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『スクラッパー』監督が語る“主演子役”のキュートな素顔 話を聞きたくない時は「補聴器をオフに(笑)」

クランクイン! / 2024年7月5日 8時0分

(左から)シャーロット・リーガン監督、主演のローラ・キャンベル 映画『SCRAPPER/スクラッパー』メイキング

 若手映画監督の登竜門、サンダンス映画祭で絶賛された話題作『SCRAPPER/スクラッパー』が5日からいよいよ劇場公開となる。メガホンをとるのは、10代の頃から映像の世界に携わり、これまで100本以上のミュージックビデオを手掛ける傍ら、パパラッチカメラマンとしても活動していた新鋭シャーロット・リーガン監督。貧しいコミュニティーで育った自らの経験を反映したという本作への熱い思い、スクリーンデビューながら主演を務めたローラ・キャンベルとのエピソード、さらには不幸な子どもたちを多く抱えるイギリス社会の現状について話を聞いた。

■貧しい子ども時代の実体験を作品に反映

<あらすじ>母との思い出が詰まった居場所を守るため、アパートで独り暮らしをしている少女ジョージー(ローラ)。大人顔負けの話術と図太さで、近隣住人やソーシャルワーカーの介入、詮索をかわし、親友アリ(アリ・ウズン)と共に盗んだ自転車の売買で日銭を稼ぎながらたくましく生き抜いていた。 そんな彼女のもとにある日突然、父を名乗る金髪の男ジェイソン(ハリス・ディキンソン)が現れる。母を捨てて育児から逃げた彼を許せず、拒絶するジョージー。信頼関係ゼロの二人は、ぶつかり合いながらも同じ屋根の下で暮らし始めるが…。

――本作はあなたにとって長編監督デビュー作となりますが、ワーキングクラスの問題を題材にしようと思ったのはなぜですか?

シャーロット・リーガン(以下、リーガン):私自身、主人公のジョージーと似たような貧しいコミュニティーで子ども時代を過ごしてきたので、その時に体験したことや感じたことをかねてから映画にしたいと思っていました。

――この企画を映画化するために、リーガン監督ご自身がいろんなところに働きかけたのでしょうか。

リーガン:映画を作りたいと思い始めた頃、実にタイミングよくBBCから声をかけていただきました。これまでミュージックビデオを100本以上、ショートフィルムを20本以上作ってきましたが、私の作品を高く評価してくださり、「そろそろ長編映画に挑戦しては?」と背中を押してくれたんです。その後、BBCのサポートを受けながら、イギリスの助成金システムを活用してこのプロジェクトを立ち上げました。ただ、近親者の不幸が重なり、脚本を書き上げるのに4年もかかってしまいました。

――ジョージー役のローラの演技が素晴らしかったですね。ロンドン映画批評家協会賞で若手俳優賞を受賞したほか多数の俳優賞にノミネートされました。オーディションで選ばれたそうですが、彼女を選んだポイントを教えてください。

リーガン:ローラはオーディション当時、まだ10歳でしたが、TikTok世代で、普段はSNS上で有名な映画のワンシーンを再現したり、俳優の動きをまねたり、独自のパフォーマンスを配信している女の子でした。質問したことにちゃんと答えてくれないちょっと変わった子でしたが、いざカメラで撮ってみると、私もプロデューサーも顔を見合わせて思わず歓喜しました、「ジョージー役は彼女しかいない!」と。ところがローラは、すぐに「イエス」とは言ってくれなかったんです。これは後々分かるのですが、ローラは人を見る目が非常に厳しく、本当に信用できる人としか関わらないところがあるんです。ですから、彼女の家に何度も足を運び、信頼関係を少しずつ築いていって、ようやくOKをもらえたという感じです。

――実際に撮影してみて、ローラは期待通りの演技を見せてくれましたか?

リーガン:ローラの個性を生かすために、脚本上ではあえてキャラクターをゆるく設定し、彼女の感性に合わせてどんどんプランを変えていく手法をとりました。ただ、撮影初日は大変でした。父親のジェイソン(ハリス・ディキンソン)が残したボイスメッセージを聞きながら、いろんな思い出がフラッシュバックする大切なシーンをいきなり撮ることになったのですが、ローラは前日のリハーサルにも参加せず、このまま演じてくれないんじゃないかとドキドキしていたんです。ところが撮影当日、姿を現した彼女は完璧に準備ができていて、私たちの想像を遥かに超える素晴らしい演技を披露してくれました。子どもらしいマイペースぶりに不安にもなりましたが、彼女なりに緊張していたんでしょうね、この日を境に何かが解き放たれたように素直になり、その後の撮影はとてもスムーズに進めることができました。

――ちなみに補聴器がちょっと気になったんですが、何か意図があったのでしょうか?

■犯罪に手を出す子どもたち…全ては生き残るため

リーガン:あれはローラがしていた補聴器でジョージーというキャラクターのために用意したものではありません。耳に障がいを持つローラにとって体の一部なので、特に説明もせずありのままの姿を映し出しました。ただ、私たちが何か細かいことを言っても、聞きたくない時には補聴器をオフにするので、これには困りました(笑)。

――12歳の少女が抱える喪失感がとてもリアルににじみ出ていたと思います。大人びているけれど、時折見せる子どもっぽさ…このコントラストに胸がしめつけられました。

リーガン:この映画を撮る2年前、両親や家、コミュニティーなどいろんなものを失った子どもたちの姿を捉えたドキュメンタリーを撮ったんですが、彼らと対峙(たいじ)した時に感じた喪失感をジョージーに反映させました。おっしゃるように、大人びてはいるけれど、まだ12歳の子ども。「自分で自分を成長させなければ生き残れない」という自立心がある反面、まだまだ魔法を信じる子どもでいたい、という気持ちもどこかにあるはず。天国の母親につながる秘密の部屋は、それを象徴する場所。唯一、ジョージーが自分の気持ちに正直にいられる場所なんです。

――イギリスには、このような生活を強いられている子どもたちが大勢いるのでしょうか?

リーガン:たくさんいると思います。親がいない子どももいますが、親がいてもその役割を放棄し、子どもの面倒をちゃんと見ていない、というケースもあります。ジョージーの場合、父親のジェイソンがいますが、その両方に当てはまります。ジョージーが生まれた当時、大人になりきれてなかったジェイソンは、親になる準備ができておらず、家族を置いて出て行ってしまった。その後、母親が病気で他界し、独りぼっちになってしまったジョージーは、生き延びるための手段を考えなければならないわけです。本作では、自転車を盗んで闇業者に売るという場面が描かれていますが、これは、あくまでもポジティブに描いたシーン。自転車泥棒は悪いことではありますが、状況が変われば立ち直れるチャンスがある…。なかには麻薬の売人になってしまう子もいますから。子どもたちがなんとか命をつなげようとして犯罪に手を染める…そこにはやむにやまれぬ生活苦があることも知っておいてほしいですね。

 実体験を基に、かつてないアプローチでイギリスのワーキングクラスの本質に迫った映画『SCRAPPER/スクラッパー』。本作でついに長編映画監督デビューを飾ったリーガンは、「今後もっともっと映画に携わって、自分なりのメッセージを発信していけたら」と目を輝かせる。「夢は『オッペンハイマー』のような作品を作ること」。新たな才能のさらなる飛躍に大いに期待したい。

(取材・文:坂田正樹)

 映画『SCRAPPER/スクラッパー』は全国公開中。

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