【密着】夫婦ともに“盲ろう” 目と耳の両方に障害のある生活とは 「知ってほしい」多様な会話の形 旭川
HTB北海道ニュース / 2024年11月22日 19時16分
北海道旭川市の障害者福祉センターに集まった人たち。
「通訳、担当します。よろしくお願いします」。
隣に座る通訳介助員の女性から、手のひらに文字を書いてもらう人。手話でやりとりする人。指を点字に見立てて、言葉を伝える人も。3人は、目と耳の両方に障害がある「盲ろう者」です。
旭川市を拠点に、盲ろう者と支援者が月に1回交流する「つぼみの会」。会員はおよそ30人で、この日は目や耳の障害を疑似体験してもらうイベントの打ち合わせをしていました。
「盲ろう」とひと言で言っても、見え方と聞こえ方の組み合わせによって、コミュニケーションの方法は様々です。
弱視難聴で北見市の山本有希子さんは、「遠くに離れてしまうと見えづらいので、1m以内に近づいていただいて手話を読み取ってコミュニケーションを取っています」と話しました。
右耳が聞こえない澤田朋子さんは、介助者の声をマイクと補聴器を使って聞き取っています。「左耳に補聴器をつけて、外出の時には(声がダイレクトに届く)ロジャーというマイクを使っています」と言います。
2016年につぼみの会を立ち上げた澤田優さんは、生まれつきの盲ろうですが、子どもの頃は、まだ目は見えていました。徐々に視力が低下し、今は光を感じる程度。耳は人の声を聞き取ることはできません。
澤田優さんは、つぼみの会について「盲ろう当事者や支援者、ほかの障害者も交流したり、情報交換したり、そういう場でありたい」と語りました。
実は、メンバーの朋子さんとは夫婦です。盲ろう者の団体を通じて、当時、愛媛県で暮らしていた朋子さんと知り合い、去年、結婚しました。
結婚した際に撮影した記念写真について、優さんは「パープルのスーツがかっこいいかなと思って選んだ」と話しました。記者が「かっこいいです」と伝えると、朋子さんが優さんに指点字で通訳してくれました。優さんは「そうですね」と、はにかみました。
ともに盲ろう者の2人。一体どうやって、生活しているのでしょうか。
(午前5時)
旭川市内で、優さんの両親と4人で暮らす澤田さん夫婦。朝、優さんが、まず向かうのはキッチン。朝食の目玉焼き作りが日課です。同時進行で、職場に持っていくお弁当を準備します。
目玉焼きの焼き加減について、優さんは「いつも通りちょうどいい。半熟にしている」と満足気。全ての物が、決まった場所に置かれていることが、2人の生活では大切です。
「食べている?」と朋子さんに尋ねる優さん。左耳が聞こえる朋子さんに対し、優さんは声で会話しています。朋子さんは、優さんの手のひらに文字を書いて思いを伝えます。
優さんの母・友子さんは、2人を見守りながら、「いつもと同じ。作って食べて、後片付けも自分たちでやる。手はかけない」と話します。
外出前には、点字ディスプレイで天気をチェック。「雨のち曇り、8℃」と、天気の情報を読み上げる優さん。点字ディスプレイは、インターネットにつながっていて、文字情報を瞬時に点字に変換してくれる機械です。試しに、記者が優さんにメールを送ってみると…。
「メールサーバーに接続。1通、受信しました」と点字を読み上げる優さん。手元の小さなピンが上下して、点字が表示されます。記者が送ったメールも、その場で確認できました。
(午前7時)
2人は、優さんの父親が運転する車で、ともにマッサージ師として働く治療院へ。優さんは盲学校を卒業後、20歳であん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得し、生計を立ててきました。優さんは「首が凝っているとか、肩が凝っているとか、腰が硬いとか感じながらもんでいます」と話しました。
(午後2時)
この日、朋子さんは正午前に仕事を終え、街中に出てきました。
「目の代わりに、いろいろ周りの状況とか情報を教えてもらっています」と話す朋子さん。朋子さんは、旭川市による障害者の付き添いサービスを使い、週に2、3回、運動や買い物のため外出しています。
しかし、全道的には、盲ろう者に適切な支援が行き届いていないという現状も。北海道には、盲ろう者が800人ほどいるとされていますが、道内で行われている「通訳・介助員派遣事業」の利用登録は42人にとどまっています。
北海道身体障害者福祉協会の佐々木英己子さんは、制度の課題をこう指摘します。
「制度を知らなかったり、声を上げられなかったり。外に出ていくことで、他人の手を煩わせるとか迷惑をかけてしまうと考えがち。気軽に声を上げて制度を使いたいと言ってもらえるような整備が大事」。
(11月17日)
「盲ろうのことを、もっと知ってほしい」。優さんはこの日、「つぼみの会」が主催したイベントで自らの体験を話しました。
「私は生まれつき目と耳の両方に障害があります。見えていた頃は、マンガの本やテレビを見たり趣味がたくさんありました。誰かの手助けが必要です。それがないと家に閉じこもりがちになってしまいます。外に出れば出会いやつながりができ、生きる喜びが生まれます。盲ろう者を取り巻く支援の輪が広がればいいなと思っています」。
盲ろう者が普段どのように会話しているのか、様々なコミュニケーション方法も体験してもらいました。参加者は、優さんの手のひらに「はじめまして」という文字を書いていました。
インタビューに答えた参加者は「盲ろうの方とのコミュニケーションって難しいのかなと思っていたし、こんなにたくさん種類があるとは知らなかった」と話しました。また、大学生の参加者は「4月から教師になる予定なので、そのような児童に出会う機会があったら活用していけたら」と話しました。
優さんが目指すのは、誰もが自分らしく生きられる社会です。
「勉強になったと言ってくれた方もいたし、また会いましょうと言ってくれた方もいたので、今後につながると思います。盲ろう者が増えたら、交流の場を広げたいし、社会に参加できる場ができたらいいなと思います」。
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