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“地味”なのに「生涯ベスト」になる人続出! 『夜明けのすべて』松村北斗&上白石萌音が織りなす魅力とは

クランクイン! / 2024年8月3日 7時0分

『夜明けのすべて』

 松村北斗と上白石萌音がW主演を務める映画『夜明けのすべて』。PMS(月経前症候群)に悩む藤沢さん(上白石)とパニック障害を抱える山添くん(松村)がお互いを支え合いながら生きる日常を映す本作には、誰かが突然死んだり、雨の中で愛を叫んだり、とにかくそういった大きな事件は何一つ起こらない。言葉を選ばずに言えば“地味”。しかし、SNSでは「生涯ベスト級」「人生最推し映画」と絶賛の声が並び、公開直後の週末観客動員数では4位に。映画館に何度も足を運んだという人も少なくない。なぜ『夜明けのすべて』は観た者を惹きつけるのか。ここでは主演2人にフォーカスしながら、その訳を紐解いてみたい。

■恋も友情もない、絶妙すぎる“距離感”


 『そして、バトンは渡された』で2019年本屋大賞を受賞した小説家・瀬尾まいこの原作小説を、『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱が映画化した本作。月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢美紗は、転職してきたばかりにもかかわらず、やる気がなさそうに見える同僚・山添孝俊の小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。しかし実は山添がパニック障害を患い、さまざまなことをあきらめて、生きがいも気力も失っていることを知る。

 昨今、映画にテレビドラマ、そして配信コンテンツと、エンタメに溺れそうな毎日を過ごす我々はいつしか、男女が出てきたら“恋愛待ち”してしまうようなところはないだろうか。筆者も本作を視聴しつつ、2人の距離が縮まりそうになるたび「お、これは恋愛フラグか?」という思いが下世話にも何度か頭をよぎった。しかし作中で山添くんが「男女の友情が成立するかどうかって、どうでもいい話をする人がよくいますよね」というセリフを放ったように、本作には恋も友情もない。ただ、藤沢さんと山添くんという2人でしか生まれなかった関係、いうなれば“同志”とでも言うべきか、そんな関係性が築かれていくのだ。

 パニック障害の発作を起こした山添くんに、自身はPMSを抱えていることを藤沢さんが打ち明けるシーンがある。藤沢さんからすれば、「私も生きづらいよ、君の気持ち分かるよ」と伝えたかったのかもしれないが、山添くんにはパニック障害とPMSに共通する部分があるとは思えず、2人の距離が縮まることはなかった。これは仕方のないことだと思う。見えないし感じられないことを理解するのは非常に難しいからだ。そもそも、生理の不調は千差万別。女性だって、他人の生理の悩みを理解するのは難しい。ましてや生理のない男性に理解してもらうのは無理難題だと言えよう。また一方で、パニック障害もその症状は千差万別。見た目で分かる病気ではないし、自分自身にすらいつ発作が起きるかはっきり分からなかったりする。きっと藤沢さんも、山添くんの本当の辛さは理解できていなかったはずだ。

 しかし、2人は分かり合えない部分がありながらも、徐々にお互いを補い合うような関係性を築いていく。パニック障害のため美容院に行けない山添くんの髪を藤沢さんが切ってあげたり、PMSでイライラがあふれそうになる藤沢さんを山添くんがその場からそっと連れ出したり。時にはただ何となく同じ部屋で過ごしたり。お互いがお互いにとって、ちょっと疲れたときに腰掛けることができるベンチのような存在になっていく。別にすごく仲が良くなるわけでもないし、病気を治してくれるわけでもないけれど、しんどい時に寄りかかれる存在。寄りかかられた方は頭をなでるでも抱きしめるでもなく、ただ相手を支える。そんな絶妙な距離感に、胸がいっぱいになる。

■そこに“いる”としか思えない藤沢さんと山添くん


 PMSの症状について、誰しも完全には理解できないと前述したが、上白石萌音演じる藤沢さんのPMSによる苛立ちは、なんとなく身に覚えのあるもので、心が苦しくなる。普段なら気にならないところが急に目につく。イライラしすぎて涙が出てくる。言いたくないのに酷い言葉が口をついて出てしまう。そんな姿を見ていてあまりに苦しく、そして上白石の表現力に改めて驚かされた。藤沢さんは確実にそこに“いる”と感じさせられた。

 そして、パニック障害を抱えた山添くん。今働いている小さな会社「栗田科学」での彼は、不愛想でなんか職務態度も悪いし、みんなでの食事も来ない。その真意は、突然発症したらしいパニック障害によって以前働いていた職場を辞することになった悔しさや、歩んできた人生の道を外れてしまったことによる絶望感。そしてなんとなく、もう前の自分には戻れないのではというあきらめを感じている。パニック障害になる前、彼はどんな人間だったのだろう。松村北斗は、病気が山添くんという人間を変えてしまった部分、元々彼が持っていた部分それぞれに思いを馳せさせてくれた。

 NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦役を演じた上白石と松村の再びの共演ということで、期待を抱いた人も多いと思う。『夜明けのすべて』での2人は、良い意味で以前の共演を感じさせず、もっと言えば「上白石萌音」「松村北斗」であることすら感じさせない。ただただ、「藤沢さん」「山添くん」として存在していた。2人の表現力があってこそ、本作はここまで輝いたのだということは言うまでもない。

■『夜明けのすべて』から得られる“純度の高い優しさ”

 「すべて理解することはできない」ということを理解していく2人が、“できる範囲で”支え合う。そんな、あまりにも尊く絶妙な距離感から生み出されるのは、圧倒的で純粋な優しさだ。知ろうとするのも、必要以上に知ろうとしないのも、どちらも優しさだと思う。優しくすることで何かを返してほしいと思うわけでもない。そして藤沢さんと山添くんが優しくあれるのは、2人の周囲にも優しさがあふれているからだ。同僚たちや家族、友人……2人の周りには、2人自身が気づいていないかもしれないものも含めてさまざまな優しさが存在していた。本作の感想やレビューには「優しい気持ちになれた」という言葉がたびたび見られる。これこそが『夜明けのすべて』の魅力なのだと思う。あまりに純粋で美しく、そしてリアルな優しさを、観た者が受け取ることができる。その体験はきっと、誰しも人生の宝物になるだろう。(文:小島萌寧)

映画『夜明けのすべて』はレンタル配信中。

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