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第76回カンヌ唯一のロシア映画『グレース』、ティザーポスター&特報映像解禁 10.19公開

クランクイン! / 2024年7月9日 17時0分

映画『グレース』ティザーポスタービジュアル

 第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出されたロシア映画『Grace(原題:Блажь)』が、邦題『グレース』として、10月19日より全国順次公開されることが決定。ティザーポスターと特報映像が解禁された。

 本作は、“ロシア映画”を締め出す世界的な動きが強まる中、2023年のカンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同映画祭で上映された唯一のロシア映画として大きな反響を呼んだロードムービー。息が詰まるような停滞感に覆われたロシア辺境を舞台に、キャンピングカーで旅をしながら移動映画館で日銭を稼ぐ父と、思春期の不安を抱える娘の成長譚を描く。

 ロシア南西部の辺境、乾いた風が吹きつけるコーカサスの険しい山道。無愛想な目をした10代半ばの娘と寡黙な父親は、錆びた赤いキャンピングカーで旅をしながら移動映画館で日銭を稼いでいる。母親の不在が2人の関係に影を落とし、車内には重苦しい沈黙が漂っている。父親への反発、思春期の戸惑い、そして終わりの見えない旅路。彼女が漂流する先には、一体何が待ち受けているのだろうか。

 果てのない荒涼とした外部の風景と、狭苦しい車の内部を、それぞれ完璧なフレーミングと⻑回しで切り取る空間設計は圧巻。灰色と深緑の荒い粒子が印象的な16mmのフィルムには、荒廃した風景が写りつつも、娘が着る衣服の明るさを際立たせるなど、全編を通して陰鬱さの中にも不思議な暖かさが宿っている。アンドレイ・タルコフスキーをはじめとする偉大なロシアの先人たちや、ヴィム・ヴェンダース初期作のような雰囲気を漂わせながら、ロシア辺境の大地と人々を独自の感性で描写した。

 監督・脚本を手掛けたのは、ロシアのドキュメンタリー出身の新鋭イリヤ・ポヴォロツキー。ポヴォロツキー自身は、カンヌ国際映画祭の会見でも言及しているように、ロシアによるウクライナ侵攻と政府の方針に対して明確に反対している。リベラルな表現者を自認する彼の関心は、ロシア周縁の人々の暮らしと尊厳を映像の力によって美しく厳かに描き出すことにあり、その確固たる姿勢は初めてのフィクション映画となった本作にも現れている。

 本作が撮影されたのは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する少し前の2021年秋である。意図的には描かれないものの、徐々に不穏と暴力がその映像の粒子に侵食していくようなこの映画から、現在も続く戦争の影を感じることは避けられないだろう。すでに何かを諦めてしまったような表情を浮かべる娘は、この国の行く末、そのただならぬ気配を感じていたのだろうか。

 母親も友人もいない。自分を守る家も法もない。生ぬるい共感や哀れみに一切なびくことなく、彼女はただやり場のない感情を沸々と溜め込んでいく。この果ての無い放浪の先に、彼女を救うものはあるのだろうか。剥き出しのロシアの大地を舞台にした小さくも揺るぎない抵抗の軌跡は、私たちにあっけないほど美しい余韻を残すだろう。

 映画『グレース』は、10月19日より全国順次公開。

※欧米メディアのレビューは以下の通り。

<欧米メディアのレビュー>

■International Cinephile Society

近年で最も衝撃的な長編デビュー作のひとつ。

■Telerama

ヴィム・ヴェンダース初期作のような哀愁の旅。

■Cahiers du Cinema

タルコフスキーを彷彿とさせる映像美。

■International Cinephile Society

気難しく荒涼とし、強烈なメランコリアが染み込んだまさにロシア映画と呼びたくなる作品。

■Le Monde

眩いダイヤの原石のような映画。スクリーンの全領域を捉え、かつてないほどそこに確かに存在し、見る者の眼差しを若返らせる。

■International Cinephile Society

スローシネマの力と広大な風景をテーマに構成された、集団的体験としての映画への賛美。

■Caiman Cuadernos de Cine

疎外され、暴力的で、泥沼化し、漂流する現代ロシアの肖像。

■Screen Daily

世代間の緊張と青春の物語を独創的に描いた傑作。

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