豪企業の金の試掘に揺れる長万部と黒松内 産業への期待か?それとも環境の保全か?
HTB北海道ニュース / 2024年7月16日 12時54分
黒松内町から長万部町にかけて広がる山林地帯ではかつて金が掘られていました。
今では閉山したこの場所で今年2月、オーストラリアの会社が新たに金の試掘権を取得。
地元は新たな産業への期待と環境への懸念のはざまで揺れています。
廣瀬美羽「山の一部がくりぬかれたように平地になっていて、斜面は岩肌が露出しています。このあたりで、かつて金の採掘が行われていました」
後志の黒松内町から隣の長万部町にかけて広がる広大な山林地帯。
この付近は戦前「静狩金山」と呼ばれていました。
大正時代から昭和初期にかけて金の採掘が盛んに行われ、最も栄えた1942年には2000人を超える従業員が稼働していたのです。
当時の静狩金山は、全国で10本の指に入るほどの金の産出量で、国内屈指の金山だったとも言われています。
しかし1943年、戦時下の日本政府は金の採掘は戦争の遂行には不要とみなし、活動を休止させました。
戦後2度再開されますが、長くは続かず、1962年に閉山しました。
それから60年あまり、静狩金山で新たな動きが。
今年2月、オーストラリアの探鉱企業の日本法人Japexが経済産業省から金などの「試掘権」を取得しました。
対象となるのは黒松内町から長万部町にかけての、およそ346ヘクタール、東京ドーム75個分に及ぶ山林です。
「試掘」とは、金の含有量や鉱脈が存在する位置などを把握するためのボーリング調査。
権利期間は2年間で、延長申請を行うと最長で6年間の調査が可能になります。
Japexは全国各地で「試掘権」の申請を行っていて、最も早く国に許可されたのが静狩地区でした。
採算が取れるほどの金があると判明した場合、本格的に堀り始めるためには国から新たに採掘権を取得する必要があります。
かつて鉱業で栄えた長万部町。
町長は金鉱山の復活に期待感を滲ませます。
長万部町・木幡正志町長「長万部の歴史の1ページとして静狩金山があったんだってことを冷静にとらえて、それが復活するっていうのはすごいよなって。近代的な鉱山の仕事、現場、雇用が生まれてくるってことは長万部にとっては大きなプラス。これを排除したら大きなマイナスになるかもわからない。ゴールドだよ、夢あるじゃない」
一方、環境への影響を懸念する声も上がっています。黒松内町のグラッドニー牧場。
80ヘクタールを超える広大な敷地で、肉食用の牛を50頭飼育しています。
牛にストレスを与えない「周年放牧」のスタイルを採用し、農薬を使わないで育てた牧場内の草のみをエサとすることで、健康的でヘルシーな肉質の牛を育てています。
グラッドニー牧場・ティム・ジョーンズさん「私たちは1年かけて日本中を探し回り、落ち着くのに良い場所を探しました。黒松内は一番良い場所でした。黒松内の素晴らしいところは自然、水、そして生物多様性です」
牧場長のティム・ジョーンズさんは、元々アメリカで父親とともに牧場を経営していましたが、4年ほど前に移住。
妻の千絵さんとともに耕作放棄地だったこの土地を買い取り、農薬などを使わずに農業を行うことで土壌の状態を回復させる「環境再生型農業」に取り組んでいます。
ようやく軌道に乗り始めた矢先、金山の話が明らかになりました。
グラッドニー牧場ティム・ジョーンズさん「私たちはこの山のこちら側に金山があることを予想していませんでした。金採掘は最も破壊的な種類の採掘の一つであり、穴を掘るたびに汚染の危険があるため、本当に残念で不安です。地下水と川の両方を汚染するリスクがあります」
牧場は試掘エリアと隣接していて、ジョーンズさんは調査が進み鉱山開発が行われれば牧場の環境にも悪影響が出かねないと話します。
グラッドニー牧場ティム・ジョーンズさん「黒松内は私の愛する町であり、私は死ぬまでこの場所にいます。ここに全てを投資してきました。ここが私たちの未来です。だからこそ、環境を守るためにできる限りのことをします」
黒松内町の廃校舎で児童向けの自然体験学習などを行う高木晴光さんも金の試掘による環境への影響を懸念しています。
ぶなの森自然学校高木晴光代表「朱太川っていう流れている川がね、上流から下流まで堰堤もなくて生き物も非常に豊富で多様な環境ですから。そういうところに鉱毒とか流れたらそれは嫌ですよね」
黒松内町から寿都湾へと流れる朱太川。
アユが源流まで遡上する全国でも有数の清流ですが、この川に流れ込む支流は試掘エリアを走っています。
ぶなの森自然学校高木晴光代表「掘れば絶対水が出てくるからそれは川に行くと思うからその中にどういう物質が入っているとかそれに対してちゃんと検査をやって隠すことなくきちっと発表してほしい」
朱太川でアユのふ化事業などを行う漁協からも詳しい説明を求める声が上がっています。
黒松内町不安の声を受けて、黒松内町議会は環境アセスメントの実施や条例を基にした環境協定の締結をJapex側に働きかけるよう、町に求めていくことを検討しています。
黒松内町議会福本誠一議長「まだ自分もそういう意味では勉強不足だったから、いろいろ協議して、最終的に議会の対応を出せればいいのかなと」
Japex側は環境への影響をどのように捉えているのでしょうか。
HTBの取材にこのように回答しました。
「黒松内町が朱太川を始め自然環境豊かであることを認識している。ただ、当社の探鉱事業は現環境を変えずに調査するだけのものであって、今すぐに恒久建造物等を作るものではないので、その点を丁寧にご説明したい。我々の事業をさらに進めるためには、地域との信頼関係と透明性の確立が必要と考えている。」
7月19日に、初めての町民説明会を黒松内町で開くというJapex。
金鉱山復活へ、地元の理解は得られるのでしょうか。
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