死亡率も高い国民病「がん」 必修化された「がん教育」の目的とは? 【かけこみクリニック・テレビ派】
広島テレビ ニュース / 2024年11月13日 17時31分
日本で最も多い死因となっている『がん』は、日本人の「国民病」と言われる身近な病気であるにも関わらず、がん検診の受診率は50%未満です。外国と比べても、高い数値とは言えません。このような状況を鑑みて、令和に入って、がんに関する正しい認識を深めることを目的とした「がん教育」が必修化となりました。その教育現場を、心療内科医の長井敏弘先生と取材しました。
死亡率が高い「がん」…早期発見のために!
がんには、日本人の2人に1人は生涯のうち、1度は罹患すると言われています。実は人間の細胞の1%は、遺伝子のコピーミスで毎日がん化しています。その中で、免疫細胞の攻撃を乗り越えたものが「がん」となります。2022年にがんで亡くなった日本人はおよそ38万6000人で、4人に1人の割合となり、死亡原因の1位となっています。
がんによる死亡率を減らすには、早期発見が重要となります。厚生労働省は、がん検診の受診率を50%以上にすることを目標に、がん検診を推進しており、ほとんどの市町村では、検診の費用の多くを公費で負担しています。
しかし、検診から足が遠のいている人は多く、例えば「乳がん」の検診率は日本は45%未満です。その他のがんの検診率も50%未満で、諸外国と比べると、低水準となっています。広島県は、乳がん検診率が全国で40位でした。
検診を受けない理由として多いのは「受ける時間がない」「健康状態に自信がある」「がんであると分かるのが怖い」です。「死」に直結するイメージが強いのですが、早期発見することで完治する場合もあり、仕事を続けながら、治療を続ける患者も多くいるといいます。
このような状況から、子どものうちから「がん」に関する正しい認識を深めることを目的に、学習指導要領の改正により、小学校では令和2年度から、中学校では令和3年度から、高等学校では令和4年度から「がん教育」が保健体育の授業の中で必修化されています。
必修化された「がん教育」とは?
「がん教育」の様子を知るために、広島大学附属高等学校を訪れました。高校1年生の保健体育の授業で、黒板の前に立つのは保健体育の先生ではありません。講師を務めるのは、広島市民病院血液内科医の西森久和(にしもり・ひさかず)さんです。「がん教育」の必修化により、外部講師による出張授業を取り入れる学校もあるそうです。広大附属では、現役医師による「がん教育」授業を10月に初めて実施しました。
■広島テレビ 井上沙恵アナウンサー
「診療の中、医療の現場でも、がん教育の必要性は感じることはありますか?」
■広島市民病院血液内科医 西森久和(にしもり・ひさかず)さん
「がんの告知をする場面などでは、患者さんだけでなく、ご家族の方も一緒にお話をしますので。そういったときに、ご家族の方の理解がどれぐらい得られるか、がんの知識があるのとないのとでは、やはり大きく違いがあるように思いますので、自分もしくはご家族が「がん」になったときに、どうすればいいのか、どう考えたらいいのかを、「がん教育」を通じて考える時間を持つというのは、とても重要かなと思います。」
授業のテーマは「がんのことをもっと知ろう!」です。授業では、図やグラフを用いて「がん」についてわかりやすく解説し、ときには質問形式をとるなどしておよそ50分、生徒たちに「がん」のことを教えました。
■広島市民病院血液内科医 西森久和さん (授業中)
「仕事をしながら「がん」治療をしている方も、令和4年には50万人。「がん」は身近な病気であって、予防できる「がん」もある。けれども、100%(予防できるもの)ではないということを知って頂きたい。そして、決して偏見や誤解のないようにですね。「がん」になった人が悪いわけじゃないんですよね。規則正しい生活をして、体に気を付けている人でも、「がん」になることはあります。」
■広島テレビ 井上沙恵アナウンサー
「生徒さんにどういったことを感じてほしいですか?」
■広島市民病院血液内科医 西森久和(にしもり・ひさかず)さん
「一番はやはり、がんになった方に対しての偏見と誤解はなくして頂くこと。そこは大前提で、がんに対する正しい知識を持っていただきたい。正しい治療に進んでいただくためにも、重要なところかと思います。」
授業の最後には、生徒からの「がん」や「がん教育」についての質問に答えました。
■授業を受けた生徒は…
「この「がん教育」を通して、この後日本はがん患者は減ると思いますか?」
■広島市民病院血液内科医 西森久和(にしもり・ひさかず)さん
「がんになること自体が減るかというと、おそらくそこまで減らないかもしれません。ただ、それに対する治療は進歩していますので、できるだけ早く見つけて治療することで、がんで亡くなる方を減らしていく努力というのを、私たちはやっていく必要があると思っています。」
授業を受けた生徒たちに、感想を聞きました。
■女子生徒
「実際に現場で働いている先生から、詳しい「がん」の話を聞けて、私たち自身が正しい情報を知ることの大切さについて知れたし、また、「がん」の検診や予防の大切さが分かりました。「がん」に罹る人が減ることはあるかもしれないなと思いますが、なかなか根絶というわけにはいかないかもしれないので、私たちが「がん」とどのように関わっていくかを、考えることが大事だと思います。」
■男子生徒
「「罹ったら死んじゃう」「治せなくて一生「がん」と付き合っていく」みたいな、怖いイメージがあった。「偏見をなくしていく」というのが、印象に残りました。「「がん」にかかる人は、なんでかかるんだろう?」と思っていたが、しっかりとした健康的な生活をしてても、罹患することがあることが印象に残りました。」
■広島テレビ 井上沙恵アナウンサー
「生徒さんの反応をご覧になって、いかがでしたか?」
■広島大学附属中・高等学校 重元賢史先生
「高校生なので、ある程度「がん」のことは知ってるかなっていう前提で、今回の授業をしていただいたんですけど、そもそも「がん」の種類を言えなかった。「なんだっけ?」あれが一番良かったなって僕は思っていて。その中で、生徒がどんなことを考えていくか。そういう部分で言うと、本当に有意義な時間だったかなと思います。」
■広島市民病院血液内科医 西森久和(にしもり・ひさかず)さん
「2人に1人が「がん」になる時代になっていますので、どうしても避けて通れないところかと思います。きちんと正しい知識を持っていただくこと。そして「がん」になっても、幸せに生きていけるための社会を作っていくことが、とても重要だと思います。」
「がん」を正しく理解し、検診に行こう!
文部科学省では、外部講師を活用した授業の取り入れを推奨していますが、導入しているのは一部の学校のみです。しかし「がん教育」は、どの学校でも必修化されています。文部科学省が提示する「がん教育の目標」は、「がんについて正しく理解することができるようにする」「健康と命の大切さについて主体的に考えることができるようにする」となっています。
■心療内科医 長井敏弘先生
「男性の前立腺がん、女性の乳がんなどは、早期発見であれば「98~99%で5年の生存率」と言われています。がん検診に「怖いから行かない」のではなく、まず行ってください。ほとんどの場合はよくなると思ってください。しかし、見つけにくい「がん」もあります。だからこそ、検診に行くべきです。医学は進歩していますので、「がん」は治りつつあります。」
また、長井先生は「がん教育を受けた子どもたちが、両親に教えることも大事」と、話していました。西森先生は授業の中で、広島県民の私たちが「がん」のことを知るうえで、おすすめの情報サイトとして「広島がんネット」を挙げていました。「がん」の基礎知識や検診の受け方など、知っておきたい内容を一度に見ることができます。ぜひ活用してください。
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