吉高由里子、『光る君へ』まひろは「自分を見ているよう」 超長期スパンの大河ドラマを駆け抜ける思い
クランクイン! / 2024年8月25日 20時46分
物語は後半に突入し、新たな展開を見せている大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合/毎週日曜20時ほか)。吉高由里子演じる主人公・まひろは紫式部として『源氏物語』の執筆を開始している。まひろにとって、そして吉高にとって、『源氏物語』とは何を意味するのか。男女格差が今とは比べ物にならないほど大きかった平安の世で、1人の自立した女性として生きている『光る君へ』のまひろに、彼女は何を思うのか。
■超長期スパンの現場での挑戦「10代の頃のような成長にワクワク」
2022年5月に『光る君へ』の制作発表がされてから、約2年3ヵ月。大河ドラマ主演という未知なる領域に当初は“パニック”だったと語る吉高だが、現在の心境に変化はあるのか。「1つの作品にこれだけ長く携わったことが朝ドラ(主演した連続テレビ小説『花子とアン』)以来で、朝ドラも10ヵ月なので、初めての1歩を今も継続中な日々です。生まれて初めて経験することって、大人になってからなかなか出会えないじゃないですか」。
まひろとして長い時間を過ごしてきた吉高に“成長”を感じるものを問うと、悩みながらも「書」だと明かしてくれた。書をしたためるシーンは作中で何度も登場しており、まひろというキャラクターのイメージを形作る大切なシーンでもある。「この作品が始まる半年以上前からコツコツ練習はしてきたんですが、やっぱり今見ると(初めは)目も当てられない字だったと思います(笑)。でも、初めはまひろも10代だったし。今は40代を演じていて、役と一緒に吉高も成長したねと(周囲から)言われている。向き合う時間だけちゃんと答えてくれるものだなと思いました」。
「まひろは仮名文字を書くことが多い人。でも道長(柄本佑)との文通には漢字を使ってみたり。仮名と漢字を両方やってきたので、(ここから)集大成が始まるなという感覚はありますね。『源氏物語』は漢字も仮名も両方出てきますし、現代ではあまり使われない変体仮名も出てきます」と、まひろの書について語る吉高。「不思議なのが、変体仮名が読めるようになってきちゃって。身についてるのか、こびりついちゃってるのか、どっちか分からないんですけど(笑)」とお茶目に語るも、その背後には並々ならぬ努力があったことを感じさせる。
「プレッシャーもあったし、分からないものを覚えていく楽しみもありました。できないものができていくという、10代の頃のような自分の成長が30代半ばで経験できるとは思ってもなかったので、すごくワクワクすることもあります」というが、書のシーンはやはり難しいようで「公開テストじゃないですけど、試験に受かるか受からないか公開されながらやってるみたいな感覚があります。ほんと怯えながらやってますね」と明かす。
「この役を演じる醍醐味(だいごみ)でもあると思うので、みんなが注目している部分。きっと書に対して視聴者の方の目線も違うと思いますし、やっぱりそこは緊張しますね」。柄本佑が「まさに紫式部」と驚嘆したという書のシーンだが、当の本人は特に紫式部を意識することはないという。「意識するも何も、会ったことないんだから! 日本で1番有名な歴史上の女性なのに、なんでこんなに情報ないの! って思う。頑張ってんの!(笑)」。
■“源氏物語的”事件に吉高由里子が思うこと「感性の豊かさを削っていくものなのかな……」
いよいよ『源氏物語』を書き始めたまひろだが、ここまでの展開の中に“源氏物語的”な雰囲気を感じている視聴者も多いだろう。このことについて、「(脚本の)大石静さんの思うツボですね」とニヤリ。中でも、第27回で再会したまひろと道長のシーンには、逢瀬の現場となった石山寺(滋賀県大津市)の公式SNSアカウントが反応するなど大きな反響を集めた。「大人が子どもに教えたくないというか、隠そうとしているリアルが、(まひろたちの)若い頃から行われていた。そういう時代だったんだとすごく驚くことがいっぱいありましたね」。お互いパートナーがいる2人。石山寺での逢瀬は、俗に言う“W不倫”状態に。『光る君へ』では、紫式部の娘は実は道長の子であるという驚きの展開となった。
「人間ですからね、そういうこともあるんじゃないかな(笑)」と受け止めたという吉高。「不倫、不倫ってこんなに騒がれる世の中になってしまったけれど、何事にもとらわれない自分があるべき姿を正義感で抑えて……そのルールは平和であるためだけれど、自分の感性の豊かさを削っていくものなのかなとも思ったりしちゃって。でも、感性がむき出しに先行していた時代で、それはそれで美しいんじゃないかなというふうには思います」と赤裸々な思いを語った。
■女性として、作家として……吉高由里子にとってまひろは「自分を見ているよう」
第32回では、帝のために書き始めた『源氏物語』を“自分のため”に書こうと変わっていったまひろ。その心境について、「帝のために書いた物語が偽物っぽく感じたんじゃないかな」と分析する。「自分の中での違和感というか、私じゃない感じ。それで、書き方や向き合い方を変えたら、自分が面白いと感じる物語を書きたいと思ったんでしょうね。その“書きたい”という気持ちにたどり着くのって、作家さんにとってすごく大変だと思うんです。書きたい気持ちがあっても、書きたいものが明確にならないと書けない。(まひろは)多分バチっと出会ったんじゃないかなと思います」。
作家としてのキャリアをスタートさせたまひろに、父・為時(岸谷五朗)は「お前が女子(おなご)であってよかった」と語りかける。それは、幼い頃から「お前が男であればなあ……」と言われ続けてきたまひろにとって「1番認めてもらいたかった人である父からやっと認められた」という大きなできごとであったと語ってくれた。「彼女(=まひろ)の居場所をやっと見つけた。お父さんの一言で、苦しかった今までが報われたんじゃないかな」。“女性である”ことで苦労もあった。しかし『源氏物語』を書くことができたのは“女性だったから”でもあるのではないか。「女性としての視点から見てるから、政をやっている人からは見られない状況や関係性もあったと思う。紫式部が男性だったらまた全然違う話になっていたと思うし、女性ならではのものなんじゃないかな」と思いを明かした。
男性優位社会の中、苦労しながらも物語をつづることで自己実現をはたしていくまひろ。良い相手のもとに早く嫁ぎ、跡継ぎを産むことが“女性の役割”だったような時代、彼女は特異な存在であったことが窺える。そんなまひろについて、吉高は「自分を見ているよう」だと語った。「女性って、『結婚して家庭に入るのか、仕事を選ぶのか』という波が一度来ると思うんですよね。結婚=幸せ、という考えに囚われないというか、そこが全ての幸せじゃないような感じがしていて。まひろも多分、(なかなか結婚しなかったのは)仕事が楽しいというのもあったと思うんです。そこに居場所があったからかもしれないですね」。
■ここからの『光る君へ』は「まいた種が花を咲かせていく」物語に
1年間に渡る長い放送も、いよいよ後半に突入している。『光る君へ』後半でも、吉高の“挑戦”は見られるのだろうか。「まひろとしての子どもとの向き合い方ですね。父である為時との関係性を振り返って、自分も(娘・賢子に)同じことしちゃってるという連鎖があると思います。子どもを育てるというのは初めてのことがいっぱいですからね。自分から生まれた子に対しての向き合い方に頭を悩まされてるところもあったかな」。
第31回では、まひろが『源氏物語』のアイデアを思いついた瞬間を美しくとらえた印象的なシーンがあった。吉高にとっても思い出深い撮影だったようで、「今までまひろが積み重ねてきたものが、そこで結実した。第2章が始まった、と。多分、初回から31回までは、自宅の外(=内裏の外)での経験が『源氏物語』に繋がっていくんだという前書きだったんじゃないかなと思って。『源氏物語』を読んでいない人も一緒に楽しめるようにまいた種だったのかな。ここから1つ1つ花を咲かせていく話になっていくのかと思います」と語る。
ここからの『光る君へ』について吉高は「衣装も居る場所も変わりましたし、まひろが毎日見ている風景もガラッと変わったので、今はもう自分で何か用意せずとも、第2章に押し出されたような感じがしています」と明かしてくれた。(取材・文:小島萌寧)
大河ドラマ『光る君へ』は、NHK総合にて毎週日曜20時ほか放送。
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