『猿の惑星』監督、“良い悪役の極意”を語る 「ただ“悪”を追求するだけでは面白くない」
クランクイン! / 2024年5月11日 7時0分
1968年に第1作目が公開され、長く愛されてきた映画『猿の惑星』シリーズ。その歴史は『スター・ウォーズ』や『エイリアン』よりも長く、時代ごとに新しいファンを生み出してきた。そんなシリーズに新たな始まりを告げる完全新作『猿の惑星/キングダム』が現在公開中。企画が立ち上がった理由から、本作の魅力的な悪役であるプロキシマス・シーザー(ケヴィン・デュランド)への思い、撮影やVFXの裏側まで、来日したウェス・ボール監督に話を聞いた。
■猿を描いているが「人間の物語」
本作の舞台は現在から300年後の世界。そこでは猿が圧倒的な進化を遂げる一方で、かつてこの惑星の支配者だった人間は退化し、動物のように猿たちから隠れて暮らしていた。そんな中、この惑星の命運を大きく変える可能性を持つ人間が出現する。彼女の名前はノヴァ(フレイヤ・アーラン)。彼女と出会った猿のノア(オーウェン・ティーグ)は、ノヴァと共に、巨大な帝国を築くことをもくろむ独裁者プロキシマス・シーザーに立ち向かう。
ーー2019年に本作の制作が発表されましたが、監督の元へオファーがいったのがいつ頃で、どのくらいまで企画が固まっていたのでしょうか?
ボール:5年前くらいで、何もない段階から始めました。スタジオから「『猿の惑星』の次の監督をするとしたらどうする?」とだけ聞かれたので、最初はちゅうちょしてしまったんです。語るべきストーリーがまだあるのか分からなかったし、『猿の惑星:創世記』から始まる3部作のパート4を作ることには興味がなかった。作る理由がなければ嫌でした。それから、このストーリーが生まれてからは、作品が自立していて存在するべき理由もあったので、みんなで前を向いて取り組んでいきました。
ーー企画が立ち上がってから撮影に入るまでの間は、コロナ禍でした。作品に影響は出ましたか?
ボール:脚本を書き始めたのがコロナの前でした。なのでウイルスが世界を変えてしまうという脚本を書いているのはすごい感覚でしたね。
ーーコロナ禍だったからこそ、ブラッシュアップなど、作品とじっくり向き合う期間ができたということはありましたか?
ボール:ブラッシュアップどころか、当時はまずこれからどういうストーリーにしていこうかと話している段階だったんです。僕からするとクレイジーなアイデアもある中で、それを脚本家のジョシュ・フリードマンがうまく1つの物語としてまとめてくれた。でもそれがすごく長尺で、その後に圧縮する作業に入りました。最終段階では予算が足りなくて泣く泣くカットしたシーンもあって。「作ると60億円くらいかかるよ」と言われたんです。あれができると最高だったんだけどなぁ。でもそのあたりは通常の映画製作と同じでしたね。
ーー見てみたかったです! 個人的には悪役のプロキシマス・シーザーが好きで。完全な悪ではなく、どこか納得してしまう思想を持っていました。
ボール:『猿の惑星』は猿を描いてはいるけれど、人間の物語です。人間というのは矛盾だらけでグレーな部分がたくさんあり、僕はそこに興味がありました。また、そういった点が多いと、キャラクターとしても面白くなります。プロキシマスの場合、彼の発言に「一理ある」と思う人も多いのではないでしょうか。最後の方になると彼は良くないことをするから、結局ノアを応援してしまうんだけど…(笑)。魅力的なキャラクターになったのは、演じてくれたケヴィンのおかげもあります。本当に楽しみながら向き合ってくれました。
ーーその一方で、プロキシマス・シーザーが支持するシーザーの存在を、あまり本作では描いていませんでしたね。
ボール:『猿の惑星:創世記』から始まる3部作を見ている人は、シーザー(アンディ・サーキス)の存在を知っているから、それが残っているといいなと思っています。また本シリーズは神話であり世界観が大きいので、全部入れられなかったというのもあります。本作は意識的にノアの視点から描いているんです。なので観客は、ノア経由で、ラカ(ピーター・メイコン)やプロキシマス・シーザーから聞いた話としてシーザーを知ることになります。
ーー少し話が逸れるのですが、監督は『僕のヒーローアカデミア』がお好きでそうで。『ヒロアカ』も敵(ヴィラン)が魅力的で、傑作には魅力的な悪役が多く存在します。監督が思う「良い悪役」とはなんでしょうか?
ボール:良い質問ですね。なんだろう。クールで皮肉で興味深い部分があって、共感できる何かを持っている。ただ“悪”を追求するだけでは面白くないですよね。やっぱり何かを達成しようというゴールも必要だと思っています。
ーーありがとうございます。ここからは撮影の話を。本作は、ほとんどがロケかセットを作成しての撮影だったとか。バーチャルプロダクションという選択肢もあったと思いますが、リアルにこだわった理由はなんでしょうか?
■『猿の惑星/キングダム』に込めた思い
ボール:リアルのロケ地にいるのが好きなんです。現実のものがそこにあることが、撮影部や役者、僕の助けになります。指の間に土が入ったり、日が落ちるから早く撮らなきゃいけなかったりと、ロケーション撮影をすることでエネルギーが生まれるんです。バーチャルな映画だからこそリアルに感じてもらうことがすごく大切でした。35分間くらいは100%CGIを使ったシーンもあるのですが、それに全く気付かないくらい没入して見てほしいなと思っています。虫や草、木々も全部CGIだったシーンもあるんですよ。
ーー全く気付かなかったです(笑)。豊かな自然が登場する一方で、人工物であるショッピングモールのシーンもワクワクしました。
ボール:人間界の残滓(ざんし)が朽ちていき、今の世界のどこか美しい風景になっている。でもそんな中で、当時の記憶を感じるような不思議さや怖さもあるシーンでしたね。
ーー『猿の惑星:新世紀(ライジング)』の戦車から360度見渡すシーンは、マット・リーヴス監督のOKが出るまで、1030ものバージョンを重ねたとか。本作でもそれくらいの修正を重ねたのでしょうか?
ボール:カットによっては完成まで1年かかっているものもあります。撮影から作業を重ねていくごとにバージョンの番号が更新されていくので、どれくらいの番号にまでなったかは覚えていないけれど、1000を超えることもあったかもしれません。僕から差し戻しを繰り返したと言うよりかは、完成までの作業を踏まえるとそれくらいの数字にはなり得ます。
ーー猿たちの目がとても印象的で、役者さんの演技はもちろんのこと、どの程度光を入れるかなどVFXの力を感じさせる部分でした。
ボール:とてもこだわったところなのでうれしいです。猿たちの目はCGIでできています。撮影の時に実際に役者の目にどういった光が当たっていたかや細かい動きをCGIで再現するんです。
ーーアナヤの目が特に好きでした。
ボール:アナヤは気に入ってくれた方がとても多いです。でも不思議なことに、今回の作品では皆さんが好きなキャラクターが分かれていました。いろんな人がいろんなキャラクターを好きになってくれたんですよね。
ーーきっと選べないでしょうけど監督は…?
ボール:そうですね(笑)。あえて選ぶならノアかな。
ーーありがとうございます。本作はとても続きが気になる終わり方をします。現実の問題を考えさせる『猿の惑星』シリーズにおいて、監督が2024年の今に公開されるからこそ込めたかった思いはありますか?
ボール:ファンタジーではあるけれども、真実とは何なのか、自分と意見が違う人とどういう風に接したら良いのか、また技術への依存など現実的な問題を反映している作品でもあります。面白い映画や素晴らしい映画は、考えさせてくれるものだと思っているので、そういった部分も観客たちには響いてほしいです。
(取材・文・写真:阿部桜子)
映画『猿の惑星/キングダム』は現在公開中。
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