奥田瑛二、変わらない色気の秘密「モテるとか色気があるというのは決して見た目じゃない」
クランクイン! / 2024年6月1日 7時0分
映画『かくしごと』で、杏と父娘役として共演した奥田瑛二。74歳となった今もなお精力的に映画作りに情熱を注いでいる彼は、ビシッとスーツを着こなした姿もダンディそのもの。劇中では、認知症となった男の戸惑いや孤独までを見事に体現し、唸るような役者としてのすごみを見せている。奥田が、本作で難役にチャレンジした理由。映画界で活躍する娘の安藤桃子&安藤サクラへの想いや、「まだ進化し続ける」といつまでも輝きを失わない“色気の秘密”までを語った。
◆認知症の父親役に「困難であればあるほど、チャレンジしたくなる」
『生きてるだけで、愛。』(2018)で長編監督デビューした映像クリエイター・関根光才の長編第二作となる本作。父の孝蔵(奥田)が認知症を患ったことをきっかけに渋々田舎に帰った千紗子(杏)が、事故で記憶を失ってしまった少年を助けるが、その体に虐待の痕を見つけたことから、彼を必死に守ろうとする姿を描く。
奥田が演じたのは、認知症が進行して娘のことさえ忘れてしまった孝蔵役。背筋をピンと伸ばし、朗らかな笑顔でインタビューに現れた奥田とは、まったく違う佇まいをした男がスクリーンに登場する。奥田は孝蔵役のオファーが舞い込み、「やるべきだ」と強く感じたという。
認知症や子どもへの虐待など、家族の問題を真摯に見つめた映画となるが、奥田は「この年齢になると、家族や身近な人、そして社会とどのように関わっていくのか。社会で起きる出来事にどのように対処するのか、というテーマを捉えた作品に参加したいという強い願望が生まれた」と切り出し、加えて「ここ10年は、上から目線で話したり、地位のある役柄ではなく、自分が心から溶け込んでできるような作品を待っていたんです。今回のお話は、親子の話を描きつつ、子どもが抱えている問題やそれぞれが背負っている日常をしっかりと捉えた内容で、僕がここ10年、考えてきた想いにぴったりとハマるような作品だった。プロデューサーと監督の話を聞いても、作品に対する真摯な気持ちがひしひしと伝わってきた」と、本作は奥田が望んでいたような作品だったと話す。
「ただ『やるぞ』と決めたとしても、難しいのは認知症の役柄であるということ」と難役であったことには間違いない。奥田は「とても難しい役だと思った。でも困難であればあるほど、難しければ難しいほど、チャレンジしたくなって」とニッコリ。クランクインまでにはあらゆる準備を試みたそうで、グループホームを訪ねて実際に認知症の人々とコミュニケーションを取りながら、研究を重ねた。「うちのカミさんの安藤和津さんのお母さんも、13年間くらい認知症を患っていました。ただ出自や環境が違えば、それぞれの居ずまいも変わってくる。いろいろなリサーチをしました」と全身全霊を傾けたが、そこには「“自分は孝蔵である、孝蔵は奥田瑛二である”ということをきちんと獲得して、責任を持ってクランクインしなければいけない」という覚悟がみなぎっている。
「せっかく杏さん演じるすばらしい主人公がいるのだから、僕が作品を壊すわけにはいかない。そしておそらく観客の中にも、『私の父、母も認知症でした。介護をしていました』という方がたくさんいると思います。また『自分はまだ介護を経験していないけれど、もしそうなったらどうするんだろう』『自分が年をとってそうなった時に、子どもたちはどうするだろう』と考えている方もいるでしょう。そういった方たちが本作を観て、なにかを持ち帰れる映画にできるか。僕は、俳優もそういったところまで含めて責任を持たなければいけないと思っています。だからこそ、血、骨、肉まで孝蔵になろうという想いで、作品に臨みました」と俳優としての姿勢を明かす。
◆娘たちへ受け継がれる、映画界のバトン
どんな言葉からも、映画人として作品に並々ならぬ情熱を注いでいることが伝わってくる。50歳を迎えた2001年には、連城三紀彦の同名小説を映画化した『少女~an adolescent』で映画監督デビューも果たした奥田。「チャレンジを超えた冒険心を持って、映画監督、俳優業に臨んでいます」という彼は、「俳優としても監督としても、若い人たちを育てていきたいと思っている」と次の世代の背中を押したいと語る。
「奥田組のスタッフは、『照明やカメラマン、録音、助監督など、みんなその後に一人前になっていく人が多い組だ』と言われることもあって。僕自身、いろいろな想いを彼らに繋いでいきたいと思っています。その中の典型的とも言えるのが、安藤桃子」と映画『0.5ミリ』を監督して高い評価を受け、今は高知県での映画祭を開催するなど映画を中心とした文化を発信している長女について言及。「彼女はこれからも映画に果敢にチャレンジして、すごいことをやるんじゃないかと思っています。僕も何か尋ねられたら、惜しげもなく意見を言って、見守っていきたいという想いがどんどん強くなっています」と目を細める。
また次女、安藤サクラは俳優として活躍中だ。奥田の意志を受け継ぐように、2人の娘が映画界で躍進していることに「やっぱりそれは喜びですよ。言わずもがなで」と照れ笑い。「『0.5ミリ』では、桃子が監督、サクラが主演を務めました。そこで桃子は監督賞や脚本賞、サクラも主演女優賞をいただいて、そんな時に知り合いに会うと『奥田さん、鳶が鷹を生みましたね』なんて言われたりして!(笑) 『なるほど』なんて思って、すごくうれしかったですね。でも翌年にもまたサクラがいろいろと賞をいただいて、これは何かうまく切り返さなければと思って。『鳶が鷹を生みましたね』と声をかけられた時に、『鷹は鷹しか生みません。鳶は鳶しか生みません』と言ってみたわけ。そうしたらみんな大笑いでしたね!(笑) そういった意味でも、我が家の環境を見渡してみると、濃いですよね。義理の息子も含め、濃い。デミグラスソースと八丁味噌が混ざり合ったみたい」と個性的な才能が集まった家族を思い浮かべて、楽しそうに笑う。
◆色気の秘密「モテるとか色気があるというのは決して見た目じゃない」
奥田はインタビュー部屋でも周囲に気さくに話しかけ、一瞬にしてその場の緊張をほぐしてしまう。仕事への熱意を力強く話す一方、しばしばのぞかせるチャーミングな笑顔も印象的だ。ドラマ『不適切にもほどがある!』では、吉田羊演じるサカエが80年代に一世風靡をした『金曜日の妻たちへIII 恋におちて』に出演している30代の頃の奥田の色気に「ざわわ」とする場面があったが、今なおその色気は健在。色気の秘密について聞いてみると、「それはね…、言うよ?」と切り出した奥田は、「生まれつきなんだよ」とニヤリ。
周囲が大笑いとなる中、「以前、ある主演女優と若い俳優が、色気についての話をしていて。僕はその近くでコーヒーを飲んでいたんだけれど、その女優さんが若い俳優に向かって『あなたたちは顔がいいだけ。何も匂ってこない』と。そしてスッと立って僕のところにやってきて、フーッと匂いを嗅いで『すばらしい…』って言ったんだよ(笑)」と逸話を披露して、さらにその場を沸かせた奥田。
まさに匂い立つような色気があるということが実証されたひと幕だが、「色気を出そうとは思っていない」と続けつつ、「モテるとか、色気があるというのは、決して見た目じゃないんだ。知らず知らずのうちに“オスであり続けている男”というのは、本当にモテる! 今の時代、“オス”が少なくなっているのかもしれないね。それは物心ついた時から持っているものだけれど、みんな“オス”の力が退化していっている気がします。文化の力や、自然の空気を感じ取って、想像力豊かな感性を持っている人は、知的かつ、“オス”でいられると思う」と持論を展開し、「僕はまだ進化し続けるよ」と笑顔で宣言した。映画人として、男として、前進し続ける彼から目が離せない。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『かくしごと』は、6月7日より全国公開。
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