2024年上半期ドラマ 魅力的だった俳優は?
クランクイン! / 2024年6月29日 8時0分
2024年も間もなく上半期が終了。1月期、4月期に放送されたドラマも最終回を迎えた。ここでは上半期に放送されたドラマの中から、強い印象を与えてくれた俳優たちを振り返る。
■阿部サダヲ『不適切にもほどがある!』
2024年1月期にTBS系金曜ドラマで放送された本作。脚本を務めた宮藤官九郎と阿部は「大人計画」や、バンド「グループ魂」で時間を共にするなど盟友と言ってもいい存在だが、民放ドラマで主演、脚本家としてタッグを組むのは初。しかし、阿部の真骨頂と言える緩急の効いた芝居を存分に活かせる脚本には舌を巻いた。
阿部が演じるのは、昭和を生き“地獄のオガワ”と異名を持つコンプライアンス無視の体育教師・小川市郎。なぜかタイムスリップして令和にやってくると、言いたい放題、やりたい放題。令和の若者の口をあんぐりとさせるような演技で物語を引っ張る。
阿部と宮藤と言えば『池袋ウエストゲートパーク』の浜口巡査や、『木更津キャツアイ』の猫田など、作品をかき回すようなキャラクターで躍動していたが、今回は主演。自身が物語の中心として進むストーリーで、どこまで無茶ができるか、阿部自身もインタビューでは「チャレンジ」と捉えていたが、大胆で枠をはみ出すような芝居をしつつ、しっかりとハートフルに演じ切った。宮藤脚本の魅力である笑いとセンチメンタルの融合を体現できるのは、やはり「阿部サダヲ!」と思わせてくれる圧倒的な芝居だった。
■北村匠海『アンチヒーロー』
2024年4月期にTBSの日曜劇場で放送された本作。4人の脚本家が緻密(ちみつ)に作り上げた法廷劇で、北村は、長谷川博己ふんする主人公の弁護士・明墨正樹の法律事務所にやってくる若手弁護士・赤峰柊斗を演じている。
本作は壮大なる伏線が張られたミステリー作品として先の読めない展開が注目を集めていたが、そんな不明瞭なストーリーのなか、赤峰は唯一と言っていいほど、自身の思う正義にまい進する。視聴者にとっては彼の視点で物語を見ることで、難解なストーリーに感情移入できる。
その意味で非常に難しい役柄であるが、彼の考える正義に向かっていく清廉さ、そして“濁”を葛藤しながら心に入れて変化していく姿は、物語のもう一つの醍醐味(だいごみ)でもある。
そんな難役を北村は正面から正攻法で演じ切った。特にラスト、“アンチヒーロー”を受け継ぐのか、受け継がないのか…というスリリングなシーンで見せた目力は、非常に印象的だった。北村が常日頃から「とても大切な作品」と話している『鈴木先生』(テレビ東京系)で、先生と生徒役で対峙(たいじ)した長谷川とがっつりと共演するというのも、非常にエモーショナルな趣を与えてくれた。
■竹内涼真『Believe−君にかける橋−』
2024年4月期にテレビ朝日系で開局65周年記念ドラマとして放送された本作。竹内は、木村拓哉ふんする帝和建設・土木設計部部長・狩山陸を捜査する警視庁刑事部捜査第一課刑事・黒木正興を演じている。
劇中、黒木はサングラスをかけ、不敵な笑みを浮かべながらも、感情を見せずに狩山の身辺を洗う刑事を演じている。物語が進むにつれ、黒木の兄が狩山と共に龍神大橋の建設に携わっていた若松だったことや、事故の裏に隠された事実が明らかになり、黒木の立ち位置も変化を見せる。
竹内と言えば、特撮ドラマ『仮面ライダードライブ』の主人公をはじめ、長期シリーズとなった『君と世界が終わる日に』の主人公・間宮響のような逆境を乗り越えるヒーロー然とした役柄を演じることが多かったが、本作では、ある意味で得体の知れない“曲者”として登場する。
主人公である狩山にとって敵なのか味方なのか分からないという曖昧なキャラクター。こうした立ち位置を演じる俳優というのは、出てくるだけで「悪人!」と分かるキャラクターよりも、しっかりとした演技力が求められる。そんななか、竹内は物語後半まで、攻め過ぎず、引き過ぎず、どちらにもとれるようなさじ加減で視聴者を翻弄(ほんろう)し、作品に奥行きを与える演技を見せてくれた。30代になり、新たな“竹内涼真”を想像させる作品になりそうだ。(文:磯部正和)
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