ。箱山は心酔し、ついて行くと決めている。
「密にコミュニケーションを取らせていただいています。明確な育成プランを立てていただいて。1対1の『キャッチャー面談』を週に1度、開いたりとか。去年のドラフトでプロに行った捕手の方々より、日本で一番練習をしよう、1年目はまず数をやろうと。そんなお話をさせていただいています」
ただ未来だけを見据え、向上心を胸に、再び動き出す箱山がいた。
「縁があって入らさせていただいたチーム。まずは社会人のカテゴリーで一番になりたい。先輩方からいろいろ学びながら、即戦力でプロに入れるような選手に鍛えていきたい。昨秋のドラフトでプロに入ったキャッチャーよりも練習して、上手くなって、プロに行くのが目標です」
心の傷が癒えるほど、人は強くなっていく。もしそのままプロに行っていたら、出会わなかったかもしれない人たちがいる。箱山遙人、18歳。新たな縁をエネルギーに変え、赤いユニホームで暴れまくる。(加藤 弘士)
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